表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

第15話「二枚目」

 街路で尻餅をついた大男に、付き人2人が駆け寄って行った。

 が、そんな2人を差し置いて、奴は店内をじっと見つめ、ヘラヘラした口調を続ける。


「えっと。何してくれちゃってんの?」

「むかついたから、投げ飛ばした」

「俺が誰だか、知らねぇの?」

「知らない」


 ケハッハッと笑い声を上げた男は、脇に差していた物を掴み、コンさんへと突き出した。

 その熱による輪郭は、細長く反り返り、先端が鋭く尖っている。だけど、鉄のように冷たい。

 …ということは、あれは刃。コード国のナイフか。


「よーし、お前ら。反逆の罪で、あいつを処罰します」

「マズいですよ。この喧嘩が、トキタカさんにバレたら…」

「すぐに()りゃ、バレねぇよ」


 振りかざされた一刀を、コンさんは腰に下げていたナイフで受け止め、大振りで彼諸共弾き返す。しかし、男は体勢を崩さず、四方八方に刃を乱舞させた。

 その無数の切っ先をコンさんは見事に避けていく。

 その様は何だか痛快だった。流石と言ってはあれだが、ラボ職員総勢21名との交戦を、くぐり抜けただけの身のこなし。

 やっぱり、強い。


「やるじゃねぇか。だが、悪いが今のは小手調べ。トウリ=ヤジロウの本領はここからよ」


 ヤジロウと名乗る男は、その軽い口調とは違って、真っ直ぐ芯のある構えを取る。そして、先程よりも数段加速した猛撃を魅せる。

 一手一手を捌ききっていたコンさんの額に、薄らと汗が映る。

 そのうち、飛散る水滴は、深紅に染まり始めた。その無数の手数に、間違いなく押され始める。

 


 男と男の私闘に、最初は、迷惑さや心配の言葉を口にする通行人が多かった。

 だが、1人が立ち止まる。

 熱気に感化されたその通行人は、「トウリ屋!!」と音頭を取る。

 そして、1人、また1人と取り囲う見物客が増えていき、刀捌きに虜になった。

 確かに僕でもわかるほど、ヤジロウは無茶苦茶な振りをしていない。研ぎ澄まされた太刀の緩急と、繋がったような一連の動きには、美のようなものを感じた。


 まるで、踊っているみたいだ。


 そう感じた時には、「トウリ屋!!編み笠屋!!」の音頭があちこちで飛び交っていた。


「いよぉー…はぁっ!!!」


 興が乗ってきたヤジロウの一撃が、左上腕に()まり、コンさんは思わず膝を落とした。

 その付けられた切り傷は、熱を帯びて、視界から離れない。

 コンさん…


わぁぁぁぁぁ!!!!


 僕の眼差しとは裏腹、吹き上がった血潮に、一同は大盛り上がり。


 …なんで?なんで、人の血を見て、喜んでいるんだ?


「ちょっと!!もう、よしておくれよ!!」


 火種の根本原因であるセツさんが見かねて、人込みに割って入って行った。

 その姿にいてもたってもいられなくなった僕も、取り囲まれた場内へと入る。


「コンさん、大丈夫ですか?もう、止めましょう」

「おいおいおいー??女、子どもは下がってろよ。なぁー、皆???」


 煽られた野次馬たちは、扇動者をはやし立てる。


「この人は、関係無いじゃないか」

「そうでもねぇさ。コード武人(ぶじん)の生き様は、刀を抜いてから差すまでに表れる。狙った獲物の息の根止める、それまでは、納める鞘なんて有りはしない」


 おのずから出た拍手喝采に、セツさんの叫びは届かない。

 為す術無く、打ちひしがれている奥さんに、起き上がったコンさんはポンと肩に手を乗せる。


「セツ、俺は大丈夫」


 その挑戦者たる彼の行動に、会場は今一度盛り上がりを見せる。



「このゴーマを仕切るはぁーーー??」


 いつの間にか、飯処“節介”の向かいの店、その屋根の上に昇っていたヤジロウが、観衆に呼びかける。


「トウリ屋!!!」

「その家紋はぁーーー??」

「桜ぁ!!!」

「武士の頂、永久(とこしえ)の“天武(てんぶ)”はぁーーー??」

「トウリ屋ぁぁ!!!」

「名家トウリ屋、次代の当主たるはぁーーー??」

「トウリ=ヤジロウ!!!!!」


 突き上げた長刀に、町民の士気は最高潮に達する。都の熱気が一気に集結しているように思えた。


「花は桜木、人は武士よ。舞いて散りゆけ」


 掲げた刀はそのままに、ヤジロウは意志のある落石のように、コンさんの頭上に飛びかかる。


(とう)()一刀流 枝垂(しだ)れ桜”


 その瞬間、飛来したヤジロウに何かがぶつかり、木屑が舞った。それとともに、辺り一面に磯臭さと、その元凶の魚が散らばっている。

 ざわめく観衆が道を空けると、その先には押し車に手をかけた人の姿があった。


「おい、(あん)ちゃん。喧嘩はここいらで、仕舞いにしな」


 この声は、スケさん!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ