ヨワイモノとツヨイモノ
彼は結局完成させた。
実質的に政府の人間を脅迫し資金を引き出した。
その結果ソレは兵器を超えた対個人または対軍に対してならば核よりも銃火器よりもおぞましい生命体だった。
「然能人」
彼らはそのプロトタイプとして五人生み出された。
おのおのにはDNAに様々な生物や物質の特性が足されている。
もちろん彼が政府の人々に見せた圧倒的な身体能力も当然のように与えられている。
結果生まれたての幼体のままでも常人の数倍の筋肉密度と知能を持ちその成長はすさまじかった。
生まれて一年も経たずに直立歩行や言語などを話せるようになり、さらに三年後には彼の理想としていたレベルを超え人間以上という目標は達成された。
それから殺人術隠密術を叩き込まれ七歳には二人組を組ませ訓練と称して政府や自分の研究に邪魔なに不利な要人や外交官、政治家などの暗殺をさせた。
そういった研究、政府の汚れ仕事を代わりに行っている組織。
その名を平和研究所という。
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時刻は丑三つ時を少し過ぎたころだろうか。
明るい裏通りをどう見てもおかしな小学生程度の身長の黒装束の男女が歩いている。
「スイ、今回の任務は?」
まるでそこには何にもないような真っ暗な髪を持った男の子が話しかける。
「あそこのピンク色の文字の看板の置かれたお店にいるK国の外交官さんだって。沢山の重くておっきな黒い男の人といるんだって。メラ」
スイと呼ばれた透き通るような長い水色の髪の少女は言った。
「さっさと終わらせて帰るぞ」
静かにそう言って二人して夜の暗い通りに溶けていった。
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「やー、今日も可愛かったなあ。女の子たち。お前らももう少し遊んだらどうよ。」
K国がこの国が新たな兵器を作っているという情報を手にし、それを確かめ手に入れて帰るために俺がここに派遣された。まあ国の金でこっちで遊んでいるわけだが。
それにしても雇ったボディガードは硬くてかなわん。もっと楽しくいたいのだがね。
「我々はあなたを守るのが仕事です。」
正面にいるリーダーが話す
「こんな遊んでるやつ狙わないでしょ~」
そうやって話している時だった。
「そうやってゆだ」
そこまで言ったとき
リーダーの頭が吹き飛んだ
「え........は.......?」
赤い液体が噴出し生暖かい雨が降る。
「え、な、なにが、え?は?いやだって。え?」
恐怖で混乱する外交官を動揺しながらもボディガードたちは一糸乱れぬ動きで守りの動きを起こした。
全員が暗闇を凝視する中出てきたのは小さな男女二人組である
「あれ、話してる途中でしたか?ごめんなさいね」
右手の一刺し指をこちらに向けながら水色の少女が話す。
「お前ら.....なにものだ....?」
そういったボディガードがはまた頭を飛ばされた。赤い雨の中黒いフードによって顔が血に染まらない笑顔で話すその少女は妙に美しい。
「あなたに興味も価値もありません。黙るか抵抗するか死ぬか、選んでください」
もちろん誰も死にたくはないため守りの体制から動かず口を閉じる。
「静かになりましたよメラ。あなたのために身を削ったんですからスイを誉めてください!」
可愛らしく斜め下から見ながらねだる。
「よくやった。さてさっさと終わらせるよ」
「んもう、意地悪なんですから」
むっとしながらもまんざらでもなさそうな顔をしたスイは先ほどまでの冷徹な笑顔とはかけ離れていた。
「そろそろ俺たちは帰りたいんだ。おとなしく死んでくれねえか?」
黒い男の子が話しかけてくる。
「なんで.......俺のこと殺そうと..........してるんだ?」
外交官が質問する。それは当然の質問でもあり、答えに心当たりがある質問だった。しかしその返答は思っていたものとかけ離れていた。
「なぜ?そんなもん我々が知るわけねえだろ。俺たちは親の言う通り殺す。それだけだ」
淡々とそして冷徹に感情がないような目で冷たく突き放した。
「貴様、そんなことで人を殺のか?誰かの言いなりになって誰かの人生を壊すってのか⁉てめぇありえねえぞ!お前らこのガキやっちまえよ!ぶっ殺せ!」
「「応‼」」
恐怖が怒りに代わり先ほどの結果も忘れて命令をかける。リーダーを殺されたという事実に現実味を感じ命令も含めて総勢五名のボディガードが襲い掛かった
「ガキが!死ッ」
先頭の男が怒号とともに迫った問だった
「無駄なことを.....」
初めて表情が変わったと思ったその瞬間横のビルの壁が赤く染まった。残ったのは体の左半身を赤く染めた左回し蹴りの構えの男の子だった。
そのままの勢いで跡形もなく潰された仲間に動揺したボディガードたちを左こぶしで、右こぶしで、右足刀で。残ったのは赤い跡のみだった。
「さあ、最後はお前だけだ。時間と労力の無駄させやがって」
両腕も両足も真っ赤に染めて悠然と歩いてくるその姿はまさに恐怖を体現したようだった。
「ま、まってくれ.......こ、殺さないで.........」
暗闇の中真っ赤な瞳と赤黒く体を染めた男が殺しに来ているのを見てすでに彼の下には生暖かい水たまりができていた。静かに歩み外交官の体を踏みつける。
上等なシャツに茶色いシミがつき首の下あたりの生地が掴まれたことによって引き伸ばされる。
右腕を静かに上げこぶしを握りまっすぐ外交官の目とをみている。
しかし、数秒経った後手を放し苦しそうに離れていく。
「..........あと........やっとけ...........!」
そうして闇に消えていく男に寄り添うように女も消える。
二人ともが消えたなか残された男は自分の幸運に身を震わせて
「た、たすかっ―――」
叫んだ瞬間暗闇から飛んできた一筋の光によって男の頭が消し飛んだ。
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研究所に帰ってきた彼らは所長のもとへと向かい報告を行う。
研究所の所長室へと二人で入り報告を行う。
「今回も滞りなく訓練完了しました。後片付けをお願いします。」
落ち込むメラを支えるように立つスイが報告する。
「ご苦労。スイは戻っていいぞ。メラは残れ。話がある」
ご苦労を聞いた時すでに部屋から出ようとしていた二人の足が止まる。
「..........」
「わ、私も支えるために残ります。」
黙るメラをよそにかばうようにスイが進言する。
「いや、私はメラと二人で話すことがある。スイは下がれ。これは命令だ。」
冷徹に下された父瀞の裁定にスイは従うことしかできない。
「........承知しました。」
スイはメラの腕を放し静かに部屋を出て自分とメラの部屋に戻った。
外の監視カメラを確認しスイがいないことを確かめてから口を開いた。
「どうやら今度もスイに殺してもらったようじゃないか。お前はいつになったらターゲットを殺せる?」
静かに開かれたその口からの言葉は重く冷たい怒りが滲み出ていた。
「.......申し訳ありません。」
苦しそうにメラの口から告げられる言葉は短くも苦痛や罪悪感などの気持ちが顕著に表れており、それが本当に申し訳なく思っていることがわかる。
「........お前はまだ然能も使えなかったな?」
父瀞の投げた言葉は彼のコンプレックスを抉るものだった。
「..............」
何も言い返せないメラは静かにこぶしを握り締めて自分の不甲斐無さに苦しむ。
「それで?兵器として生まれたお前が?人も殺せず力も持てず?お前は何が取り柄なんだ?」
怒りに震える父瀞は立ち上がって両拳を握り締めメラの前に立つ。
「いい加減にしろよ!」
その真っ黒に染まり目元にかかる彼の前髪を引っ張り首を持ち上げる
「てめえ自分が何かわかってんのか⁉兵器だぞ!人殺しの道具だ!人殺しの道具のくせして標的の人間一人殺せない!無能なカスが!てめえの制作にいくらかかったと思ってやがるこの不良品がッ!」
メラの頭を引っ張ったまま揺さぶりながら捲し立てる。その怒りは真っ当ではある。なぜならメラの制作期間五年にかかった総額は億を超える。彼からしてみれば億かけて作ったプログラムが特殊コマンドも動かず本来の動きすらしないのだから。この例ならば彼が悪いが何度検査しても他の被検体との差がなく、どこに欠陥があるのかわからない。自分に対する非がない以上不良品にキレるのは当然である。
「チッ、次任務でスイではなくお前が標的を殺せなかったら貴様はデータだけ残してお前は廃棄だ。次は三日後。覚悟を決めておくんだな。」
そういって乱暴に髪を放しそれだけ残し所長室から出て行った。
残されたメラも静かに部屋へと戻った。
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部屋はペアが共同で使用しており部屋にはスイが二段ベッドの下に座って待っていた。
「なんのお話をしていたの?」
心配そうにメラを見つめている。
「別に.....少し...叱られただけだよ」
そういいながら視線を逸らすメラをみてスイが立ち上がる。
「こんななのに?」
そういってスイはメラのおでこを撫でる。その手には血がべっとりとついていた。
「.............もう傷はふさがってるし、いいんだよ。おれが悪いから」
自分でも気づいていなかったのか気まずそうにスイの手を振り払う。
その姿を見てもう二年も前から傍にいるスイは何を言われたのか気づいたのだろう。少し申し訳なさそうに話しだす。
「.......どうして........いつも最後は私にターゲットを殺させるの?私たちはそのためにいるのに」
かれこれ一年間週から月に一度と不定期にではあるが行ってきた任務の数は膨大でありその全てでメラは最後のとどめを全てスイに任せていた。
「どうしてだろうな」
そういうメラにスイは怒ったように声を少し大きくする
「なんでそうやっていつもはぐらかすの!そうやって逃げても進まないし、またこうやって傷つけるけられるだけだよ!私にも話せないことなの?いつだって私にははぐらかして。全部話してとはいわない、でも事情ぐらい話してよ......私にも.....メラのつらい思いを背負わせてよ.........」
頭に響かないか心配したのかその返答を恐れたのか最後は声が悲しく辛そうだった。今まで自分を尊重し支えてくれた優しいスイの初めての怒りを見て動揺を見せ彼は自分の愚かさを知った
(俺はいつも支えてくれているコイツに寄りかかっているだけの状態だよな.......)
今までのスイへの罪悪感と自分という愚図に対する自責の念により苦しそうに話し出す。
「俺は無抵抗な人を手にかけようとした時手が震える。対象の俺に対する恐怖心がまるで俺が生物としては許されない、生きててはいけない存在なんじゃないかって俺に思わせるんだ。だから俺はどうしても無抵抗な人を殺せない。所詮俺は対象も殺せない無能な不良品だよ。廃棄されても仕方がないさ」
何を言われたのかに気づいたスイは少し怒りを表す。
「.......廃棄するって.....言われたの?」
怒りに身を静かに震わせるスイにメラは沈黙で返す
「一度だけでいいから対象を殺せない?私に考えがあるから」
真剣に見つめ心から自分のことを思っているとわかるその視線に対して目を逸らすことも否定もメラにはできなかった。
事前に言っておきますがこの作品はアホほど主人公の活躍までが長いのでご容赦いただければ…