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爆音勇者と徹夜魔王の攻防戦

作者: 簪狐

 その日も魔王城は平和であった。空は暗雲に覆われ、雷鳴が鳴り、よどんだ魔力があちこちでグルグルと渦を巻いている。いたって平和な、城にいる魔物にとっては大変心地のよい、いい日和であった。

 城を取り囲む雲の外はもう朝であるが、城の最上階で城主である魔王、ゼファルーン・シルバレナ・マロイドは大あくびをしていた。何日も徹夜で国政に関わる書類をさばいていたので眠いのだ。城の中はいつでも暗いので、灯りをともしておく必要がある。だが、眠い時にろうそくなど付けっぱなしにしていては火事の原因になる。仮眠をとろうと彼がろうそくを消し、ベッドに横になった瞬間だった。城を取り巻く暗雲の一部が魔王たちと敵対する存在の加護で切り裂かれた。そして、その加護をまとった人間が複数人、城の前に着地する。


「たのもー!!!!!!!!!!!!!!!!」


爆音だった。城の窓が割れる音が何重にも重なり、魔王の耳もキーンと耳鳴りを起こした。おそらく門番は気絶したであろうし、多分城中の窓は全部割れたし、城の中の被害も甚大だろう。城で働く者たちの耳や窓の破片による怪我の処置のために城の外から医者も呼ばなければなるまい。寝る前にやることが増えた。魔王はため息をついた。彼は、眠いと怒りっぽくなる。そして、眠りを好んでいる。では、そんな彼が寝ることを邪魔されてどうしたか。それはもう怒り心頭で、窓の破片が突き刺さり、主を窓の破片から守って無残な姿になったカーテンをシャッと開け、枠だけになった窓をバンッと蹴り開け、そして、魔法を使って音量を大きくしながら叫び返したのだ。


「じゃかあしいわボケェ!!!!!!いま何時だと思ってんだ寝ようとした瞬間に叫んでんじゃねぇこのすっとこどっこい!!!!!!」


魔王とは、『女神』と呼ばれる存在に敵対する者たちの王である。邪神と呼ばれることすらある。当然、ただの人間など手加減しても塵に還せる。では、なぜしなかったのか。怒りすぎて加減を間違え、城まで壊しそうだからであった。

 女神の加護をまとう人間たちが顔を上げる。その中でもひときわ女神の気配が濃い、金髪の美青年が魔王をしかと見据えた。


「僕はすっとこどっこいなどではない!!!!!!『勇者』ハルバドイド・ゴルデア・リッチャーマンだ!!!!!!」

「野郎の名前になんざ興味はねえよこのくそボケパツキン!!!!!」

「まだ続きがあるのに人の話をさえぎるんじゃない!!!!!失礼だと思わないのか!!!!!!」

「失礼はお前だよ人の家を訪問するなら事前に聞け話はそれからだろ!!!!!!」


そもそも魔王は寝不足であったのであまり頭が回っていない。そして、どうして何日も徹夜をする羽目になったのかと言えば、爆音の声で周りに被害を出しながら突き進んでくる人間たちによる被害(建物・家畜・住民その他)報告及びその被害から復興するための公共事業の承認などが重なったせいであった。つまり、元凶は今真下にいる金髪である。


「確かにそうだ!!!!すまない、礼を欠いていたのはこちらの様だ!!!!!いつ頃またこちらに来ればよろしいか!!!!!!!」


そして、その金髪はとても素直であった。バカという二文字が頭に着くほど素直であった。


「二度と来るな!!!!!!」

「しかし私はお前を倒さねばならぬのだ、『魔王』よ!!!!!!」

「決闘なら少なくとも一月は絶対無理だ、城がこのざまだし城下もてんやわんやだからな!!!!!!!」

「ではまた一月後に伺おう!!!!!!」

「なんでスケジュールを詰めようとするんだスケジュールは余裕をもって組め!!!!!!」


ぎゃあぎゃあと騒ぐ魔王と勇者を尻目に、気絶から回復した魔王城の門番と、勇者の仲間である魔女はこっそりと囁きあった。


「……素直すぎるというのも大変ですね」

「すみません、ウチの勇者が……」

「構いませんよ。私共の王の仕事を増やしたのがそこの愚者だと分かりましたので、後は陛下に血祭りにあげていただくだけです」

「……そうなれば全力であがくだけです。追い詰められた鼠は猫をも食い殺すのですから」


なぜ中心人物であるはずの魔王と勇者は子供じみた言い合いをしているのに私たちはこんなやり取りをしているのだろう。この時彼女たちの心境は一致していたのであった。


 魔王はなんとか一月ごとに勇者一行が魔王城を訪れる契約を勇者とかわし、彼らは帰っていった。魔王は安堵のため息をついたが、これから一月に一度大分残念なアレを相手取るのかと思うと少し憂鬱であった。

 だが、魔王は知らない。勇者と言葉による攻防戦という名の子供じみた言い合いを続け、時に協力するほどの仲になっていくことを。そして、その言い合いや、どたばたとした協力劇が後の世では『最後の勇者と賢魔王の攻防戦』と呼ばれ、吟遊詩人によって原型をとどめない程に脚色されて歌い継がれていることを。この時はまだ、知る由もない。

読了ありがとうございました。作者の気が向けば連載となります。

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