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希焔晩焼  作者: ぽよ丸
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ゼンシン

「あいつは俺たちの目的の為に大切なモ・ノ・を持っている。まだこのあたりにいるはずだ!絶対に逃がすな!」

そう叫び探し回る男達の声を下に感じバレないかとビクビクしながら枝の上でメラはうずくまっていた。

(............やっぱり俺は不良品だ...........最後まで俺と寄り添ってくれたスイを見捨てておめおめと逃げて...)

悔しさやら悲しさやらが混じりメラの胸中は混濁し、いま目から流れ出る涙がなんで流れているのかすらわからなくなった。

苦しみにくれている中で能天気にもメラのおなかが鳴る。当り前だが彼らの一瞬一瞬に消費するエネルギー量はもちろん膨大でありそれを供給するだけの食事は必要となる。

「...........ッ‼‼」

大切な人を失ったというのに普段と変わらない自分が嫌で気分が悪くなる。しかし空腹なことには変わらない。

「何か.....食わなきゃ.........ッ⁉」

そう考えた時突然奇声とともに目の前に黒い影がおりてきた。それは大きな鳥.....俗にいう猛禽類の一種に分類されるモノだ。しかし空腹だったメラにとってはそれをただの食肉としか判断出来なかった。

「ごめん.....ごめんよ.........」

罪悪感を感じながらも首根っこを右腕で握り頭を握潰し口に放り込む。顔も体も赤い血でまみれながら放り込む。空腹感が満たされるのと同時に背中が急にむずむずしてきた。

「なんだ...この感触.....」

背中から痒みとともに何かが出てくる感触がした

「ぐぅぅぅぅ」

背中が苦しくなりかきむしる

「あぁぁぁぁぁぁッ!」

しまいには背中の肉を引きちぎった、するとむき出しになった骨が浮かび上がり再生された後も背骨の半分がむき出しになったままだった。

「な、なんで.....?」

その後自分の背中から何かが出る感覚がし背中を触ると大きな羽が生えていた

「.........は?なんだ............これ.....は......ね......?」

背中の羽を動かそうと思った瞬間羽が静かに動き出す。

逃げるのに使えると思い羽を大きく羽ばたかせると体を浮遊感が襲いからだが浮き始める。

一気に飛び立ちメラは遠くまで飛んで逃げ出した。

>>>>>>>>>>>><<<<<<<<<<<<<<<

もう何時間飛んだのかはわからない。後ろの空にアカリがともる。空を飛んでいると悲しみに暮れていた心は清々しさが幾分かマシにしてくれた。マシになったメラの心にはまた変わった感情が沸き上がっていた。

眼下に大きな山がそびえており、さらにそこには横に小さな小屋のある大きな湖があった。

「水が..........ある..........あそこを拠点に............。」

そう思ったとき突然に疲れが襲ってきた。疲労には勝てず墜落した

水面にたたきつけられ周りが青色一色に染まる。口から漏れ出る泡をたどりどちらが上かを確認し岸に上がろうと辺りを見回す。羽の感覚になれたメラはこれを自分の()()()()()()然能とは別の能力と断定。背中を反らすように背骨を曲げると羽の接合部分がちぎれ湖のそこへと沈んでいった。見つけた岸には何かの足らしきものがあり水面に上がってみると熊だった。今の状態でのエネルギー消費は命取りと判断し自らの疲労感に身を任せて水面に浮いたまま意識をメラは手放した。

>>>>>>>>>>>><<<<<<<<<<<<<<<

何時間たっただろうか。目を開ければすでに自分は青色の世界の中にいて目の先には眩いばかりの美しい白い光が差し込んでいた。どうやら湖底に背を預けるほどに沈んでしまっていたらしい。疲労のとれた体は軽く思うがままに上へ上へと浮上していく。水面から頭を突き出し空を見るときれいな真ん丸の月が浮かんでいた。岸へと泳ぎ、口から眠っていた間に飲み込んでしまっていた水を吐き出し体温上昇を図る。今のままではそれがたとえ毒のない蛇相手でさえ勝てないほどの小さな体に縮んでいるからだった。

「まったく......冷えたら縮むってホント面倒な体だな.......」

愚痴りながら自らの体温が上昇すると同時に少しずつ膨張する体を見る。傷は特にない。精々起き抜けだから肌の色が悪いくらいだ。自分の体が元の大きさに戻ると今度は空腹が襲ってきた。何時間も寝ていたのだ、当り前である。

木々が折れる音がした。

暗闇の中にある気配は一つだけであり少しずつ近づいてきている。

「なんだ....?」

木々を倒しながら出てきた黒い巨躯は体中に傷があり胸に白いおおきな月の形を持った大きな熊だった。

メラは警戒を怠らず臨戦態勢をとる。それを見た熊も四足から立ち上がり手を広げ威圧的な重低音で吠えた。ビリビリと緊張が走り恐怖で足がすくむ。目の前にいる絶対的な野生に。

「腹を満たすのにちょうどいい...........!」

自分で自分を鼓舞しながら拳に力を入れ体温を上げる。体温が40℃(体感)を超えた瞬間メラは走り出した。迎え撃つ熊は今一度四足になり右腕を振り上げ向かってくるメラに振り下ろす。

「ぐぅッ......!」

明らかに今の自分より重い腕からの一撃が左腕に響き骨まで軋む。たまらず後ろへ飛びずさったメラにさらに追い打ちをかけようと距離を合わせて左腕をメラに熊が振り下ろした。しかし飛びずさった先は湖で水に足を取られ転ぶ。頭が先ほどまであったところをを鈍い風を切る音とともに熊の腕が通り過ぎた。

「助かったけど水はまずいッ!」

先ほど腕が振り下ろされた方向に飛びながら水によって下がった体温を上昇させる。

「もっと.......もっと高く.....!」

彼の体は炎をつかさどっているため特殊なたんぱく質でできており、熱を受ければ受けるほど膨張することで熱に耐える特性を持つ。これに際限がないのである。つまりエネルギーが続く限り体を大きくできると父瀞からは教わっていた。温度を上げ続ける彼の体温は100℃、200℃と上がり500℃にまで上がった。流石にエネルギー供給の限界なので上昇をやめた時には彼の見た目はすっかり変わっていた髪があまりの内部熱から内側から赤く輝き、眼は異様な温度とその維持のために上がった血圧により血管が広がり赤くなる。急成長したかのように大きくなったメラは5歳の幼児の姿から18歳の青年の姿だった。その異形の姿に放置してはまずいと思ったのか熊はとびかかってきたが、もう遅かった。動体視力が極限まで引き上げられたメラはそれがもはや0.2倍速にされたアニメーションのように見えた。

「初めてここまで体温上げた........俺はもう、お前を恐れない」

ゆっくりと向かってきている熊を見ながら呟くと冷静に熊の挙動を見る。

熊は右回りに走りながらそのまま飛び上がり右腕を振り上げる。振り下ろされたその腕をしゃがんでよけるとそのまま右拳を熊の腕の下から鳩尾へ拳を突き出した。熱を持ったその拳は体を貫通しクマの体から力が抜ける。メラの体に倒れこんでくる熊をゆっくりと抱きとめそのまま仰向けに倒す。

「はぁ..........疲れた........」

体中にこもった熱を湖に浸しとばす。水に触れた瞬間に周りの水が蒸発し煙が上がる。平熱に戻り体が縮む。

「.......食うか」

目の前にあるくたばった熊の体にゆっくりと近づき食べ始める。体の前面から食べているのだがメラの体に触れていたため味付けもしていないのに味としては香ばしくまずくはなかった。しかし表面が炙られただけなのでもちろんすぐ生肉に到達する。生肉を口にした瞬間にまた羽が生えた時と同じ違和感が体を襲った。筋肉がきしみ爪が太く固くなる。

「なるほど、これが俺の然能ではない突然変異の力.............」

なぜメラが然能でないと判断したのか、それはメラの本質は熱にあるからである。熱は光に科学に運動にすべてのエネルギーに変化する。その熱を自在に操るのがメラの力の根源である。しかし、情報を細胞が獲得するときにエネルギーが必要とはいえ熱には特に関係しないからメラはそう判断したのであった。そしてメラの持つこの力の恐ろしいところはその良すぎる相性にある。

「この熊の腕も人に戻せるってことは............やっぱり」

そういうメラの体が一瞬肉塊へと変わりそして先ほどの熊になった。メラの体は冷えこんだら体が縮むことからもわかるように熱によって柔軟にその形を変える。つまり体温を下げ身体からいらない細胞を切ると小さくなることができる。もちろん限界はありテニスボールほどが最低。大きくなるのには時間こそかかるものの際限がない。これを応用しメラは今自らの体を熊へと変えたのであった。それからというものメラは山にいるすべての種類の生物を食らっていった。父瀞に復讐するために。


数日も立てばメラはもはや山にいるすべての種類の力を食らいつくし30種類ほど手に入れた。そんなある日山に珍しく人が入ってきた。

「ほんとに未確認の動物がいるんだろうな?」

偉そうにメガネを押し上げながら初老の男がもう一人に聞く

「観測機を信じてくださいよ。目が赤く背骨が浮き出た熊がいたんです。世界中にもこんな生物は存在しません。新種ですよこれは」

静かに返したのは作業着を着た青年だった

「そんなことよりも覚えてますよね?金の話」

「分かってる。もうボケてるように見えるか若造め。捕らえて調べてもし本物なら金を払う、だろ?」

「イエスッーザッツライッ」

一人は楽しそうにもう一人は気だるげに返す。そんな彼らは湖のほとりで見つけた。見つけてしまった。

「おいなんだあれ!デカい鳥だなおい」

「あれ、本物ですよね?大きすぎるような:........って!」

彼らが大きな音を耳にし空を仰ぐと空から巨大すぎる鳥が降りてきた。その鳥は湖へ着水しそれと同時に少年の姿になった。体にはどこから出てきたのか布が巻かれていた

「な、なんだよあれぇ⁉」

「知るか私のほうがが知りたい!」

そのまま少年の姿になったナニカはまとっていた所々千切れている布を脱ぎ水浴びを始めた。

「美しぃ..……」

その美しく神々しい姿に心奪われた青年は近くで見ようと足を踏み出した。

「おい馬鹿!音がなる!」

案の定足元の枝を踏み折り音を鳴らした。それに気づけない何かではない。ばっと振り向いたと思えば布を体に巻きこちらに近づいてきた。

「す、すまない。危害を加えるつもりはないのだ」

そんな弁明を聞き流し何かはさらに近づいてくる。よく見れば彼のまとっている布はひどく破れている入院服のようなものだった。水浴びでは落ちなかったのか口元には血がたくさん付着し手も赤く染めっている。段々興味から恐怖へと青年の感情が変わっていく。一メートルほどの距離に着た瞬間青年は背を向けて走り出した。

「助けてくれぇっ!」

「まってっ!」

ナニカ――――メラが声を上げるが彼は止まらなかった

「おい、まて!その先はっ!」

メラがもう一度声を上げた時にはもう遅く彼は崖から足を踏み外した

「............っ!」

もう一人が気づいた時には青年は前のめりになり落ちていくところだった。

その後を追うように少年が飛び降りる。

急いで崖っぷちから下をのぞくと地面から数メートルのところで少年が青年を左腕で掴んだまま羽ばたいていた。そして彼はゆっくりと上昇し崖の上に上りそのまま湖まで青年を運んだ。

「し、死ぬかと思ったぁ........」

「馬鹿者!山の中で走るなといったのはお前だろうに!」

腰が抜けたかのようにへたり込んだ青年に初老の男性が怒鳴る

「まぁまぁ、それよりあなた方はどうしてこんな奥まで?」

命の恩人ともいえる少年の問いに二人は答えた

「じゃあ先ずは私から。さっきはありがとう。僕はこの山の所有者です。ここのいろんなところに設置してる生体反応を感知するカメラ付きの観測機に今までにない生体反応を発見したのでその調査に来たのです。貴方でしたが...........」

「えと、私は関東南部動物園の飼育の監修などもしている関大の動物学名誉教授だ。失礼ながら君は明らかに人間ではない。だが人語を話し見た目まで人間だ。君は何者なのかね?」

二人の自己紹介を聞いてメラは自分の正体を話すより興味のある内容に食いついた。

「あの、動物園ってなんですか?」

「え!?知らないのかい!?動物園とは世界中のいろんな動物がみられるところだよ」

その一言を聞いた瞬間メラの目の色が変わる。

「せ、世界中の動物ですか!?」

その剣幕に二人は困惑する。

「う、うん。この国でも最大級の動物園だからね」

「場所は!?」

メラからしたらただで強くなれるという話なので食いつかないわけがない。

「ええと、あっちが北だからこの山からあっちの方角にいったら見えてくるはずだけど」

「ありがとうございますっ」

そう言ってメラは飛び立つ。残されてぽかんとしている二人を置いて。

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