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41.輪廻

 「──一閃ッ!」


 戦乙女の居合が眼前の敵を一掃した。走りながら剣を振るなんて器用なものね、と思うものの、実際足を止めていられないのも事実だ。

 大天使達の援護を受けているとはいえ、敵の攻撃も苛烈さを増してきている。相変わらず低級の悪魔が雑兵として出てきているのは変わりないが……。


『ごめんエイン──一級悪魔が出てきた。しばらく通信切るわよ』

「……分かった。気をつけて」


 ぷつん、と音が消える。私達の目の前にはまだ現れてはいないものの──一級悪魔が出てきているらしい。幸いなのは、いくらベリアルといえど、あの強さの悪魔をおいそれと大量には生み出せない、って所かしら。


「……っ! 見えてきたわ! あそこ!」

「……あれが、そうなのか」


 裏路地から表に出てきた私達の目の前には、高く佇む天使長棟が見えた。それが落とす影の中に、私達は居たようだ。


「もう少しよ、戦乙女ヴァルキリー──」


 居ない。ドロシーが消えた。いや、通信機から音が聞こえない。悪魔の気配もいつの間にか消えている。だが、周りを見ても、光景は同じだ。全く同じ場所……のはずだ。


「──やぁ」


 ──声。背後から消えていたはずの悪魔の気配がする。いや、それよりももっと悪い。並の悪魔とは思えないほどの”気配”を、私のすぐ後ろから感じている。

 肌がひりつく。額から汗が流れる。


「……随分と悪趣味な悪魔ね」

「……はは。褒められても困るな。”ボク”は趣味が悪いのさ」

「そういうところが……って、その声、どこかで──」


 一瞬だけ気配が止まった。それと同時に前へ飛んで振り向く。影の中に居た”それ”の顔は、暗がりでよく見えない。


「悪いけど、こんなところで足止めを喰らう訳にはいかないの。幻術か何かでしょう? 元の場所に返してもらうわよ」

「……つれないことを言うじゃないか……”ボク”とキミの──仲じゃないか」


 眼の前の悪魔は、魔法か何かで手に火種を生み出す。それが明かりとなって、そいつの正体を照らし出した──が。それは、知っていた……悪魔の顔だ。

 唯一違うのは、頭から体へと伸びる傷跡。まるで剣に斬られたかのような、痕。


「──傲慢のアロガンツ、だったわね。殺したはずの悪魔の姿が目の前にあるなんて……冗談じゃないわ」

「ならなおさら、ベリアル様に感謝しなきゃだなぁ……ははっ!」


 笑みを浮かべたアロガンツが地面を蹴った。彼女の手からは、赤黒い”爪”のようなものが生えている、のがかろうじて見える……が。展開した魔導障壁に、その電光石火の攻撃は防がれた。


「悪いけど、急いでるの。さっさと終わらせましょう」

「……まだまだだよ。まだ、楽しもうじゃないかぁ!」


 チッ。急がないといけないという時に限って、こんな面倒な奴と鉢合うなんてね。通信も繋がらないし、ドロシーも消えた。私一人でやるしかないようだ……って。

 ドロシーは──どこへ行ったの?



「──デゼスポワールか。覚えているさ。懐かしくもあるが、二度と聞きたくない名前でもあった」

「あーらら。そりゃ残念」


 天束エインが、戦乙女と分断されたのと、ほぼ同じタイミングだった。エインがアロガンツの”テリトリー”に引き込まれたように、ドロシー・フォン・ヴァルキュリアもまた、かつて討伐した、因縁深き相手──デゼスポワールと対峙していた。

 握られている剣には、既に血がついている。盾にも。そして──彼女の体にも。


「ベリアル様に、私とあの悪魔は”チャンス”を貰った。あなた達を殺せば、もっと楽しい力を得られる、ってわけ」

「なるほどな」


 ドロシーは、盾を持つ腕を引き、剣を構える。


「一度死んでも、その性格は直らなかったようだ」

「──ッ!」


 ドロシーの剣が、悪魔に向かって振られる。──が。デゼスポワールは、手から”羽根の意匠が施された盾”を生み出して、攻撃を防いだ。

 奇しくも、戦乙女が持っているのと同じデザインだ。が、彼女の能力を考えれば、不思議ではない。


「他者の能力の複製……だったな。相も変わらず、不快な技だ」


 悪魔の攻勢は緩まない。盾の複製が可能ならば──。そうドロシーが思った瞬間。ヴァルキリーの盾は間一髪のところで、体を二つに切り裂こうとする刃を防いでいた。


「……ッ!」

「──拍子抜けね? ドロシー・フォン・ヴァルキュリア」


 実際、ドロシーは強くなった。エインやアンジュと関わり、そして黒居の助けもあって、心身ともに、デゼスポワールと戦っていた時の比でないほど逞しくなっている。

 だが。成長した彼女にとっても、”悪魔”の能力は厄介そのものだった。


「くっ!」


 最初は剣を振るう余裕があったドロシーも、今では敵の攻撃を捌いて盾で受けることに精一杯だ。間に攻撃を挟む余裕など皆無だった。

 複製された自分の技。その威力は、ドロシーが一番理解している。だからこそ、自分に向けられる”それ”を恐れている。


「ほらほらぁっ! このままだと死んじゃうわよぉ⁉」


 ──刹那。ドロシーの盾が光を帯びて、攻撃を弾いた瞬間に衝撃波を生み出した。警戒したデゼスポワールは後方に飛び退く。


「……何それ? 今更悪あがきのつもりぃ? 悪いけど、もうアナタは終わ──」


 ドロシーの剣閃。だが、届かない。悪魔の装束に傷はついたが、本体までは斬れなかった。


「……チッ。往生際の悪い天使が」

「……あぁ。我は往生際が悪いんだ。貴様にとっては残念なことにな」


 ドロシーは、剣と盾を”重ね”て、傘に戻した。デゼスポワールが怪しむ。当然だ。敵の前で武器を捨てるようなものなのだから。

 だが、戦乙女はそんな事を気にしている様子もなく、傘をもって肩に置く。


「我の技が効かない。我自身もそれを恐れてる。全く、最悪の状況だ」



「──失翼の使いロスト・ウイング。お前に魔導を教わっていて、どうやら正解だったようだ」

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