2日目
昨日とは違い、自ら起床し余裕を持って家を出る。
「あ!はるひ!今日は起きれたんだね〜」
「流石にな」
「そう言って〜ママに起こしてもらったんじゃないの〜?」
にやにやしてからかってくるので軽く小突くと「いたあい!」と大袈裟なリアクションをとってくる。それを無視してスタスタと歩き始めるといつもの膨れ顔でぽかぽかと叩いてくる。本人は可愛く叩いてるつもりなのか分からないが、ネネは意外と力が強い。痛い。
「みなさん、おはようございます」
おはようございまーすと入学2日目とは思えない程気だるげな返事をするクラスメイト達。隣のクラスからはとんでもない大声の挨拶が聞こえてきてるというのに。
「はい、入学したばっかりだけど今日から頑張りましょう」
あまり明るくないホームルームが終わり、僕は今日も夢美ちゃんを見つめる。家で読んだのか、来る途中で読んだのか、本の残りページがかなり減っていた。
昨日は気が付かなかったがよく見ると「僕の知らない世界」という本を読んでいた。今の僕を表したような題名の本だった。そうだ、今日図書室に行こう。あの本を借りて読めば、話しかけるきっかけくらいにはなるかもしれない。我ながら名案だ。題名を忘れまいと携帯にメモをとる。
「ねえ〜あんた」
ネネではない、女の声がした。ネネより少し低く、僕の嫌いな…
「ちょっと、聞いてる?」
ギャルだ。僕の隣にギャルがいる。
「あたし教科書忘れちゃったの、次の授業見せてくんね?」
「えっと…」
そういえば昨日隣の席だけ空いていた気がする。あまりに気とめていなかったが…まさかギャルだとは…。入学式から休んでた事からしてきっと問題児だ。そんな女と隣の席だなんて…。なんて不運なんだと少し転生を恨む。
「おねがい、ダメかな?」
「ダメってわけじゃ…あっ!」
「ん?どした?」
思わず声を出してしまった。このギャル、見たことがある。この特徴的な金髪に髪型、格好。SNSでこのイラストを何度も見たことがあるのだ。所謂ギャルゲーのキャラクターでかなり人気があった記憶がある。僕の少ないネットの友達も好きだと言っていた。確か…
「せいな…?」
「えっなんでうちの名前知ってんのー?」
しまった。めんどくさい絡み方をされそうなことを口走ってしまった。
「いや、えと…隣の席なので…?」
「なんかうれしーあんた名前は?」
「は、はるひです…」
「はるひ!よろしく!で、教科書見せてくんね?」
「あ、はい…どうぞ…」
「ありがとー!てか机くっつけるね、はるひも教科書ないと困るっしょ」
有無を言わさぬ勢いで聖奈の机と聖奈との距離が近くなる。急に距離を縮めてくるなんて、僕のことが好きなのか?でも僕はギャルが嫌いだ。悪いな。
「うち昨日風邪ひいちゃって入学式来れなくておわったーて思ってたんだけどはるひがいて良かったー」
聞いてもいないことをべらべらと話し続ける聖奈はビビって教科書を差し出し続ける僕のことなんて気にもとめていないようだ。
「か、風邪治って良かったですね…」
絞り出した会話をするための言葉はなんとも平凡でつまらないものだった。だが返事をした事に気を良くしたのか「それな!」と歯を見せて笑い一言返事をしてまたひとりで喋り始めた。そんな聖奈の独り言に適当に相槌をうっていると担任が戻ってきた。
入学して初めての授業はギャルと共に始まった。