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36.天界・オブ・レジスタンスⅡ

「ウリエルの野郎と話してたみたいだな」

 

 鏡写しの街へと戻ってきた私に、ミカエルがそう言った。建物の影に上手く隠れて背後から話しかけるその姿は不審極まりないが。

 後ろを向くと、宝石のような赤色の髪が見えた。体の前で腕を組み、壁により掛かるその姿は、まぁ威圧感はある。


「野郎って。……思うんだけど、仲悪すぎでしょ。ウリエルとの仲が」


 路地裏。私も、彼女の前にある建物の壁へよりかかった。光の指す街とは対象的に、私達がいる場所はかなり暗い。さながら、街の”裏側”といったところだろうか?


「オレだって思うね。自分を陥れたヤツをかばう神経が分からねぇよ、ってな」

「……意外と痛い所を付いてくるのね」


 私だって思うところがないわけではない……と思う。思うってのは、自分でも感情が整理できていないって感じ。けれど、彼女のことを否定できない自分もいる。

 天使の死を間近で見たからこそ、彼らの犠牲を減らすなら……とも思っている。


「ンだよそりゃ。結局分からないってことだろ」

「分からないことが分かった。それが収穫よ」

「……そうかよ」


 呆れたように、大天使はため息をつく。


「……ていうか。聞いていたのなら出てきなさいよ。全く」

「いーや、聞いてたわけじゃねぇ。ただの勘だ。ウリエルアイツなら、そうするだろうと思ってよ」


 勘て。なんて思っていると、遠くの方に居た、重装備の天使達が慌ただしく走っている姿が見えた。

 装備の外見から見て、私達を出迎えた戦乙女達、だろうか。反攻作戦の開始時刻は刻一刻と迫ってきているようだ。

 

「ドロシーはどうするつもり? 揉めていたみたいだけど」

「はン。お前に付いていかせるさ。どうせ、そうでもしないと動かねぇだろうしな」

「……まぁ、間違ってはないかもね」


 私も、出発の前にやらないとならない用事がある。

 

「……さようなら、ミカエル」


 その場から歩き出す。騒々しい街と、慌ただしい天使達。混み合う道の中に入って後ろを振り向くと、緋色の大天使の姿は、もうそこにはなかった。

 


「──嫌だね、ボクじゃなくてガブに頼みなよ」

「……そこをなんとか」


 ラファエルと私が、なぜこんなやり取りをしているのか。しかも、緊迫した状況の中で。時間も多くは残されていないのに。


 ──少し前のこと。ミカエルと別れた私は、補給物資が大量に運ばれている街の大通りを通って、”魔導具屋”へと来ていた。

 細かいことを省くのなら、身につけている魔道具……要は魔力増幅用のグローブのメンテナンスの為だ。それなりの期間使い続けていたので、流石にそろそろ点検したい。

 

「……そういえば、鏡写しにされた”モノ”が使えるのかどうか分からない……わね」


 そう危惧した通り、鏡写しのモノに触れても手がすり抜けるのみで、まるで実体がないように感じる。何度触っても同様で、空気を掴むような感覚だ。

 

「あくまでも鏡に写ったものでしかない、というわけね……はぁ」


 いつかの大天使と同じようにため息をつく。天使たちが身につけている装備は、持ち込んだあるいは魔法で生み出したもの、なのだろう。


「……誰かと思えば、キミだったのか」


 ラファエルと出会ったのは、そんな時だった。



「そもそもボクは魔道具弄りの専門家じゃないし。ここには見慣れない反応を見つけて寄っただけ」


 そう言ったラファエルの手には、小さな板状のデバイスが握られている。何の力か、彼女の手が触れずとも宙に浮いて、手の中に収まっていた。

 どこかで見たことがあるような気がしないでもない。


「クロイ、とかいう人間の持ってるアレでしょ」

「……そういえば」


 人間界で悪魔を倒していた時。ドロシーが訪れたことを黒居に教えてもらった覚えがある。彼女の持っているような未来的なデバイスではなく、アナログチックなメカだったが。


「ま、人間かどうかも怪しいけど。少なくとも、ボクは好きになれないかな」


 鏡面世界。これだけ大掛かりな魔法を黒居は知っていて、使った。なんであれ、人間でないのは間違いないだろうが……。じゃあ天使か、と言われるとそれも違うだろう。

 現にラファエルのような大天使が、それほどの力を持つ天使を知らない、とは思えない。


「それに関してはその通りだよ。ボクはこう見えても、天界のすべての情報は”頭の中に”入っているから」

「……それは比喩なの?」

「……ふーん。そう思うかい? 本当に?」


 さっきまで隣で話していたはずの白髪の大天使が、いつの間にか目の前に居た。その水晶のような瞳で覗き込んでくる。……分かったわよ。


「分かればよし。ほら、これ」


 彼女が差し出してきた手の中に入っていたのは、私の魔導用の黒いグローブだった。手の甲の部分には魔法陣が描かれている。って、そうじゃなくて。


「……壊れてもないし、壊れそうでもない。安心して使いなよ。ボクのお墨付きだ」

「……さっきまでと言ってることが違うのだけど」

「……別にいいじゃん。それより、アレ」


 ラファエルが指を指した先。目を凝らすと、白色の点がある。その点は、こちらへ向かってきているようで、徐々にシルエットが大きくなってきた。……どうやら、天使のようだ。しかし、見たことがない。


「ボクの所の天使さ。ご苦労なことだね。そろそろ、ということかな」


 そう言いかけた時、天使が舞い降りた。光が白い羽根を照らし、輝きを増している。


「──ラファエル様。ウリエル様より、至急集合せよと」

「……わかった。ありがとね」


 短い言葉を交わしたと思うと、伝令を果たした天使は飛んで帰っていった。


「……エインフィールド。キミも来たほうが良いよ?」

「いや、私は」



「大天使だけで天界の行く末を決めるのは、あまり良い事ではないしね」

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