ダイショウ
先ほど指を向けられた方角へと羽を羽ばたかせ進んでいく。数分ほど飛んでいると目の前に大きな開けた場所が見えてくる。そこにいるたくさんの人と見たことない動物たちを見つけてそこに急降下していった。
「お兄ちゃん。お空からなんか来てるよ?」
「んー? 鳥さんじゃないか?」
家族と動物園に入園しおよそ30分ほど堪能しているとき、突然白いワンピースに身を包み身の丈に合ってない白い大きな帽子をかぶった最愛の妹がそんなことを言い出した。
空に指を向ける妹をほほえましく思いながらも空を指す指をたどり空を見上げると
「なんだ......?あれ?」
明らかにそれは鳥ではない。まるで人の体に羽が生えたような.........
「い、いったんはなれよう、とうさん」
妹の手を引いたまま父親に兄らしき子供が進言したとき。地面へとメラが直地した。
着地の体制を碌にとらずに降り立ったメラの体は地面に叩きつけられ衝撃で折れた骨で肉が裂け衣服とも居ぬような布が赤色ににじむ。
「獣の、におい、.......もっと強く......!」
起き上がったメラの鼻腔を山の中よりきつい獣のにおいが擽る。
「あれは......人じゃない!化け物だァ!!」
民衆の誰かがメラがおりてきてから保たれていた静寂を誰かが破った。この一声とともに民衆が雲の子を散らすように逃げ回り始めた。パニック状態となった民衆に巻き込まれはぐれている者すらいる。その喧騒の中を無視して静かにメラは歩き出す。目の前にある檻へと向かって。
時計台の横にある大きなピンク色の鳥を見る。一際きついにおいを発しているが戦闘能力は感じない。しかしメラにとってはそれがなんという動物なのかもわからないので片っ端からくらっていく。桃色の鳥の悲痛な叫びを聞きながらメラは無視して成鳥のみを食らっていく。食べれば食べるほどメラの体は肥大化しその体からは人間らしさが抜けていく。体は大きくなり体を毛皮が多い目は赤くまるでハヤブサのような瞳になる。口は大きな牙が生えフードのようにメラに後ろから覆いかぶさるように後頭部から熊の頭が生えていた。ひとしきり体を巨大化させたメラは体に満足した。
そうして辺りを見回すとちいさな施設が目に入る。
「あれ``......ば......ば..........じゅ..........ルイ..........ガン.....?ヤゴ.........ゼイ......ガン...........?」
もはや理性を宿さぬその目は生き物のことを喰って力を手に入れるための肉塊としか映さない。その剛腕で目の前にある大きな施設の屋根を弾き飛ばし中にいた羽虫のような黒いものや猿のような獣、長い紐の様な動物や巨大なトカゲの様な動物を抵抗も無視して喰らいまたもメラの体は肥大化していく。
「モット..........モットダ..........」
その後大きな口のでかい肥大した体や一本の角を持った牛のようなもの、首の長いデカい動物、デカい犬や斑の猫、大きな鳥などさんざん食らった。メラの体はおよそ縦四メートル横3メートル弱にまで肥大化した。喰った獲物の特徴が様々に反映されたその体は明らかに人とは見えず人間らしいところは体を全体的に見た時心臓部にあたる場所にある顔。その左上部分までも肉塊に包まれ生を感じるのはその赤い目だけだった。そこらじゅうの檻を自らの体格により壊していたメラはのそのそと進み芝へと踏み込んでいく。その先にいたのは一際他の動物とは一線を画すたてがみを持った大きな猫、シマシマの巨大な猫、先ほども食らった斑模様の猫の三匹が威嚇しながらこちらを見ている。
「オマエラ...........モ..........グウ...................」
威嚇にも気を留めず近づいてくるメラに怒りを見せた大きな猫が大きな咆哮をメラに浴びせる。耳にも肌にも振動が響く。
「ヴぁぁっぁぁっぁぁあっっ!」
メラの何の動物の声なのか、どこから出ているのかすらわからない大きな咆哮が響き猫たちが猛獣となる。
威厳を見せつける巨猫が左わきを凄まじい速度で斑の猛獣が走り抜ける。メラが認識し右腕を振り下ろしたが今までメラは小さな体で戦ってきたということもあり敵を捕らえられずあっさりと飛び上がってよけられる。肥大化したメラの体を蹴り猛獣はメラの巨体の首にあたる場所にその鋭い牙を突き立てる。メラがその斑の猛獣に気を取られた瞬間に今度はシマシマの猛獣が飛びついてくる。芝の中を音もなく進んでいた縦じま模様の猛獣はメラの背中側に回り飛びつき爪を立て牙を差し込み喰らい始める。メラの肉を引きちぎりメラの攻撃をかいくぐりながら素早く動いて攻撃しているがだんだんと猛獣たちの勢いが減り始める。だんだんと動きが鈍くなっていく。数分も経てば痙攣と泡吹きの症状を起こし倒れだした。死んだ猛獣たちを見て静かにその体を掴み巨体の上部にある大きな口に放り込んでいった。
今だメラを理性的な目で、かつ警戒を怠らない視線を向けるその猛獣を無視してメラは最後の一匹と襲い掛かる。その巨大な口を開き丸のみにしようとしたが猛獣は冷静に見切り飛び下がり、その後即飛び上がり背に回り込む。直線的な突進を行ったメラの背中に回った猛獣は通り抜けるのとともに背中を爪切り裂いた。ぶんぶんとメラが振り回す腕をしゃがんで下がって回避しながらメラの隙を見極める。メラが怒りに任せて大きく右腕を振り下ろした。しかし猛獣はこの剛腕を後ろ足で蹴る。その後メラにとって右側から腕の陰に隠れて回り込み見失ったメラが見せた隙を猛獣は見逃さずメラの顔から想定される心臓部に爪を深々と叩き込んだ。メラの心臓に刺さったその爪はあまりに正確だったためメラの意識が失われる。気を失ったことに気づいた猛獣はとっさに飛びずさり倒れこんでくるメラを避けじっと見つめている。するとメラの肉塊がドロドロに泡を上げながら解け始めた。気体が抜けていく音が鳴り響き凄まじい異臭が蔓延する。その巨体の中から体から肉液をたらしながら起き上がった本来の大きさに戻ったメラは目の前にいる猛獣をいまだに赤く理性のともっていない目を向ける。
「オマエ..........ツヨイ........カシコイ.............ホシい............」
猛獣のことをもはやメラは自分以下の存在と思っていない。それどころか上位の存在であるとすら思っている。だがだからこそメラは喰らいたいと考える。その欲望に抑えが効かなくなったメラはその膨大な生物たちの遺伝子情報や良質なたんぱく質によって得られた高すぎる筋力によって一瞬で猛獣の前に移動する。猛獣もまさかこんな速度で動くとは想定しておらず遅れて避けようとする。しかし寧ろ全力で前足で地面を蹴ったため体の前面を晒す事となりメラの拳がど真ん中に叩き込まれて猛獣は絶命した。ついに手に入れた力に満足したのか、もしくはもう得られるものが無くなったからかメラの目に少しずつ白い部分が返ってきた。
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少しずつ目の前にかかっていた赤い靄が開けメラは目を見張る。檻も服も道も赤く染まり溝には薄い赤色の水が流れている。自分がしたこととはいえここまでの大惨事になるなんて思っていなかった。何匹の動物を食い殺しただろうか。明らかに不要な殺生もした。
しかし生まれたのは達成感だった。自分は最強になったとそう錯覚するほどの高揚感だった。自らの体が認識する範囲はすさまじく数キロ先の雨の気配から付近の人の呼吸音や蛇の舌を鳴らす音、果ては目の仕組みを少し組み替えればくらった生物の遺骸が冷めていくのを感じる。付近を飛び回る羽虫の羽の細動すら見える。自分の今までとは明らかに違うポテンシャルにメラは興奮してもいたのだ。体に疲労感が残っているため戦いは避けたいが万全ならば他の然人すら一方的に蹂躙できるほどの気がする。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!」
大きな叫び声にメラは驚き視線を向ける。大きな毒蛇が少女に襲い掛からんとしていた。
「まだいるじゃないかっ!」
笑顔で踏み出したメラは一瞬で移動し蛇の喉元の膨らんでいる部分を握り潰す。つぶしたそれの上部を口に入れると酸っぱい味がした。
「あ、ありがとう」
少女の小さな声にメラは苛立つ
「俺はただ自分の為に、殺してるだけだ。勘違いするなよ気色悪い。お前も殺すかもしれねぇぞ」
少女は驚いたように目を見張ると悲しそうに眉尻を下げる。そしてメラのこと静かにだきしめた。メラに避けようという思考すら許さずに。
「なっ」
「嘘つき」
静かに発せられたその単語はメラの奥まで響く。
「嘘つき?俺は沢山自分の為に殺した。どこが嘘なんだよ。言ってみろよ」
メラの怒りから来るはずの言葉は震えていた
「だって、助けてくれたのは事実でしょ?殺すつもりもないじゃない。だって今のあなたはは悲しそうだもん」
はっきり言ってしまえば意味が分からない。どれにも因果関係はない。所詮はそれは子供の言ったよくわからない戯言である。しかし、メラはそれに乱される。メラの体を埋め尽くしていた明るい感情を暗く重みのある感情が埋め尽くしていく。
スイは自分を殺しから離れられるようにするために命を張ってくれたのに、と。
なのに自分は沢山の動物を殺し復讐するという望んでいるかどうかわからない、いやスイなら望まないであろう夢に走っている自分があまりにも愚かで。自分を殺したくなる。自己嫌悪が今度は襲ってきて体をむしばむ。しかしその黒い部分はぬくもりを伝えてくれる手によって削除はされずともメラの全てを覆いつくすことはなかった。
「寂しかったね。苦しかったね。でも大丈夫だよ。前を見て」
少女の言葉の意味はこちらを向いてという意味だったのだろう。しかし気づけばメラはずっと後ろのこと気にして生きてきた。あの時怒られたから、あの時ダメだったから。
あの時俺が弱かったから
自分の苦しみたちを飲み込みメラは気づけば少女の胸にうずめていた顔を上げる。少女の来ていた白いワンピースはメラの顔についていた返り血と気づけば流れ出ていた涙で汚れているが少女は正面からはにかむような笑顔を向けてくれている。
「お、俺は沢山の動物を殺した。今更前見たって誰も俺と一緒にいてくれやしない。たった一人の大事な人ももう居ない」
メラの苦しみの断片を見ても少女の態度は悲しげな目からうって変わって楽しそうで不思議そうな顔をして
「ん~~難しいことはわかんないっ!でも一人が寂しいなら結婚しよ!」
これまた子供のよくある戯言である。しかしメラにはわからない
「結婚ってなに?」
初めからつがいとともに作られるメラ等然人達はまず殺し以外を知る必要はないとして結婚の概念すらわからない。
「あのね!ず~っと一緒にいることだよ!」
そういって右手を差し出す少女にメラは困惑する。結局子供ながらの説明ではメラには完全には理解はできなかったからだ。でも前を見ると決めた以上メラはその手を取ると決め左手を伸ばす。繋ぐ寸前だった。
「星!救助隊の方々!こちらです!」
そういってやってきた聡明そうな男の子が星と呼ばれた少女を引き寄せる
「わっ。おにいちゃん!もー!放してよ!」
嫌がる少女をそっちのけでメラへの警戒は解かずに救助隊を待つ
「おまえ!うちの星に何かしてないだろうな!」
怒りをにじませた兄らしき人に弁明しようと口を開いた瞬間
「いたぞぉっ!殺しても構わんそうだ!」
救助隊にしては異様に武装している者たちが発砲し銃弾がメラの脇腹辺りに打ち込まれる。少女の顔が涙と悲しみ、絶望に染まる。
「撃たないでッ!」
涙ながらに叫ぶ少女を無視して救助隊らしきものたちは銃弾をどんどん撃ち込んでいく。メラの体がより明るい赤色に染まっていく。凄まじい掃射の中をメラは立ち続ける。やがて弾倉内の銃弾がなくなり掃射が止むとメラは少女に向けて笑顔を浮かべ手を合わせてから逃げ出した。充填が完了し終えてもう一度逃がすまいと掃射するが異様な速度で芝の中へと逃げ込みメラはそのまま体を縮める。体が変わる前に目の前にあった白い大きな帽子と血で殴り書きをした葉を少女へと投げ、体を小さな鳥へと変貌させ飛び去った。鳥に変貌し逃げ出したことを知らない救助隊らしきものたちは掃射を続けていた。
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化け物が逃げた後妹は遅れて走ってきた両親のもとへと走っていった。
「彼は何をしていた.........?」
途中から殺しが許されているという発言と急に取り出した銃に違和感を持った兄、鋭斗はその優れた動体視力で彼が芝の中で銃弾の当たらないようにこちら側へ投げたのを確認した。その時目があったので恐らく気づいているだろう。そう思い警察が事情聴取をすると言われ答えた後にこうして確認に来たのである。
「あれは........星の帽子?」
そこにあったのは来た時はかぶっていたが見つけた時かぶっていなかった白い帽子である。その傍らに恐らく血で書かれたと思われる文字があった
「なんだ..........?.........."私はけして妹さんに危害は加えていない"ってそんなこと気にしてたのか?」
ここで鋭斗の評価は変わる
「ずいぶんと律義だな。そんなことは星から聞いているというのに。それどころか救ってくれたのだろう。逃げる途中で迷子にさせてしまった俺のせいだ。あの発言は不適切だったな」
そういった自己分析をひとしきり独り言ちた後、静かに彼は思った。
「事情があったのだろうが、彼のせいでこんなことになったのだがな.........」
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結局一時間ほど待たされ、解放されたのは八時手前だった。車へ乗り込み帰路へとつく
「思った以上にスリリングだったな動物園」
「あなた、流石に不謹慎すぎるジョークよ」
父親の冗談を母親が窘める。こんな時でもいつも通りの姿の家族である。
「それにしてもどんな奴だったんだ?あの赤い子供」
いまだによくわからないので血に染まり体が真っ赤になっていた子供としてネット上ので話題の赤い子供について星に聞いてみた。あの一瞬しかきちんと見てはいないが見た目はどう見てもただの小学一年生ほどなのにいくら銃弾を受けても動きあの小さな垣根から一瞬で消滅して見せたのである。ただでさえ姿を現した時に鳥の羽が生えているという異形だった。その後野生ではないとはいえ動物たちを一方的に殺し捕食、そのうち一匹は数日前に余りにもサバンナで沢山の人を食った為に捕獲計画によって捕獲されここまで輸送された猛獣もいたという。それをスリリングだとして売りにし始めた矢先であったのだがそれはいいとしてだ。とにかくそれだけの化け物をたった一人で殺しつくしたのである。鋭斗の優秀な頭脳では答えが出なかった。どれだけ考えても人の身では不可能であり、候補に出たのは宇宙人やら人造人間やら非現実的だったり非人道的なものばかり。可能性として否定できないがといった内容しか考えられなかったためである。
「どんなやつ.........んーとね。あいしゅう.......ただよう.....?みたいな子だったよ。悲しそうというかつらそうな顔してた。」
窓の外を眺めていた星は少し切なそうな顔をした。随分とあいつのことを気に入っているように見える。
「そんなに気にいっていたのか彼を」
「うん、かっこよかったもん。でも死んじゃったんでしょ?」
星は全く表情を変えずに静かにしている。
「いや、そんなことは.............」
否定しようとした瞬間車の屋根に大きな何かが叩きつけられる音がした。父親が見に行き戻ってくるとその手の中には雀が抱かれていた。
「雀さん⁉大丈夫?」
流石の星も驚いたのか目線を向ける。
「ああ、鋭斗抱えといてくれ。まだ息があるから治してやろう。」
父親からできるだけ刺激しないように雀を受け取ると鋭斗は驚きとともに口角が少しあがる。
「なぁ星。世界は意外と狭いようだ」
雀と夜空に浮かぶ星を見ながら呟いた。