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34.大天使たち


 今の天界には、かつてのように暖かい光は差していない。ベリアルが悪魔を放った際に、空を”黒い雲”で覆い隠したからだ……というのがミカエルの話だ。


 人間界で例えるならば、深夜に街頭や家の放つ光も無く、空も雲で覆われて星も見えないといったところか。とはいえ、皮肉なことに、敵の放った火が、なんとか明かりの役割を果たしていた。


 周囲を見渡しても、地面に転がる瓦礫か、倒壊した建物だらけだ。噴水のようなオブジェも見えるが、流れる水はほとんど干上がり、破損した箇所から少量の水が漏れ出している。

 街の面影はほとんど残っていない。天使も生きている者はすべて助けられたのか、ここで見えるのは……。


「ここだよ」


 ラファエルの方向を見ると、彼女の指差す方向には、瓦礫の積み上げられた山があった。何も無いように見えるけど。


「もし何かあるように見えたのなら、ガブリエルの秘匿の魔法が消えかかってるってことさ」


 ミカエルが口を挟む。


「……オレでも中の気配を”視”れねぇな。これじゃ悪魔も見つけられないだろうな」


 そのままラファエルは、”何か”があると思われる空間の前に立ち、手を前に突き出す。

 呪文を唱えて魔法を使うのか──と思ったが、彼女はそのまま突き出した手で虚空に”ノック”をし、小声で何かを呟いた。


 すると、先程まで何もなかったはずの空間に、光の壁のようなものが現れた。

 盾……あるいは障壁の魔法の一種だろうか。


「……君、そういえば魔法に精通しているんだっけ。まぁいいケド──」


 瞬間。──剣閃。金属と金属がぶつかり、甲高い音が耳に入る。音がした方へ向くと、先程見た倒壊しかけの噴水の前でミカエルが剣を抜いている。

 悪魔か? いや、一級悪魔クラスならともかく、雑兵レベルなら剣の一薙ぎで殺せるはず。であるならば。


「……テメェ……何のつもりだ?」


 大天使に斬りかかっていたのは、黒いゴシック装束に身を包んだ黒髪ツインテの。


「此方の台詞だ……”大天使”」


 戦乙女、ドロシー・フォン・ヴァルキュリアだった。彼女は、その血のように紅い瞳で、ミカエルを睨みつけている。辺りの空気がピリつくが、ラファエルは、それを無言で退屈そうに眺めるだけだった。


「はン。ここで事を構えるほど。お前は間抜けじゃねぇと思うが」


 仮にも戦乙女と大天使が争えば、それこそ自らの位置を自主的にバラすようなものだ。それを理解してか、ドロシーは斬り掛かっただけで次の行動に出ない。


 ここに来て、ミカエルに降ろされてからは、おそらくこちらの声は聞こえていた。ここが抵抗勢力の拠点であり、落とされればもう後はないことを、理解あるいは察しているのだろう。


 ただ時が流れる。睨み合いを続ける二人だったが、ラファエルの”ため息”が聞こえると、ドロシーが剣を納めた。ミカエルも、剣を背中に背負う。


「……信用したわけではない。……ただ今は、敵を倒す為に協力すべきだと思っただけだ……」


 バツの悪そうな顔でそう言うドロシーに、気にしてないといわんばかりにミカエルは近づき、肩を叩いた。


「それでいい。ベリアルをぶっ潰した後なら、いつでも殺しに来て良いぞ」


「殺せるなら、だがなァ?」

「っ───」


 二人がまた剣の柄を掴み、”少しは仲良くしろ”と言おうとした時。大天使と戦乙女は黙ったまま、気を貼りつめらせて周囲の様子を伺っている。


 何を……いや──”居る”。僅かに漂う天使の気配を感知したのか、周囲を悪魔達が取り囲んでいた。数は十……よりは多い。低級悪魔のようではあるが。とはいえ、ここで戦闘をするわけにはいかない。魔法で消すしかないのか。


「……アンタ達、何をしてるのかと思えば」


 背後──抵抗勢力レジスタンスの拠点の方からの声。しかし、聞いたことのある声だ。そのまま足音が近づいてきて、私を抜かしてミカエルの下へ。


「ま、待て。ガブ」

「何してんのよミカエルっー!」


 大天使の耳を掴む、子供を叱る親のようなガブリエル。どこかからため息をつく声も聞こえるが、呆気にとられるドロシーを尻目に、”悪魔”が押し寄せる。

 影からやってくる、黒い塊。戦乙女と大天使は急いで剣を構えるが。


「遅い──」


 そういったガブリエルが、パチンッと指を鳴らすと、周囲に真っ黒な魔法陣が生まれ、悪魔がそこに吸い込まれていく。逃げる者も居るが、吸引する力のほうが勝っている。


「これは……魔導ね。でも、純粋な魔導じゃない?」

「正解。悪魔の”成分”を術式に組み込んでる。悪魔だけを対象として、”分解”する魔導よ」


 魔導を分析していた私の横へ、ガブリエルが来ていた。


「……えげつない術ね」

「目には目をってこと。コイツらのやったことを考えれば、これでも足りないくらい」


 彼女の目の先には、下半身に相当するであろう部分だけ”飲まれ”て息絶えた悪魔が居る。剣を振り回すよりも派手にやってるけど、大丈夫なの?


「引き込まれた悪魔の痕跡は消える。まぁバレないってわけじゃないけど、しばらくは問題ないよ」


 未だ口をぽかんと開けたままの戦乙女達。かくいう私もそうだけど。四大天使のうち三つの”座”が揃っているなんて、普通ならばありえないことだし。

 管理するモノも場所も全く異なる大天使が集まるこの状況。いや、ウリエルが居ないのか。


「それも話す。とにかく中に来て」


 ガブリエルが廃墟の前に立ち、秘匿を解く。瓦礫に埋もれていた空間には、地下へと続く階段が表れ、彼女は下っていく。


「行きましょう。ドロシー」

「……あぁ」


 複雑そうな表情カオの戦乙女。鬱屈とした風景と雰囲気のせいで、余計ひどく見える。


「なに、その……。いずれにせよ、私達のやることは決まってる。ベリアルを倒して、アンジュを救う。誰に、何を言われようとも、ね」


 ドロシーは、何も言わない。しかし、彼女が顔を上げ、前を見た時の瞳には、迷いはあれど、戸惑いは消えていたように見えた。



「……ガブのヤツ、あんなに怒ることねぇだろ……」

「日頃の行いを見直すいい機会じゃん。言っておくけど、僕は早く行けって言ったからね」


 ……もうちょっと仲良くしなさいよ。

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