サヨナラ
三日経ち、その間メラは何度も頭の中でイメージトレーニングと殺戮の手順を復習および練習した。
かくして当日となり、今スイと二人でビルの裏に立っていた。今回のターゲットは某世界トップの国力を誇る国であり、この国と安全を保障する条約を結んでいる国の諜報機関に所属する自国国籍の男だ。彼はこの国がここ数年自衛用兵器を購入していないことを不審に思った某国がその原因を突き止めるように彼に命を出した。彼の人となりはとても良いと評判であり表向きは社会福祉法人の社長として生活しており妻と息子がいるらしい。しかし二人からしてみればそんなことはどうでもいい。殺してその後を確保する、それだけである。
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狙ったタイミングは妻が病気となり彼が息子を家に置いたまま食材を買いに行った時であった。彼が少し人気のない道にそれた瞬間に狙う手はずとなった。もちろん彼の妻には薬を使って疑似的に病になってもらっているだけだが。
「標的がポイントに入ったよ彼は一人だから手筈道理に。」
「・・・・・・・・」
スイの確認の言葉にメラは反応することができなかった。その人を殺すために作られたその拳は震え、ふるうための息は荒かった。
「........大丈夫。私が見てる。がんばって」
静かに背を押す彼女の一言は彼にとって勇気を与える言葉でありまた彼の背にかかる大きな重荷だった。
その重みすら拳に乗せる勢いで静かにタイミングを見計らった。
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(きた......)
黒闇の中に真っ黒な装束を着て身を潜めるメラはそのまま静かに前に出る。
「ん?........こんな時間に子供........?大丈夫?どうしたのかな?」
「.............................」
人好きしそうな顔を心配そうにゆがませているのを見てメラの中の決心が揺らぎそうになるがぐっと堪えて申し訳なさそうに話しだす
「..............申し訳ないのですが、私の未来のために貴方には殺されてもらいます..........。ごめんなさい。」
その言葉を聞いて彼は静かに顔を驚きに染めた。その後ふと悲しそうな顔をした後態度が豹変した。
「.........そうとなったらおとなしくやられるわけにはいかないなぁッ!」
顔を引き攣った笑顔に変えてメラに殴り掛かった。メラからして左側から振り上げられた右拳を左手で受け流しながら右こぶしを突き出し鳩尾に叩き込む。しかし明らかにその力のこもっていない拳にメラは違和感を感じ自らの拳が貫通したままの男を見上げると
「......ぐふッ........それで........い......い.........」
口から血を吐きながら男は笑みを顔に浮かべていた。
「.........、なん........で......?」
メラからすれば意味が分からない。自分のためだけに殺したのに、譫言を言うどころか優しい笑顔でこちらを見ていた。拳を男の鳩尾から引き抜き男を地面に横たわらせる。これは静かに話しだした。
「なぜ....か......、君は明らかに私を殺さなければならないと見てわかったよ。ならば一思いにやってもらおうと思ってね。」
「どうして......そこまで.........」
「簡単な話さ、俺は自分より未来ある人のために今の仕事に就いたんだ。君のほうが俺より未来ありそうだ。俺はもう.....満足だ........」
そうやって浮かべた笑顔は実に清々しいものだった。
「ごめんなさい........ごめんなさい.........」
罪悪感の強さによって涙がたくさん流れていく
「謝るくらいならば........君のなりたいよう..........な........自分になれるよう...........に、精一杯生きたま...え....」
最後の言葉を伝えると静かに目を閉じた。
そろそろ人が来るかもしれない。そう思いメラが離れようと思い涙を拭ったとき
「...........パ......パパ?」
彼の息子らしき男の子が通りの光を背に浴びてこちらに畏怖の目を向けていた。これ以上彼の家族につらい思いをさせまいと、これ以上罪悪感を募らせぬようにとメラは男の子に背を向けて暗闇の中に消えていった。後ろからの悲痛そうな叫びを聞こえない振りをしながら。
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自ら一人でやるからと離れた場所で待機してもらっていたスイとともに研究所に戻る。
所長室に向かうと今までメラが見たことないほどの笑顔を浮かべた父瀞が待っていた。
「来たかっ!ついに果たしたそうじゃないか!ようやく不良品卒業だなぁ。よかったよかった!」
ばしばしと背中を叩きながら笑顔で迎え入れてきた。
「ええ、思ってたより簡単にできました。これからも頑張ろうかと思います。」
内心自分の適当な醜い嘘や人を殺したことを喜ぶ父瀞に吐き気を催しながら、自分達の為に笑みを浮かべるのだった。
部屋に戻りスイがお茶を用意してくれてる間にベッドに座る。
戻ってきて正面にある机にティーカップとティーポットを置いたスイに抱きしめられた。
「大丈夫。あとは任せて」
そういって後ろに回されたスイの手は動き出した。
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最も私たちが手を尽くしすべてをかけて自分たちの野望のために生み出した他のとは違うメラが、不良品だったメラが不良品を脱却した次の日の夜。管制室から父瀞に連絡があった。
「どうした?」
慌てた様子で管制室の人間が報告する。その内容は
「システムのバグかも知れないのですがスイとメラが部屋から出ているはずの時間帯にも発信器からの生体反応の信号が彼らの部屋から発信されているのです。」
メラ達然能人は心臓の後ろにある背骨の関節のうちの一つに発信器が取り付けられている。
つまり体内に入っているはずのGPSからの電波がなぜか部屋からきているというわけである。
「妙だな。生体反応は一定なのだろう?どういうことだ?」
そんな話をしている時だった。緊急事態アラートが鳴り響き、原因の報告が手元にある端末に届く。その内容は
実験体の脱走
であった
「まさかッ!」
急いで全体に逃がさないようにと指令を出すと急いでメラとスイの部屋の監視カメラを見る。
そこにはある程度膨らんでいるベッドが二つあった。
「スイたちは部屋にいるようですね」
そう見て判断した副所長に檄を飛ばす
「違う!あいつらはいつもスイがメラのベッドに入って二人でくっついて寝ている」
「し、しかし生体反応はそのまま部屋の中にあります」
生体反応の表を見て判断したようだが父瀞は気づいていた
「奴らの部屋に向かう!」
そう叫ぶと部屋へ向かう。
ドアを開け布団を引きはがすと
「やはり逃げたかッ!」
布団の裏にビニールが張られており、その下、ベッドの上にはどちらともの上に大きな拍動する肉の塊がありその中には背骨の一部が入っていた。
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「邪魔をしないでッ!」
「どけぇっ!」
脱出に気づいた邪魔者たちを前を走るスイと共に弾き飛ばしながら逃げる。右手に握る手は離さずに。
耳障りなアラートがなり続け続々と武装した警備員たちが発砲してくる。しかし戦争を想定して作られていた彼らにとってたかが銃弾など痛痒にすらなりはしない。
「このままいけば逃げられそうだ」
「油断しないでよ?どれだけ無意味に見えても何があるかわからないから。警戒を怠らないでよ」
あまりにうまくいったことにより気の大きくなったメラをたしなめている。
「逃がさんぞ貴様らァァァァァァァァァァ!」
凄まじい形相で叫ぶ父瀞が片手に大きな銃を持ちながら追いかけてきていた。
「やばい、お父さんが来た!にげるよ!」
恐怖感を抑えながら逃げようとするスイは隣から返答がないことに気づく
「................あ........はぁ.........はぁ..........はぁ.........!」
「メラ⁉何してるの!?」
これまでさんざん父瀞によって与えられたトラウマに縛られたメラは逃げている時であるというのに恐怖で動けなくなっている。彼の見開かれた瞳はまっすぐに父瀞を見ていた。
その目に映るのは静かにこちらに向かって向けられる銃口とおぞましい笑みだった。
その極限まで高められた動体視力によりうち放たれた銃弾が近づいてきているのが見える其の銃弾には何故か当たってはいけない気がするのに彼の体は恐怖で思うように動けない
「だめぇっ!」
着弾する刹那スイが銃弾とメラの間に割って入り銃弾がスイの体に入っていく。
「なにしてるっ!なんでかばって..........!」
「あぐぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!いだいいだいっ!」
流動体の体なのに何故か銃弾が食い込んで抜けずさらに苦しんでいる。
「な、なにがあったっ............」
「に......にげ........」
後ろから静かに父瀞が迫ってくる
「なんで俺なんかをかばって......ッ!」
自分の不注意で動けなかったのに犠牲になったスイへの罪悪感でメラは押しつぶされそうだった。
その気持ちから生まれた言葉に苦しそうにしていたスイの目が一瞬意志の強い目に代わる。
「あなたがっ!大好きだからっ!」
そういってスイの顔を覗き込むようにしているメラの顔を両手でつかみ自分の唇をかさねる
「っ............」
「だから!」
メラがあっけにとられているうちにスイが手をメラの右手からメラの胸に当て手から水を噴射する
「つよく.....生きてねッ..........!」
彼女のつらい中にある意思を前にしてメラはこれ以上うじうじするのは申し訳ないと思い目のぬくもりも振り切って研究所の外へと走り出した。
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「お前のせいでメラが逃げたっ!」
「うぐぅっ!」
怒りに任せてスイを蹴る
「お前のせいで私たちの計画も大切なモノも時間も奪われた!」
「ひぎっぃ!」
怒りに任せて殴る蹴る
「もうお前などいらん!」
その次の日、然人のうちの水の然人が減った。