アユミ
「鋭斗!第三手術室!」
「はいよ」
父親の大声を受けて容体が悪くならないように気を付けながら雀を運ぶ。
「容体はどうなんだ?」
父親は随分と事態を重く見ているようだが鋭斗にはわかっていた。
「特に問題はないよ。銃弾さえ抜いてしまえば後は縫合して寝かせておけばいい。このぐらいならおれにもできるから父さんは俺のできないIVHの準備をしてくれない?」
「わかった。任せたぞ」
父親は鋭斗のことを信頼しきっていることと何よりも自分の息子が異常に賢いということをよく理解しているため自分には気づいていない何かを気づいていると判断しIVHの準備をしに行った。父親の退出を確認すると静かに小さなメスを取り出す
「さて、興味深いね。父さんがいたらサンプルが取れねぇからなぁ。」
鋭斗は異様に知識が高く未だ小学四年生だというのに既に世界的にも名の売れた顔を出していない複数の学問に精通する学者である。生物学においてこのような存在はあり得ないため鋭斗には凄まじい興味をひかれていた。横に置いてある医療用の台車から鉤をいくつかを取り出し背中にある小さな傷口を開いたままに維持しピンセットで銃弾を取り出す。
「雀がこんな大きな銃弾受けて飛べるわけねぇよ」
鉤を外しすべてを縫合しようとした時だった
「..............?こりゃあ生物に許された力じゃないなぁ」
銃弾と鉤を取り除いた瞬間筋肉組織同士の繊維が突然絡み合い始めそれがたった一つの繊維となり傷がふさがっていったのである。傷があったところには血のにじんだ羽毛以外は残っておらず傷跡すら残っていなかった。
「だれが作ったんだこの生物。これだけの医学技術への応用ができる生物の力などどこの学会でも聞いたことないぞ。学者として川上にも置けないな」
取り出していた縫合用の糸や針を台車に戻し消毒済みの空の注射器を取り出し胸元から採血、保管機に血液を移した。雀を持ちあげて手術室を出た
「サンプルをありがとよ」
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「父さん。今って個別病室空いてる?」
IVHの準備を済ませたのか、病室の外にあるベンチに座ってスマホを触っていた。
「おお、終わったか。雀だろ?個別病室なんかいるか?」
「................ただの雀じゃないから俺が興味持ったんでしょうが。まぁ説明不足だったね。その感じだとIVHも鳥用にしか準備してなかったでしょ」
「え、なに。ただの鳥じゃなかったのか?じゃあ二階の部屋にしといてくれ」
怪訝そうにしながらも父親が場所を指定し機材室へと向かった。恐らくIVHの準備をしに行ったのだろう。父親と入れ替わるように星がやってきた。
「まだ起きてたのか?もう11時だぞ?早く寝ないとダメだだぞ」
「だってなんか気になって眠れないんだもん!雀さんは大丈夫?」
ピンク色のパジャマを着て目を擦りながら雀の心配をしている。静かに起こさないように雀を見せる。
「ケガは完治したよ。雀さんも大丈夫。お母さんは?」
「一緒に寝ようとしてたんだけどもう寝ちゃった」
「ちゃんと寝かしつけろよ......」
とは言いながらも母親は血を一滴でも見たら、何なら匂いを嗅いだだけでも気分を悪くしていたので今日みたいな凄惨なものを見たので仕方がない。吐いたりしてないだけましなモノであろう。
「雀さんが元気ならいいの。おやすみ。お兄ちゃん。」
機嫌が良さそうに部屋へと戻っていった。
「俺もさっさとこいつを寝かせて寝ようかね」
寝かせようと階段に足をかけた。
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陽光が差し込み余りの眩しさにメラの意識は浮上した。
「ん............んぅ.........?」
眉を擦ろうとするがまずそもそも腕が届かないことに気付く
「おれ、変化したまま寝て.......」
しかし睡眠している背中側が明らかに柔らかいのに気づき飛び起きた。と言っても雀の姿なので立ち上がったのほうが正しいのかもしれないが。
「な、なんで..........?」
起き上がって周りを見るとそれは真っ白な部屋に扉とベッドの上方に大きな格子付きの窓があった。
もしかして........とメラの頭を最悪の可能性がよぎる。恐怖の中にも戦闘力を行使するために体をヒト型に変化させる。枕元に置かれていた病室用の服を着用する。どうにも足音がしていて部屋に近づいてきていることにメラは気づいていた。足音がドアの前で止まった。メラは内開きのドアの裏側に隠れて開くのを待つ。開くとちいさな女の子が入ってきた。女の子が近くにある机に持っていたお盆を置いた瞬間後ろからメラが襲い掛かった。右手を腹に左手を後ろから目元に回し羽交い絞めにする。
「わっっ!えっ!?なんでぇ⁉」
少女の同様の声に聞き覚えがあったメラが手を放して数歩下がる。
「え?」
「げ、元気そうだね。えっと、なんでいるの?」
「こっちこそ聞きたい.........というかここどこ?」
女の子の困惑を受けたメラも困惑の声を上げる。お互いが混乱してるときであった。
「やっぱり君か.......薬を持ってきた少女を強姦しようとするとは..........貴様.........」
少し怒りをにじませている兄らしき人が近づいてきた。
「ご、ごめんなさいっ!ところでごう......かん........?って何ですか?」
「............いや、何でもない」
「?」
怒りからばつの悪そうな顔を変えた後星に向き直る。
「お、お兄ちゃん。この人何でここにいるの?」
「こいつが雀さんの本当の姿だよ。動物園で体が変化していたのと同じような仕組みなんだろうね。ちょっと質量の観点から興味深いけど」
「目が......こわい..........」
興味津々のギラギラの目を受けられてメラは後ずさる。そんな様子もスルーして星はメラに詰め寄る
「お返事ちょうだい!」
「えぇと......?返事..........?」
あまりにも突拍子もなくメラは困惑の声を上げる。
「へんじ!」
「へんじって...........なんの?...............?」
「わすれたの........?ひどいっ!」
「ええぇ」
説明などが一切ないためメラは動揺しっぱなしである。それを見かねたのか鋭斗が声を上げる。
「まぁまぁ....。とにかくもう体は大丈夫かい?」
「え.....ぇ。僕何かあったんですか?昨日逃げ出してからあんまり記憶がなくて..........」
銃弾の嵐の中から抜け出しその後傷を癒そうとしても治らないことに焦って飛び立とうとしたあたりから記憶がない。
「ああ、銃弾は摘出した。その後の傷は君の体が勝手に治したよ。その感じなら元気そうだね。食べ物の準備をしてくるから後で来てくれないかい?星も話があるのだろう?」
「うん!」
ぷりぷりと怒る星を置いてお兄さんはおりていった。
「えーと、それで返事って何のかな?えと、」
「あかり!お星さまの星と書いてあかりだよ!頭いいでしょー!」
胸を張って笑顔を浮かべて名乗る
「あかりちゃん?」
「うん!返事は返事だよ!約束したでしょ!あの時のおてて合わせたのっていいよってことじゃないの!?」
手を合わせるという言葉でメラはようやく思い出した。鈍感にもほどがある。
「もしかしてずっと一緒にいようっていう約束?」
「結婚ね!おへんじくーださい!」
「あ、えぇっと........」
メラがどうしようかと悩んでいる時だった。後ろから凄まじい圧力とともにドスのきいた声がした
「小僧、貴様親に挨拶もなく婚約とはずいぶんと偉くなったもんだな」
「⁉」
気付かないうちに後ろに回られたこととあまりにもその顔が恐ろしくてメラは久しぶりに恐怖を感じた。
「あ、お父さん」
「おとうさんッ⁉」
「おとうさんとよぶなぁ!こわっぱがぁ!」
「ひっ」
恫喝の声が大きすぎてメラの体がびりびりと震える。体がこわばり本能が騒ぎ出していた。少し警戒を強めた時だった
「とうさん、落ち着け。少年、飯ができたぞ。全く来ないなぁと思ったら父さんのせいか。あんま干渉すると星に嫌われるぞ。もう6歳なんだから」
「バカタレ!就学前の娘を誰かに渡せるか!」
「あのねお父さん、お兄ちゃん。そういう問題じゃないと思うの私」
突然の家族漫才にメラは困惑が止まらなかった。
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「あらぁ?こんな美少年ウチに居たかしら?」
目を真ん丸として冗談のようなことを言っている20代ほどの柔らかくふわふわとした母性に溢れる女性と目が合う。
「かあさん。昨日説明したでしょう。昨日の雀だってば」
「あら。それがこの子なのぉ~?可愛いお顔でなかなかすごいことしたのねぇ~」
「昨日のとうさんの発言を母さんは笑えないよ。ほら手前の席に座って」
鋭斗に促されるのに従って食事が並ぶ大きな机の前にある椅子の前に座る。
「じゃあ、私とーなり!」
「じゃあパパがそのとーなり!」
「や!」
「えぇ⁉」
「いいからたべるわよ~」
わちゃわちゃと騒がしい団欒に困惑が止まらないメラであった。
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「ところでお名前なんて言うの?」
「しらんかったんかい」
「なんで関西弁なの~?」
メラの名前を知らなかったことを知らなかった鋭斗が驚く。
「だってなんだかんだで聞けなかったんだもん。あんときもお兄ちゃんのせいで邪魔されたし........」
「それは......何とも言えんが........」
苦々しい顔をしている鋭斗を無視して星が声を上げる。
「ね!お名前教えて!」
「な、なまえ?ごめんなさい僕コードネーム?みたいなのしかなくて。」
「そのあたりの話はご飯を食べてからにしようか。」
鋭斗の一言を受け星もおとなしく食事を再開した。
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「さて、少しお話ししようか」
鋭斗と父親に連れられてメラは診療室の様な部屋に通された。
「えと、なんでしょうか..........」
丸椅子に座ったメラの目を見ながら父親が問いかける。
「君は何だい?明らかに人間ではないだろう。はっきり言って君という存在は生物として存在してはいけないのだ。退化ともいえる力も進化と言える力も持ち筋肉の密度も明らかに生物の持てるものじゃない。」
「えと、僕は..........」
「無理して話してくれとは言わないがやはり気になるからね。」
「.............人造人間です。」
「.....?」
キョトンとした顔をしている父親を鋭斗が見かねる。
「すまない。あまりにもSFじみた内容だったもので親父が壊れてしまった。体に機械的な部分もないしゲノム編集などで生み出されたのかな?それにしても君はとても強い。しかしなぜ逃げだした?国営防衛研究所から」
その施設の名を聞いてメラは目を見開く。
「おや、違うかったかな?個人的に可能性としてあるのはそこぐらいだと思ったんだけどね」
「い、いえ。そこなんですけど.........なんでわかったのですか?」
父瀞に聞かされていた訳ではないが流石にメラも自分のいる場所がおかしく、秘密裏な場所であると言う事は薄々気づいていた。しかしそれを探っている人を全て抹殺させられてきたメラとしてはなぜ分かったのかわからない。
「あそこは黒いうわさが絶えないんだよねぇ。まあそれはいいとして君はどうして逃げてきたの?これ程の成功例だというのに酷い扱いでも受けたのかい?」
「.............いえ、僕は中でも落ちぶれていましたし.......それで、仲間と一緒に逃げ出してきたのですが.....」
苦しそうな顔になったメラを見て何かを悟ったのか鋭斗が制止した。
「そのぐらいでいいよ。ところで体調のほうはどうだい?昨日手術したのに割と元気だけど」
「と、特には体調に問題はないですよ。手厚い治療をありがとうございました。」
メラからの感謝を受けた鋭斗はそのまま安静にするようにと言った後父親を置いて出ていった。
「…さて、君はこの後どうするんだい?」
突然すぎる質問にメラは動揺しながらも落ち着いて返す
「え、と。どうしようとかはないですけどすぐに出ていきますよ?迷惑かけたくないですし..........」
うつ向きがちなそのメラの姿を見て父親もまた別の提案をした。
「.......いや。出ていく必要はない。娘も君のことを気に入っているんだ。うちで面倒を見てやる。それでも出ていきたいかい?」
父親としても話してはいないメリットがあるためできればこの提案を受けてほしいものだった