第14話「お節介のスケさん」
シアンスさんと別れ、僕たちはコード国の都ゴーマをさまよっていた。
「一体、どうするつもりなんですか?」
一悶着あった時のコンさんの口ぶりから察して、マシェリさんを探しに行くのだろうが、宛があまりにも無い。
「とにかく、話を聞けばいいでしょ」と彼は町行く人に声をかけ始めた。
それは無意味って話じゃなかったっけ?
無謀な彼に呆気にとられ、しばらくその様子を眺めていた。
コンさんの質問はあまりにも粗雑で、内容が伝わりづらいものだったため、ほとんど無視されていった。
埒が明かないので、内容を矯正させてもらって、再度挑戦した。
「赤髪で、身長は158cmくらい、色白で、可愛い女の子見かけませんでした?」
耳を傾けてくれるようにはなったが、良い答えは返ってこなかった。
これは途方も無い挑戦になりそうだ。
「おい、兄ちゃんら。見ない服装だな。どっから来た?」
声色から察するに、男性だ。この深みと渋さは、30くらいだろうか。
「ノマード国から来ました」
「へぇー、そうかい。知らない国だ。さっきから、何してんだい?」
「人を探していまして…」
「おっさんは?」と僕の応対を遮って、コンさんは質問をぶつけた。
「俺か?俺はスケってもんよ」
「俺はコンです。こっちはフィリー」
「おお、そうか。それより、人捜してるんだろ?俺も協力するぜ」
気の良いスケさんの協力により、3人体制で声かけをしたが、一向に情報は得られなかった。
それにしても、やっぱり天下のコード国の都。人の往来が激しいし、熱気に溢れている。
「一端、ここいらで休憩にしないか。腹減ってしょうがねぇ」
その提案に乗ると、スケさんは「着いてこい」とご飯屋さんへと先導してくれた。
大通りから2つ外れた路地を歩いてすぐのところに、“節介”と書かれた看板のお店があった。まだ、空いていないようで戸が閉まっていたが、スケさんは構わず入っていってしまった。
「おーい、帰ったぞ」というスケさんの声を聞きつけ、店の奥の方から甲高い声の主が出てきた。
「紹介する。こちら、かみさんのセツだ」
「あら、異国の方?よろしく」
「どうだ。別嬪だろ?セっちゃん、こいつらに飯頼めるか」
そう言われた奥さんは、店の奥の方へと戻っていく。
食事が出てくるまでの間、スケさんは色々な話をしてくれた。
このお店はお2人が経営している飲み屋ということ。奥さんとの馴れそめ。小さい頃のことなど、矢継ぎ早にテーマが変わっていった。
「ところで、兄ちゃん。それ、見えてんのかい?」
「あっ、はい。目の辺りに大きな傷がありまして。恥ずかしいので、このバンダナで隠しているんです」
「そうか……いや、ずっと気になっててさ。…えっと、盲なら手伝ってやらにゃ、思うてな」
しばらくして、戻ってきた奥さんは、何やら大皿を運んできた。
皿上には、この国の伝統料理が乗っているという。ゴーマの海で取れた魚を切り下ろし、その身をそのままいただく、“刺身”というものらしい。
つまり、お肉を生で食うようなものなのか。
少し抵抗感があったが、隣でパクパク食うコンさんの姿を見て、恐る恐る口に運んだ。
「美味しいですね」
「だろ?セっちゃんの料理は、国一よ」
「ただ切ったものを乗せただけよ」
仲睦まじい掛け合いに、何だか心地良い気持ちになった。
「ほら、あんた。そろそろ仕入れの時間でしょ、行っといで」
奥さんの言葉に、元気いっぱいのスケさんは2つ返事で店を後にした。
台所から出てきていた何も知らない奥さんに、僕たちの事情を説明した。
コンさんは炊いてもらった湯気立つお米を、ムシャムシャとかき込んでいる。
「じゃあ、見つからなかったんだ」
「はい。それにしても、何で協力してくれたんですかね?」
「お節介なのよ、あの人は。それ以上でも、それ以下でも無いわ」
意外と素っ気ないなぁ。
と思っていた矢先、ご飯を食し終えているコンさんが会話に参加してきた。
「大好きなんだね。スケのこと。そういう顔してる」
「うん。まぁね」
…そうか。そういうこともあるのか。
僕たちが談笑していると、ガラガラと店の戸が開く。
「邪魔するぜ」という少し高めの声は、スケさんのものでは無かった。背が高く細身の男とその脇の2人が、まだ開店していない店へと不躾にも入ってくる。
「また、あんたかい。帰んな」
突っぱねるセツさんだったが、ヘラヘラした口調の男は、一歩も引く素振りを見せない。
「そんな冷たいこと言わずに、俺の女になれよ。あんな小汚い奴に、あんたみたいな上玉はもったいねぇさ」
「やめときなよ。…セツはスケにゾッコンだよ?」
物怖じもせず、コンさんは口を挟みにいった。
「見た感じ、君じゃスケには適わないよ。君と違ってスケは…ぐはぁ!」
流暢に相手を罵ろうとしたコンさんに、男は一切の躊躇無く、みぞおちに拳の強打を入れる。
「うるせぇな、異国面。俺は、こいつと話してんだよ」と脅す声は、さっきまでとは別人だった。
「…なぁ、俺の女になりゃ、ゴーマ1の暮らしを約束するぜ。卑しい身分から、おさらばでき…」
目の前にいたはずの男は、宙を舞い、そのまま店の戸を破壊し、外に放り投げられた。
「コンさん!」
「ごめん、むかついちゃった」