にぃにに会いたい――
わぁああああああん!
《空》神!
いじわるちないでよぉ!
――おれをおそらからだちてよ!
にぃにのところにいきたい!
にぃにとあそびたい!
「なんで、だめなの?」
にぃにはこわくないのよ?
にぃにはわるくないのよ?
おれ、ちゃんと竜のかみさまのおちごとする!
《空》神のいうこときく!
だから、にぃにのところにいきたい!
おそらからだちて!
浮遊大陸の草原で寝そべり、まだ蒼穹がつづく空を見上げていると、ふと、あの当時のことを思い出す。
会いたい人ができた。
でも、会わせてもらえない。
雲から下に行くことを何より《空》神が禁じて、雲がまるで従うように足もとを雲海で覆ってしまい、大きな瞳にたくさんの涙を浮かべて流しながらどこを見やっても、空から下に行く術はなく、隙間さえ見つけることができなかった。
どこを見ても、どこを飛んでも果てしない蒼穹の空ばかり。
わぁああああああん!
《空》神!
いじわるちないでよぉ!
――おれをおそらからだちてよ!
にぃにのところにいきたい!
にぃにとあそびたい!
「にぃに~っ、にぃにぃ~!」
目を閉じると、思い出すのが辛いほど泣きじゃくっていた幼竜の声が聞こえてきて、地獄耳の最奥まで嫌なふうにこだまする。
思わず苛立って《風》神は舌打ちしかけたが、寝そべった自分の腕のなかには白の皇帝がいる。
白の皇帝は花冠を作ったり、歌ったりしているうちに遊び疲れたのか、何度かあくびをするようになって、「おいで」と言って手を伸ばすとこくりとうなずいて、《風》神の胸もとで横になるなりそのまま寝てしまったのだ。
その白の皇帝に、自分の醜い感情を露呈する舌打ちなど聞かせたくはない。
《風》神は辛うじて堪えたが、それでも思い出してしまうと幼竜の泣き声はいっかな耳から離れず、《風》神は胸を打たれる。
――この腕のなかには、永遠の忠誠と愛を誓った白の皇帝がいる。
この白き少年が自分の手もとにさえいれば、あとはもう何もいらない。
けれども……。
《風》神は自分でも聞こえるかどうかの小さな声で、それを口にしてしまう。
「にぃに……」
会いたいよ、と――。
白の皇帝を腕に抱きしめながら、《風》神は切なげに背を丸めた。