"夢美"
季節は春。退屈で寝てしまいそうになる大人達の挨拶を乗り越え、何事もなく入学式が終了した。
入学式が終わりクラス分けが発表される。きっとこの世界の人間にとっては一大イベントなんだろうが、知り合いもSNSで事前に繋がっている友達もいないのでなんの感情もわかない。それは元の世界でも同じことだったが。
「はるひは何組だった?」
「1組」
「知ってる!一緒だったね!」
「おう」
別にクラスなんて何でも良かったが、ネネが喜んでいるならまあ、良かったかなと柄にもなくそう思った。
ネネと共にクラスへ向かう途中、何度かネネと僕"はるひ"の友達だという人に話しかけられた。ネネはSNSで入学式前から友達を作っており通り過ぎる女子生徒は全員友達かと思うくらい沢山の人に話しかけられていた。僕はと言うと中学が同じだったらしい男子生徒2、3人に声をかけられたが全く誰だか分からず少し声を上げる程度の適当な返事で流してしまった。
クラスにはもう何人か生徒がおり、早速グループができている様子だった。もちろん、そこに馴染めず昔の僕のように席に座るだけの生徒もいたが。
黒板には席順が張り出されそれに沿って座るようだった。しかしそもそも苗字も自分の名前の漢字も分からないので"神田 陽日"と書かれたおそらく自分であろう名前の席へ向かう。
だんだんと人が集まり僕の隣の席以外が埋まった頃、入学式で紹介されていた担任の教師がやってきた。
「山田典子です、1年間よろしくね」
山田典子と名乗る女教師は眼鏡をかけた長い髪の毛をひとつに結んだいかにも教師という風貌をしていた。しかし顔全体に影がかかっており顔が分からない。おそらくサブキャラだろう。
「じゃあ早速順番に自己紹介をお願いします。」
その言葉を合図に全員の目がいっせいにこちらを向く。
か行が一番最初とは何事か。そう思ったがこれは僕が主役のゲームだ。メインキャラの以外の自己紹介なんてあるわけが無い。
「神田陽日です、よろしくお願いします」
「ありがとう、よろしくね。次の人お願いします」
かた、と椅子がひかれる音がする。全員の視線がそちらへ向く。
「早乙女夢美です。」
ずっと求めていた声がする。鈴のような、澄んだ声。
「よろしくお願いします」
美しい黒髪を纏った彼女、"乙女坂夢美"となのる女は"夢子ちゃん"と瓜二つだった。
「ありがとう、よろしくね。次の人お願いします。」
教師の声がする。ずっと、"乙女坂夢美"の声を聞いていたいのに。
その後、ネネ含む何人かが自己紹介をしていた気がするが記憶はない。