13 階段落ちは突然に
いつもの読書室で話を聞いたショコラは落ち込んでいた。
「あぁ、第二のヒロインさん計画も頓挫かぁ。でもブラウン男爵令嬢には悪いことをしたわね」
シャルロットはショコラにあの時のフリュイ殿下の様子を細かくは伝えていない。
「俺のショコラ──」
正直フリュイ殿下があれほどショコラを想っているとは思っていなかった。
妃教育を終えているショコラは基本王宮には来ない。かといって、学園で会っているような気配もない。
婚約破棄を望むショコラの話ばかり聞いていたため、正直不仲という噂は本当なのだと思っていたくらいだ。
「そういえばショコラが第二王子殿下のことをどう思っているのかを聞いたことなかったですわね?どうしてそんなに婚約破棄をしたいのかしら」
この話は一時期ショコラに第二王子攻略を勧められていたミルクも気になったようで、読んでいた本から顔を上げこちらに視線を向けた。
「そうね。私たち五歳の頃のお茶会で殿下達の婚約者に決まったでしょう?
私、あの時既に前世の記憶がよみがえっていたのよ。殿下も周りの令嬢も微笑ましく見えてしまって・・・その延長って感じかしら。あの時は殿下も六歳だったしまだ幼かったでしょう?好きな人なんてコロコロ変わる年頃じゃない。殿下はまだ若いし政略結婚なんて気にせず、誰か好きな人を作ってその方と幸せになってくれたらと思っているのよ」
その「好きな人」が自分だとは全く考えていなさそうなショコラの様子に、シャルロットは少し──いや、かなりフリュイのことを気の毒に思った。
「ショコラは大人ですわね。一体何才だったのかしら?」
「さぁ、覚えてないけれど、少なくとも『アイラ』と言う名のお酒があることは知っていたわ」
「──それはお姉さんですわね」
出会った時からその目線で殿下を見ているのであれば、現在の自分より年上とはいえショコラが第二王子殿下を恋愛対象としてみることが出来ないのも仕方がないのだろうか。
それとも好みの問題とか?
でもこれだけは分かる。二人には圧倒的に会話が足りていない。
「ショコラはなぜ、王族専用サロンに顔を出さないの?」
「え?用事がないから?」
「・・・」
シャルロットは軽くため息をついた。
ショコラはともかく、一体なぜフリュイ殿下はあそこまでショコラを想っているのに逢瀬の機会を持とうとしないのか。
「あの──」
そこにミルクが入ってきた。こういう話しにミルクが口を挟むのは珍しい。
「私、以前から気になっていたのですがお二人のいう物語って『ひろいん』に感情移入するモノなんでしょう?だとしたら──」
ドレス事件より少し経ったある日、私は差出人のない手紙にランチタイムに人通りの多いカフェに向かう階段の上に来るよう呼び出された。
まさかこんな人通りのあるところで階段落ちイベントでもするつもりなのかしら。
ブラウン男爵令嬢は流れに任せる所はあっても証拠の手紙を残したり、こういう小細工をしたりはしない子だと思っているので今回は無関係と踏んでいる。
先日の事件の際、王太子殿下とフリュイ殿下に窘められたようだし──。
であれば第三者が介入してきたとか?
あ、実は『一人目』がこの学校の生徒でその仕業とか?
いや、別件の可能性もあるわよね──それなら一人で来たのは間違いだったかしら・・・
ちょっと軽率すぎたかしらと反省しつつも、行けば分かるかと歩を進めた。
するとその時
「きゃあああああああーーーっ」
私が目的の場所にたどり着く前に、ランチに向かう令息令嬢で盛り上がるカフェ前のホールに突如令嬢の悲鳴が響き渡った。
「人が落ちたぞ!」
場が騒然とする。
「ちょっと、通してくださる?!」
私が慌てて呼び出された場所に向かい下を見ると、階段中央の踊り場に身体を張ってなんとか受け止めたらしいグランとそれに協力し巻き込まれたらしい数人の令息が、ブラウン男爵令嬢と共に転がっていた。