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「まったく親に向かってなんという言い草だ。智彗家ではどんな教育をしてるんだ」
嘆かわしいといったように額に手を当てる。
「うるせぇよ......どういうつもりだ?」
「失せものを取り戻すのに理由などいるかね?おとなしく来ないならばこの娘がこいつに殺されるぞ?」
ニヤニヤと笑いながら左胸ポケットから出したであろう植物のような蔓に包まれた丸い球を落とした。するとその植物が突然爆発的に広がり中から人間の姿をした何かが出てくる。ソレは一言たりとも発言せず目には光がなかった。
「メラは所詮プロトタイプ。これは完成した然人。お前ごときでは戦いにはならん。勿論抵抗しなければ娘は無事に返してやろう」
自分が有利であるからと上から目線で捲し立てる。
「俺はもうお前の下につくわけにはいかない。俺の命はもう俺一人のものじゃない.......!」
啖呵を切る燎を見て苛立ちを顔に浮かべる。
「ふん、では現実を見るがいい。やれ」
口の端をあげて植物の然人に命令した。その瞬間然人の足元から木々が飛び出し燎に襲い掛かった。
すさまじい量の木の枝がまるで鞭のように迫る。目にはもはや映らない。星にとっては風が吹いただけだった。しかし........
「..............ずいぶんと成長していたようだな....................」
当たり前のようにそのすべてを蔓と同じかそれ以上の速さで避けまくっていた。あまりにも当たる気配のない燎に父瀞も唸ることしかできなかった。
じれったさを感じ然人は蔓の攻勢を弱め足元の植物を一本の蔓にまとめ燎の頭をぶち込まんと振り下ろす。
「楽になったな........」
静かにメラは呟くとまるで目の前に振り下ろされた蔓を寸前で避ける。しかしその姿を目で追えなかった然人は手ごたえのなさに違和感を覚えたのか周りを見回す。後ろまで見たうえでまた前を向いた瞬間
「..................ッ⁉」
目の据わった燎が目の前にいた。この間ほんの0.7秒程である。
「ごめんな」
一瞬目に申し訳なさを滲ませた燎を然人が視認するまでもなく然人に拳を叩き込む。
「楽星流闘術無器ノ型十二式<願星>」
あまりにも重い拳に然人は耐え切れず意識を失った。もはや父瀞のことなど眼中にない燎は素早く星に近づくと縄を解き始める。
「まさか........本当にプロトタイプが完成品を倒すとはな.........。」
そう静かに呟く父瀞に燎は向き直る
「悪いがもう関わらないでくれないか?そちらがこれ以上関わらないのなら、これ以上俺は攻撃はしないしこちらから手出しはしない。どうだろうか?」
「うーむ.......」
腕を組みながら悩むような素振りをする父瀞を見ていると後ろから突然手を引かれる。
「にげるよっ!燎!」
「「⁉」」
突然のことで父瀞も燎も同様で反応が遅れる。
「早くっ!」
燎はその手を見て思う。自分はいつもこうだと。初めて会った日も彼女のこの自分より一回りも二回りも小さな手。それによって与えられたものはその手から与えられたとは思えないほど大きい、今の自分の心も体も技量も家族も友達も。自分にとって大切なもの全てを与えてくれたその手は今も強く引っ張ってくれている。
そしてその手からの力がフッと消えた。
「え?」
その手の先がなくなっていた。首を右に向けるとその先の壁に赤い大きなシミができており、そこから何か理解したくもない肉の管が垂れ、少し笑みを浮かべたような顔だけが左半分だけ残っており、それ以外はもはや肉塊であり星が無残な姿になっていた。一瞬の燎の動揺によって生まれた隙の間に動き出した然人によって。




