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第13話「ドライブインコード国」

 ガタガタと悪路を進み、車に揺られること数時間。

 最短距離で考えるならば、コード国へは、1時間あまりで到着する。しかし、あくまで最短距離。その行く手を塞ぐのが、国境崖。

 コード国の領地とノマード族の住む森を境に、大きな崖がある。見上げた先にあるのがかの国だが、車で進めるはずもない。

 まぁしかし、地理的に見ても、上下関係があるとは、随分できた話だ。


 広大に連なる国境崖を避けていくように進むと、自ずと時間がかかるが、なだらかな坂が俺たちを迎え、登り切った先に見えるのが、大陸きっての有力国家。

 まず構えるは、“呻去(シンサル)関所”と達筆な字の掘られた大きな関門。


「待たれよ」と関所内から、大柄で筋肉質の男が出てきた。

露出した太股から下と緩く纏った装束は、小汚い。こんな大国の脇の脇にいるんだから、まぁこんなものか。


「…絡繰(からくり)。何用で?」

「貴国の執権殿に謁見する者だ。ノマード国のラボ職長」

「…あぁ、早馬にて、話は聞いている。一応、手荷物を確認させてもらおうか」


 やる気のなさそうな彼は、程よく手を抜きながら、俺自身と車の中を見て回った。

 この身1つでやってきているから、無用な心配はしておらず、ふんぞり返っていると、門番は「何だ、これは」と車後方部に指を差している。


 ん?何か、乗せっぱなしにしている物があったか?…ってっ!!


 後部座席よりもすぐ後ろで、息を止めたコンとフィリーが慌てふためく表情をしていた。


「密入国は、御法度ですよ」

「あっ、いや、これはその…職員です、ウチの」

「ここ、座っちゃいけないの?」

「彼ら、狭い場所が好きでして…すっかり、ここに乗せたの忘れていました、アハハ」


 苦し紛れの誤魔化しと乾いた笑いに、流石に怪訝そうだったが、何とか関所を通過することができた。


「って、おい!!何考えてんだ、お前ら!!」

「いやぁ、説得が無駄だったから、車に忍び込んでたんだけど、まさか気づかないとは思わなくって」


 ヘラヘラと嘲笑するこいつの態度に、危うく無意味にも殺しかけそうになった。

 その横に座る少年は、いつにもまして大人しくしていた。

 フィリーまで、何考えてんだ、全く。


「…ここまで来て引き返す言い訳も時間も無い。絶対にこの車から出るんじゃねぇぞ。」

「なんで?俺もムリョウ?に話聞きたいんだけど」

「言いわけ無いだろ。謁見を許されているのは、俺1人だけだ」

「んー、じゃあ、町へ探しに出るっていうのは?二手に分かれた方がいいんじゃ…」

「ダメだ!黙って、俺に従っとけよ、アホンダラ!」


 鬱憤を吐き出した怒号は、車内の空気を一気に張り詰めさせた。

 その凍てつきに気づく素振りを見せず、いやそれがわかっているからかもしれないが、彼はそっと口を開く。


「何か、勘違いしているみたいだけどさ、俺を縛る権利なんて、シアンスには無いでしょ。俺は一刻も早く、マシェリに会いたいんだ」


 確かに、契約内容は彼女の奪還と引き換えに、研究へ協力すること。

 こいつが俺の傀儡(くぐつ)となる義務は無い。

 しかし、こいつの存在を掴まれることは、是が非でも避けたい。O-gunの保有者がいるとなると、俺の奪還作戦の前提がひっくり返る。


「…わかった。だが、条件がある。絶対に、その頭に付いたのを他人に見せるな。周りと同じ、人間のように振る舞え」

「んんー、でも、どうやるの?見えちゃうじゃん。」

「帽子でも、編み笠でも、好きに被れば良いだろう。それまでは、…そこの鞄でも被っとけ。」


 言われるがまま、コンは鞄を頭に乗せる。

 最初の門番に見られはしたが、きっと下衆。多分、大丈夫だろう。


「…フィリー。お前も、隠せよ。バンダナは持っているんだろうな?…それと」


 そして、俺は言い逃れる金言を授け、2人の乗客を乗せ、引き続きコード国を進んだ。



 コード国は、12の町で構成された国家。

 入国時のシンサルは、最南端に位置している。その町を東に抜けると、“未飛(ビヒ)(ツジ)関所”に差し掛かる。今度はきちんとした同乗者として通過し、更に東へ進む。門番が頭に鞄を乗せるコンの姿にひっかかり、頭が弱くたんこぶ持ちと言い逃れると、編み笠を授けてくれた。

 ここまで、およそ2時間強の道のりを超えると、目に入るは格段と巨大な門。

 “(ゴー)()関所”。コード国で最も栄えた都町(みやこまち)

 幽玄かつ荘厳にそびえ立つ大門は然り、門番も身なりの整った出で立ちと厳粛な態度。これから立ち入る場所は、一瞥で格別なものと認識できる。


 門番が入場を取り計らうと、「そちらの方々は如何様になされる」と問う。


「職員です。滅多に無い機会ですから、町を少し漫遊させたいと思いまして」


 快く承諾してくれたため、心許ないが2人と別れることになった。



 1人、都を突き進む俺は、大天守を備えた城へと導かれた。

 四方に取り囲まれた金閣に全くひけの取らない、まさに国の繁栄の象徴たる趣だった。

 場内へと誘われ、天守閣を上へ上へと昇っていく。途中、好奇心で外の景色をチラリと見てみると、その一瞥で心奪われ、遙かに望む山峰と大河、美しきコード国の家屋の数々に虜になった。

 最上部まで歩みを進めると、「待たれ」と言った案内役が、さも大きな引き戸、確か(ふすま)を開ける。


 短く整えられた黒髪と対照的に、細長く結わえられた髭。その何重にも着重ねた装束が、重厚と言える貫禄を醸し出している。


この人が、コード国執権、ジョウシャク=ムリョウ。


「ノマード国、LAB-Roverの職長であります、シアンス=クロロホルムと申します。本日は、このような時間をいただき、誠に光栄でございます」


 落とした頭でわからないが、きっとその鋭い目つきで、見定めているに違いない。品評と思えるその静寂は、歯がゆく永遠に感じる。


(おもて)を上げよ」という言葉に従うと、入室した時とは別人、かなり温和な表情だった。


「異国の者ながら、立派な挨拶だ。さぞ、難儀であったろう?」

「はぁ。外交担当の者に(しつけ)を受けました。これ以降は、無理かと」


 ムリョウ様は大口を開け、ハッハッと笑い飛ばす。


「無理はするな。私も、君とは1度話をしたいと思っていたんだ。気を柔らかにしてくれ」


 俺は深く息を吸い、肩の力をスッと落とした。

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