オーバー・ラブチョコレート
あの時、風邪を引いた時に学校の登校をやめてでも、風邪薬を買って持ってきてくれた、幼馴染の男の子が、あれから行き過ぎたぐらい好きだ。
それからと言うもの、恋愛小説ばっかり読むようになって、気づけば学園内で恋愛作品オタク、と呼ばれるようになってしまった。
そんな桃色な事を考えながら、私はテレビで流れる恋愛ドラマを横目に、魔法のように溶けた恋心とチョコレートを型に落とし込む。メルト、メルト。
明日はバレンタインの日で、しかも今日は日曜日ときた。これはいいチョコレートを作る、二度とない次元のチャンス! 鼻歌を奏でながらオーブンにまだ形になっていないチョコをゆっくりと置いた。るんるん。
気づけば恋愛ドラマも終わっていて、今度は「猫艦隊」の出るアニメーションが始まっていた。そういえば、もう夕暮れでそんな時間か、と思った。実はと言うと私も猫艦隊のファンで、いつも学校に持っていっている肩下げバッグにもそのキーホルダーを下げている。中々のお気に入り。
という、事を思い出しつつ、オーブンの稼働が終わった音が自宅のキッチンに響く。分厚い調理用の手袋で取り出すと、良い感じに温まっていた。私の恋心はもっと暖かい。
しっかりとハートマークだらけの箱にチョコレートを入れ、薄紅の大きなリボンを巻く。これで完璧!
しっかりと冷蔵庫に保存して、やる事やって今日は寝よう。
今朝見た夢の中で、猫艦隊が風邪薬とチョコレートを乱射する小説を読む夢を見た。何とも言えない気分になった。
そういえば、今日はバレンタインの日で、飛び跳ねながらスキップで登校している。去年はうっかりそれで川にチョコレートを放物線を描きながら落としてしまったので、そうならないよう、バッグの中に入れてから家を出た。えらい。
学校に着いてから、例の優しい彼が歩いている背中が見えた。何も考えずダイレクトお話アタック。
「よっ!」
「おう。おはよう」
きゃー! 好き! 急いで乱雑に荒れたバッグの中から頑張ってチョコレートの入った箱を取り出す。そして無理やり手渡す。喜んでくれるかな?
「あげる!」
「お、ありがとう。一緒に、教室入ろうか」
「えいいの!? 照れる!!!」
照れた反動で超全力ビンタを当てるも、どうにか許してくれた。優しい。まるで彼の頬が風邪を引いたように真っ赤に腫れてしまった。来年はしないように、気をつけようと思った。