20 偽ヒロインの救出
「あなた、そこで一体なにをしているの? 」
ミルクが声をかけると
「あ!!もうパーティーが始まったから誰も来ないと思ったのに!あたしがここに閉じ込められていることは誰にも言わないでください!」
ビクッと体を震わせこちらを見たアイラはそう叫び、慌てて用具室の中に戻ろうとした。
拘束もされていない、施錠もされていないらしい・・・本当にその辺だったなと、先程のミルクの推理が的確すぎてこんな時だがグランは少し笑ってしまった。
ミルクは真面目な顔でアイラに話しかける。
「あなたがパーティー会場にいなかったから、探しに来たのよ」
「探しに?」
アイラはふとグランの顔を見ると「第二王子殿下の側近!」と叫び駆け寄った。
そして両腕をつかみ
「助けてください、あなたサントノーレ侯爵令嬢の弟さんですよね。侯爵令嬢が殿下と婚約破棄してくれないと私ずっと狙われてしまいます!」と、半泣きで階段落ちからここまでの経緯を話し出した。
「わかった。わかったから一緒にパーティー会場に戻ろう」
グランがどうどうと馬をなだめるかのようにアイラを落ち着かせようとするが、アイラはそんなことにも気付かず
「パーティー会場にはあの令嬢がいます!あたしも家族も殺されますっ!公爵の権力で男爵家なんて簡単に潰せるみたいなことを言われたもの!」と会場に行くのを拒んだ。
「公爵家?公爵家より権力のある王族が味方になってくれるんだから問題ないだろう」
グランが公爵家と聞いてそう言うと
「その王族からもサントノーレ侯爵令嬢に近付くなと脅されています~。あの王子様が婚約破棄なんかする筈ありません~。
私が自分をヒロインだと勘違いしたばかりに・・・サントノーレ侯爵令嬢が婚約破棄をしてくれないと私は一生命を狙われ続けるのです。いや、明日の朝にはこの世にいないかもしれません~」
と、とうとう座り込んで泣き出してしまった。
(いやいや、姉さんに殿下と婚約解消してくれと言った方が寿命は短くなると思うぞ)
──フリュイ殿下が見逃すわけがない。
グランはそう思ったが、口には出さなかった。
ミルクは泣いているアイラの両肩を持つと軽く揺すった。アイラが顔を上げ、ミルクの顔を見上げる。
「あなた、今の状況を変えたくないの?ずっと怯えて過ごすの?現状を変えたいのなら今動くべきよ。
この物語を終わらせるためにもパーティー会場に行くのよ。それに──」
満月を背にミルクは言った。
「ありきたりだけど、あなたの物語の『ひろいん』はあなただけなのよ」
「・・・あなた、カッコいいわね。あなたこそヒロインみたいだわ」
「いえ、人違いよ」
感動したようなアイラの言葉にスッと真顔になったミルクが食いぎみに否定した。
グランもミルクをかっこいいなと思った。
ミルクとグランが出ていった後、オリビア・プチフール公爵令嬢がショコラに近付いてきた。
私とシャルロット、それに対峙するプチフール公爵令嬢・・・
「ごきげんようサントノーレ侯爵令嬢。ブラウン男爵令嬢がおいでになっていないようですが、心当たりがおありなのではないですか?」
掛かったなと思った。
このタイミングで声を掛けてくるなんて、私が犯人ですと言っているようなものではないかしら。
だけどプチフール公爵令嬢?
私に罪を着せて何をしたいのかしら。目的が見えない。
しかも何故ブラウン男爵令嬢に危害を加える必要が?噂を利用するだけなら他に方法があったでしょうに。下手したら彼女は死んでいたかもしれないのよ?
ショコラはそんなことを考えていたが、知らぬオリビアは返事も待たずに続ける。
「ブラウン男爵令嬢はダンスレッスン用のドレスをズタズタにされた後から今まで話さなかったずぶ濡れになった件について話しだし、急にあなたの関与を否定しだしたとのこと。
更に先日はあなたのいた付近で階段から突き落とされたそうですわね。
今ブラウン男爵令嬢がおられないことにもあなたが関係しているのでは無くて? 」
プチフール公爵令嬢の言葉に二人を見守る何人かの生徒が息を飲んだ。