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22.ガブリエルの思惑

「──それで、何の用があるわけ? ……あなたが姿を見せている時点で、ただごとではないと思うけど」


 黒居の家までたどり着いた三人組の天使とプラスアルファの大天使達は、居間に通され、椅子に座りながら話していた。湯呑に注がれた茶を飲みながら。


「色々と、ね」


「その色々を聞いているんでしょうが」


 言葉のキャッチボールを交わす二人を見る、別の二人組。


「まさか、あの者が大天使様と旧知の仲だったとは。意外な側面もあるものだ」


 エイン達とは反対側に座る、アンジュとドロシー。


「でも、なんで急に来られたんだろう?」


 アンジュがそう独り言を呟くと、エインと話し込んでいたガブリエルが彼女の方を向き、口を開く。


「用があるから、よ。エインフィールドにも、あなた達にも」


 だんっ、と大天使の横から音がした。銀髪の天使が一気に茶を飲み干し、湯呑を机に置いた音だ。少し、力んではいたが。


「だから、その用ってのは何なのよ」


「……」


 ガブリエルが一向に説明しようとしないのは、エイン達を、というよりは、あの得体のしれない”人間”を警戒してのことだった。ものの、流石に、彼女もこのまま黙ってはいられず。


「……分かった。話す。あなたも、見習い天使たちも、聞き耳を立てている人間も、よく聞いておきなさい」


 次に彼女の口から飛び出してきたのは、──主に天束エインにとって──衝撃的なものだった。


「──ベリアルを倒すのに、どうか手を貸してほしい」



 一瞬、場の空気が停止する。大天使の口から発せられたのは、この場に居るある天使にとって、聞き捨てならない名だった。だが、先に口を開いたのはその天使ではなく。


「だ、大天使様! 待ってくれっ! それは一体……」


 そう戦乙女に問われたガブリエルは、当然の疑問だ、と言って続ける。


「簡潔に言う。ベリアルに従うフリをして反撃するつもりだったが、失敗した。ヤツは天界と地獄とを繋ぎ、世界のつながり・・・・・・・を破壊しようとしている。だから、手を貸してほしい」


 その場に居た誰もが黙り込んでいた。みな、大天使の口から発せられた言葉を、とても真実だとは思えなかった、いや、思いたくなかったからだ。


 そんな空気を破ったのは、天束エインだった。


「……ベリアルは、どこまで天界を?」


 問われたガブリエルは俯き、細めた目で地面を見ながら答える。


「私以外の四大天使も、持ちこたえてはいる。でも時間の問題」


 ……沈黙。静かな時間が流れる。重苦しい時間だ。隣の部屋から聞き耳を立てていた黒居も、ある程度は想像がついていたものの、彼の思うより、事態は深刻だったためか、彼女たちに割込もうとしない。


「──あ、あのっ!」


 そんな静寂に支配された空間に、ひときわ大きな声が響く。


「……何かしら、アンジュ・ド・ルミエール?」


「手伝いたいとは……思ってます。でも、四大天使様達ですら敵わなかった相手にどうすれば……」


 机の上の、冷めた茶の表面に映る赤髪の天使の表情は、不安げなものだった。それに対し、ガブリエルは、少し笑って答える。


「……私が言うことではないかもしれない。けれど、一応言っておく。あなた達は力を合わせ、あの一級悪魔を退けた。──もっと誇りなさい。それが許されるほどの事を成した。あなた達はね」


 それを聞いたエインは、ガブリエルの方へ向き直る。


「……もともと、ベリアルを倒すつもりだった。渡りに船よ。手を貸す。だけど、一つ条件があるわ」


「言ってみるといいよ」


 エインは、見習い天使と戦乙女の方を指差し、こう告げた。


「──この二人を戦いに巻き込まないこと。やるなら私だけで──」


「待ってください!」


 ガタッと椅子が勢いよく動く音。──立ち上がった赤髪の天使が、エインの発言を遮る。


「……私達じゃ……力不足ですか……」


 戦乙女は、ただ黙って目を伏せている。


「そ、そういうわけじゃない。私は、あなた達の身を案じて……」


 必死に弁解しようとする銀髪の天使。ガブリエルは、天使たちの揉め事をつまらなさそうに見ている。


「……案じるのなら、自らの身だけにしておけ」


 ドロシーは目を伏せたままだった。が、その体勢のまま口を開く。


「我も、アンジュも、貴公からしてみれば、ひよっこ程度にしか見えぬだろう。だが、勘違いしないでほしい」


 ドロシーは目を開き、まっすぐな視線でエインを見つめる。


「──我らとて、覚悟はしている。悪魔と戦う、覚悟を。その覚悟を、あまり見くびらないでくれ」


 戦乙女の発言に、アンジュは無言で頷く。ただそれを見ていたガブリエルは、言葉に詰まるエインの肩を叩き、


「……話は決まったようだね。……エインフィールド?」


「……そうね。どうやら、この娘達を見くびっていたみたい」


 天束エインは笑った。なぜかは分からない。だが、彼女は、嬉しかったのだ。見習い天使と戦乙女達が、いつの間にか、天使としての覚悟を身に着けていたことが。


「……で、ガブリエル。私達にどうしろ、と?」


「そうだね……」


 大天使はひとしきり考える素振りをした後、全員に向けて説明を始めた。


「君たちが天界へ行くのは得策じゃない。しばらくは、地上に送り込まれる悪魔を倒して、弱点を探ってほしい」


「弱点……ですか?」


 不思議そうな顔をしているアンジュを見たガブリエル。


「そう。ベリアルは、主に悪魔を使って天界を落とそうとしてる。だから、だよ」


 それを聞き、成すべきことをひととおり理解した天使たちは、”分かったわ”というエインの声を聞く。


「で、あなたはどうするつもり?」


 エインはガブリエルへ疑問を投げかける。


「決まってる。私達の使命は天界の守護だよ。あんな輩をほったらかしにはできないでしょ?」


「……そう、ね」


 全員が机から立ち上がる。黒居は姿を見せない。が、勝手に帰っても気にしないだろう。


「あ」


 なにかに気づいたようにガブリエルが呟き、今度は逆に、大天使が天使たちへ問う。


「君たちこそ、天界に関する質問が私にあるんじゃない? 大丈夫?」


 天使たちは顔を見合わせた。そして、エインが言う。


「ええ、あるわよ。たくさんね。でも、今やるべきことじゃない」



「──共にやるべきことをやりましょう。あの趣味の悪いベリアルを、倒すためにね」


 その場に居る皆が頷く。アンジュも、ドロシーも、ガブリエルも、おそらく、隠れて見ている黒居も。



「……さぁ、ベリアル。反撃開始よ」


 天束エインが、誰にも聞こえないような小声で、そう呟いた。


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