00 アバンタイトル
少年の赤い瞳に映るモノ。
その異様に、恐れの感情が溢れ爆発しそうだった。
チビリそうだ! というか、チビっているかも!
脂汗が止まらない。
冷や汗が止まらない。
どちらも本当のことだ。
真っ暗だ。
そして、なんて巨大さだ。
真っ暗な霧の中で、少年は『獣』と対峙する。
何かの比喩表現ではない。
そこは『黒い霧』で満たされた空間であった。
これも何かの比喩表現ではない。
どちらも本当のことだ。
目の前には、人より巨大な『狼』が牙を向いて威嚇している。
視界の悪い、黒い霧の中。
相対するのは白い髪の少年と、白い髪の少女。
どこか似た顔立ちの少年と少女。
歳は幼子と言って良い少年。
歳は十歳程度の少女。
視界の効かない黒の中で、二人の赤い瞳は爛々と輝き、目の前の大狼を捉える。
少年は二本の短剣を構え、少女は巨大な鎌を肩に担いでいる。
だが大狼はそんな二人の武装にも、一顧だにしない強大さがあった。
「どうすんだよ!?」
怒鳴る少年の声は、隣に立つ少女にも確かに聞こえていた。
「ワシに言ってどーすんじゃい!」
返ってきたのは怒鳴り返す少女の声。
「策を考えるのは兄者の役目じゃろう!」
明らかに年上のはずの少女は少年を兄と呼んだ。
兄と呼ばれた少年は言い返せずに唸り声を上げる。その額には気温に寄らない汗が玉のように浮かんでいた。
何の解決策も示せない兄に、少女は再び怒鳴る。
「何とかせい! 灰魔術師じゃろうが!!」
灰魔術師。
正式名称を積道師と呼ぶが、世間一般では黒魔術師達が名付けた灰魔術師という名称で知られている。
操る魔術は灰魔術。
魔粒子と呼ばれる『呪われた魔力』『意味(忌み)付けされた魔力』を操る術者達。
対峙する大狼はその名に反応したのだろうか。
上げていた唸り声が一瞬止んだ。そしてその巨躯が一瞬沈み込む。
アッと、少年少女の五感がその変化を感じ取った次の瞬間、大狼は少年に向かって飛びかかってきた。
呆然と立ち尽くすしか術はなかったのか。
しょせん少年は卑凡なる平凡。存在不敗の影に過ぎない推定無在。
飛びかかる大狼の巨躯に対して、少年の小さな体は明らかに無力であった。
少年の赤い瞳。
少し垂れ目の人懐っこさを感じさせる瞳。本人はそれに反する気質なのだが、今は無関係で無力な要因。
瞳はまるで紅玉のように、美しい赤。
その宝石のような赤い瞳一杯に、迫りくる大狼の牙と爪が映っていた。
はっきりと、映っていた。
こちらトレーラー代わりになります。全体完成後差し替えるかも。