17 囚われた偽ヒロイン
待ちに待った学年末パーティー当日。
このパーティーは基本学園生のみの参加なのでエスコートなしでの入場も出来るが、学園外の人間も正式な婚約者に限り入場が認められている。
フリュイ殿下のエスコートでショコラが、王太子殿下のエスコートでシャルロットが入場すると、二人の王子殿下の登場で一気に会場が盛り上がった。
王太子殿下とシャルロットの距離がいつもより近い気がする。きっと上手くいっているのね。安心したわとショコラは思う。
みんなが思い思いの時間を過ごしているが、一部の学生は卒業してしまえば滅多に話をする機会が無くなる殿下方に一言声をかけていただこうと挨拶の列を作っていた。
そんな中、殿下と話をする最後のチャンスにアイラ・ブラウン男爵令嬢が姿を現さないのはおかしいのではと話題に上りはじめた。
第二王子殿下へのつきまといから始まり、ずぶ濡れ事件にドレス事件、階段での事故などこの一年で彼女はよく話題に上った。
その渦中のピンク色の髪の令嬢が見当たらないことに皆不信に思い始めた頃、何故か『ショコラが故意にアイラが参加できないようにしたのではないか』という噂が会場に広まりはじめたのだ。
丁度その頃、ショコラはシャルロットと護衛を兼ねてフリュイから命じられたグラン、そして弟を紹介するわと強引に引き留めたミルクと共に、殿下を囲む輪から離れて飲み物を片手に立ち話をしていた。
噂を耳にし、これはラストチャンスかしらとショコラが思っていると何を思ったのか「私、ブラウン男爵令嬢を探してきます」と、ミルクが会場を出て行ってしまった。
卒業生である殿下を置いて婚約者である自身が追うわけにはいかない。
「グラン、追ってちょうだい」
ミルクを心配したショコラが弟に言った。
グランは遠目にフリュイが頷いたのを確認し「姉さんは殿下の近くにいて」と言い残すと、ミルクの後を追って出ていった。
ミルクが会場を飛び出した頃、ブラウン男爵令嬢は両手両足を縛られ──もせず、鍵をかけられてすらいない用具室の中で一人恐怖と寒さで震えていた。
ここに連れてこられてどれくらい経ったのだろう。通常授業なら誰かが気付いてくれるだろうが、今日は学年末パーティー当日で授業は午前中までであった。卒業生でもない男爵令嬢が一人消えたくらいでは誰もなんとも思わないだろう。
会場の方から音楽が聞こえてきた。
とうとうパーティーが始まってしまったのだ。
「結構楽しみにしていたんだけどな」
今日の昼間、一人でいたところを突然後ろから指示されここに連れてこられた。
「男爵令嬢の分際でフリュイ殿下に色目なんか使うからよ。
階段から落とされた時にショコラがやったと証言しショコラと殿下を婚約破棄に追い込めたのであれば、あなたも学年末パーティーを楽しめたと言うのに・・・いい?今度こそショコラを社交界から消すために私の役に立つのよ!
パーティーが終わるまでここから動くことを許さないわ。公爵家の力をもってすれば、男爵家ごときすぐに潰すことが出来るの。侯爵家と公爵家。どちらに従うべきかわかるわよね。今度こそ犯人はショコラだと証言するのよ。
すべてが終わり、私が殿下の妃になった暁には私の侍女として取り立ててあげるから頑張りなさい」
その声は階段から落とされた時と言った。アイラが自分は足を滑らせたと証言している以上、それを知っているのは犯人のみだ。
階段から突き落とされたあの日、人混みの中で聞こえた声の主に違いない。
この人は人の命をなんとも思っていない人だ──。
家族へ危害を加えると脅され、あの時の恐怖を思いだし、アイラはパーティーに参加することも、逃げ帰ることも出来ず、ここから動けずにいたのだった。