24 正ヒロインの疑問
「──殿下は何故ショコラ様に気持ちを伝えないのですか?ショコラ様はあの調子ですからはっきり具体的に言わないと伝わるどころか、気付いてすらもらえませんよ」
なんならあんなにフリュイを好いているならばプチフール公爵令嬢に婚約者の座を譲っても良いなんて言いそうだ。まぁ、あんなことをしでかした今となっては無理だろうけど。
「っ!私はそんなにわかりやすいだろうか、それとも──」
グランに聞いたのか。
思ってもみなかった質問に焦り、思わず振り返り睨みつけたが、グランは必死に首を左右に振って否定した。
兄と違いフリュイは思っていることを口に出したりはしない。ミルクが何故分かったのか。
(姉さんが関わると口に出さなくとも、感情がダダ漏れなんですよ。殿下は──)
グランはそう思っていたが、フリュイに届くことは無い。
「殿下は結構わかりやすいですよ?そして、ショコラ様はそれ以上に鈍いです。きっと前世の記憶がそうさせているのだと思います。とうに成人した女性だったと聞いています」
そうミルクは言った。
「そうか・・・知ってはいたが年齢を気にしたことはなかったな。私はショコラよりひとつ年上の筈なんだが、歯牙にもかけられてない──最悪弟と思われている気がしたのはそのせいか。
兄上にも気持ちを口に出せと言われたが、私は面と向かってショコラに弟にしか見えないと言われたら立ち直れそうにない」
後ろにはグランもいる。きっとそんな理由で姉を避けていたのですかと思っているに違いない。
なんで二つも年下の彼女にそんなことを吐露しているのかは自分でもわからないが、ミルクなら何かズバッと解決してくれそうな、背中を押してくれそうな気がしたのかもしれない。
「え、そんな理由からですか?」ミルクが呆れるように言った。
「簡単に言うが、兄上のように相手に嫌われているかもと思いながらも愛を囁き続けることなんて俺には出来ないよ」
一人称が私から俺に変わったことで、フリュイの本心なのだなと感じたミルクは仕方ないなぁと思った。
「先程も言いましたが殿下は『溺愛は満月の夜に』についてグラン様から聞かれているんですよね?」
「あぁ。ショコラの前世にあった物語で『俺と兄上が君を──不本意だが取り合う。そして最後に君に選ばれたどちらかが君を後ろから抱きしめる』とかいう話だろう?」
こちらも不本意なんですけど!ミルクはそう言い返したかったが今は心の中で叫ぶことで我慢した。
「あの手の物語は、ただ読んだり見たりするものではなく『ひろいん』になったつもりで一緒にドキドキしながら臨場感を味わうものなのだそうですよ」
ミルクが何を言いたいのか分からず、フリュイは口を挟まなかった。
「私、ドレス事件の後、気になってショコラ様に聞いたことがあるんです。」
──お二人のいう物語って”ひろいん”に感情移入するモノなんでしょう?だとしたらショコラ様は第一王子と第二王子、どちらの王子様とのハッピーエンドを想像したのですか?
フリュイとグランは息を飲んだ。
「気になったりしますか?──ショコラ様がなんと答えられたかはお教えできませんけどね」
そう言い残し、意地の悪い笑みを浮かべ、ミルクはサロンを退室した。