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26.袋小路迷路街

「ドロシー、アンジュの位置は!?」

「我とて、盟友の居場所が分かるわけではないっ!」


 天束エインと、ドロシー・フォン・ヴァルキュリアは、走っていた。雨の中の住宅街を、ただひたすらに。ばしゃ、と彼女たちに踏まれた水溜りが音を立てる。

 迷宮のように入り組み、数多の十字路で構成された迷路住宅街で、アンジュ・ド・ルミエールはどの道を辿ったのか──。


「はぁっ……はぁっ……。一旦止まって。何かが……おかしい」


 不思議そうに首を傾げるドロシー……の後ろにある花壇を、エインは見ていた。赤色と黄色の花が、等間隔に植えられている。二色の交互のグラデーションは、美しく見えるだろう。……通常通りなら、だが。


「……」

「どうしたのだ。急がなければ、盟友が──」


 銀髪の天使は。顎に手を当てて、何かを思案するようにぶつぶつ独り言を呟いている。


「聞いているのか、エインっ!」


 友人の身を案じて気が立っているのか、戦乙女はエインに詰め寄り、傘を持っていない方の手で腕を掴む。


「いい加減に……」

「ドロシー」


 エインは、戦乙女に真剣な顔をしてみせる。


「空、飛んでみて」


 何を突然──と言いかけるドロシーであったが、銀髪の天使の視線に押し負けた。傘を畳んで持ち、空を見上げて羽根を広げる。そんな彼女の姿が、足元の水溜りの表面に反射していた。

 エインと違い、今まで雨に濡れていなかったドロシーのゴシックな服が、水分を吸っていく。


「……こんなことをしている場合じゃないだろうに」


 ぶつぶつと文句を言いながら、中二病天使は空へと飛んでいく。灰色の雲に埋め尽くされた空。雨を跳ね除けながら、飛んでいく彼女の姿が──。


「やっぱりね」


 一定の高さまで飛び上がった瞬間に消失し……エインの目の前へ戻ってきていた。急な地面の感覚に戸惑い、ぐらつく彼女を、エインは支える。


「せ、世界がひっくり返った……」

「んなわけないでしょーが。ひっくり返ったのは、どちらかと言えばあなたの方だし」


 天束エインは、再び花壇を見つめる。その花壇は、彼女がこの住宅街へ足を踏み入れてからというもの、何度も見てきたものだった。

 同じ花、同じ植え方、そして同じ場所。そして、ドロシーの身に起こった現象。これらから、エインが導き出したのは。


「……閉じ込められた、か」


 エインが、雨雲を見てそう呟く。


 ……同時刻。この迷路のような街に、一人の天使と悪魔の一匹。逃げ続ける悪魔。それを逃すまいと追う天使の執念。


「しつこい天使さんですねェ」

「当然ですっ!」


 アンジュ・ド・ルミエールが追いかけていた黒い影──その正体は、人型の悪魔だった。だが、かつて戦乙女に取り憑いたそれとは異なり、その外見は、人間と遜色ない。


「絶対、絶対、ぜーったいに、逃しませんから!」


 とはいえ、ここは住宅街だ。彼女は弓を撃つことができず、もどかしい思い抱えていた。その思いを見透かしたかのように、悪魔は笑う。

 降りしきる雨をかき分け、アンジュは飛ぶ。厳密には加速のために羽根を展開しているのだが、飛ぶように見えている。かたや悪魔も──。走る……のではなく、地面を蹴り、前に跳躍するように逃げている。


「……」


 悪魔は十字路を右に曲がった。アンジュも、それに続く、が。


「っ!」


 そこには、紫色の障壁があった。天束エインの用いるそれと外見は似ており、アンジュにも、それが魔導によって生み出されたものであることは理解できる。

 いや、理解できるからこそ。赤髪の天使は、敵の次の手が手に取るように分かる。


「ほう……」


 目前の天使の首をはねようとした悪魔であったが──。すんでの所で飛び退いたアンジュに弓を向けられ、形成が逆転する。


「首から上を飛ばしたつもりでしたが……。いやはや、手強い相手だ。アンジュ・ド・ルミエール」

「なっ、なんで私の名前を」


 動揺。天使の弓を引く手が緩む。一瞬の隙を、悪魔は見逃さない。


「──二度目はありませんよ、見習い天使」


 反射的に、自らに放たれた黒色の光弾を弓で弾くアンジュであったが、その勢いで体勢が崩れる。


「くう……っ!」


 アンジュに向けて放たれた二発目の光弾は……。またも、天使には着弾しなかった。”何か”に弾き返されたそれは、近くの地面へめり込み、えぐれた後を残す。


「……誰です?」


 煙。着弾地点から、煙が立ち上る。アンジュ・ド・ルミエールと、謎の悪魔の間に入るようにして、突如現れた”それ”の姿は、次第に晴れていく煙と共に明らかになっていく。

 真紅の長髪。軽装の鎧のような服の上に羽織った、黒色の外套。そして、彼女が握る、竜の尾のような巨大な赤色の剣。


「……はッ」


 笑った”それ”は、剣を一瞬のうちに引き抜き、悪魔へ振る。片手で振られたその剣は、赤色の剣閃を放ち、その軌道上にあるものを抉る。コンクリートの地面と壁。置かれたゴミ箱。全てが切り裂かれる。悪魔を残して。


「あァん? 躱しやがったのか」

「……危険なお客人だ」


「……フザけんなよ。オレは、”人”じゃねェ」


 明らかに不快そうな表情を浮かべたそれは、剣を背中に背負い──真っ赤な羽根を開いた。


「オラァッ!」


 その天使が、思いっきり足で地面を踏む。すると、突如として現れた炎が一気に燃え上がり、彼女たちを囲んだ。アンジュは手で顔を覆って、火の粉から眼を守る。


「ひ、ひぃ〜! なんなんですかぁ〜! 熱いです〜!」

「はん。エインフィールドにくっついてるヤツか。見た目通り弱そうだな? あ?」

「し、失礼な! ……って……。あなた、は……」


「黙って見てな、見習い天使」


 悪魔も火を恐れるのか──、彼女たちの目前の人型悪魔は、息を上げながら天使を睨む。


「誰だか知りませんが……消えていただきますよッ!」


 悪魔は凄み、手にナイフを持つ。光を反射せず、黒い闇のような刀身は、炎の中にあっても、輝くことはない。飛びかかる悪魔のその武器を……天使は、血一滴流さず、手で握って受け止めていた。口に笑みを浮かべながら。


「──チッ。この程度かよ。つまんねェな」


 その笑みは一瞬で消え、血すら流れない手を離す。後ずさる悪魔へ、天使は背中の大剣を振り下ろし──。


獄炎天斬ごくえんてんざんッ!」


 剣。炎の刃。剣閃の形をした熱の塊が、悪魔の体を二分した。その切り口からは、血液すら流れない。


「……ったく。言い忘れたな」


「オレはミカエル。魂に刻んどけ。生まれ変わってもオレに復讐しに来い。いつでも相手してやるからよ」


 斬られた悪魔の体が地面に倒れると、炎のサークルに包まれ、灰になって消える。すると、ミカエルは。


 

 アンジュの方を見て、剣を構えた。

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