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21.四大天使

 黒居の家へ向かって歩く三人組の天使。その真ん中を歩く天束エインは、どうやら、立てる程度には痛みが引いてきたようで、他の天使──アンジュ・ド・ルミエールと、ドロシー・フォン・ヴァルキュリアの助けを借りずに自力で歩行していた。

 

「アンジュ、その話本当?」


 むしろ。自分の傷以上に、アンジュが告げたことに対して興味を持っている始末だ。

 

「は、はい。前の悪魔さん達と違って、倒れた場所に魔導書は落ちてませんでした……」


「うーん……。なるほど、とすぐ納得できるわけでもないけど、分かったわ。ありがとう」


 歩きながら顎に手を当て、眉間にシワを寄せるエインへ、ドロシーは不思議そうな顔で問う。

 

「……何のことだ? 我はそんな報告は受けていなかったぞ」


 傘を開いて肩にかけているドロシーへ、銀髪の天使はその姿勢を崩さないまま、口だけを動かして答える。

 

「……そうでしょうね。私の考える仮説が正しいのなら、きっとあなたのようなヴァルキリーには、隠しておきたいことでしょうし」


 しかし、納得のいっていないという表情かおをした戦乙女が、更に問いかける。

 

「ふむ。それは、貴公の言っていた、ベリアル様がどうたら、といった事柄にも関係しているのか?」


 エインは、先程と同じように、しかし閉じていた目を開いて、呟く。

 

「多分……ね。今はまだ証拠が足りないし、ドロシーの言っていたことが本当なら、一度天界にでも行く必要があるかもしれない」


「……難しい話、だな。我は敗北した戦乙女。アンジュは特に何を侵したというわけでもないが、疑いの目が向けられている。”扉”を開いたところで、向こうも応じるとは限らん」


 今度は、赤髪の天使が口を挟んだ。

 

「あ! それなら、黒居さんが何とかしてくれるかもしれませんよっ!」


 その男の名を聞いたエインは、ジト目になり肩を落とす。

 

「はぁ……。結局、あいつ頼みになるのねぇ……」


 だが、戦乙女は何がなんだか分からないといった顔だった。それも当然のことで、彼女は黒居に接触してはいるものの、その名はいまだ知らない。

 

 自分を異空間に閉じ込め、離れた座標まで一瞬で移動させた”あの男”が、友人たちの頼る者だということを。

 

「にしても、盟友よ。悪魔に”さん”付けとは、随分と甘いのだな?」


 戦乙女が、話題を変えた。ドロシーと顔を合わせたアンジュは、少し恥ずかしそうに頬を赤らめて、

 

「え、えーと。もしかしたら、お話ができるのなら、戦わなくても良いのかも……とか思ったんだ」


 エインも、手放しに、というわけではないものの、少し彼女の意見を肯定した。

 

「……まぁ、可能性だけなら、ね。そもそも、天界の歴史からしても、私達の理解できる言語を用いる悪魔の出現は初めてのことだもの。戦いを避けられるのなら、それに越したことは──」


「甘すぎだな、貴公は」


 戦乙女が、呆れたとでも言いたげな顔で割り込んでくる。

 

「何よ。私が倒したいのはベリアルであって悪魔じゃないわ。なら、悪魔と戦わないことに越したことはないでしょう?」


 戦乙女の顔は傘で隠れ、表情を読み取ることはできないが、少し場の雰囲気が悪くなっていることは、明らかだった。

 

「それが甘いと言っている。我らが天使に与えられし使命は、悪魔の殲滅と世界の平和の維持だ。目的がどうあれ、見逃して良い理由にはならない。無論、和解の理由にも」


 赤髪の天使があわわと慌てる横で、銀髪の天使は更に言葉を返す。

 

「良いことを言うわね。その使命をベリアルに利用されているとも考えずに。大したものだわ」


「……何だと?」


「……何よ」


 傘からちらりと顔を出し、鋭い目つきになっているドロシーと、それを一瞥するエイン。そして、あぁどうしよう、どうするべきかと慌てふためくアンジュ。

 

 行動を共にしたとはいえ、一度だけ共同戦線を敷いただけだ。共通の敵を失ったため、一触触発の空気に陥ってもおかしくはない。

 

 だが──喜ばしいことに、この場を収める者が居た。それはアンジュではなく……喧嘩寸前の天使たちの目の前・・・に立っていた、少女だった。

 

 赤髪の天使と同じぐらいの背丈で、美しい水色の髪。そして、儚げな緑色の瞳。普通でない存在が、そこに居た。

 

「っ! 何者だっ!」


 ドロシーは一歩引き、剣を構えようとする。しかし、それに対してエインは、むしろその謎の少女に歩み寄った。

 

「……もしかして、ガブリエル……なの?」


 次に、問われた少女はニヤリと微笑み、

 

「──正解だよ、エインフィールド。いや、今は天束エイン……だったか?」


「どっちでもいいわ、別にね」


 その少女が──ガブリエルであることが分かると、エインはさぞ面倒そうな顔をして、彼女の元へ駆け寄っていく。

 

「ど、ドロシーちゃん、あの子が……ガブリエル様なんでしょうか?」


 戦乙女は剣を傘に戻し、地面へ付き立てて、それに手をかける。

 

「……分からん。だが、四大天使様は滅多にお姿をお見せにならない。……だとしても、かの天束エインが、なぜその真なる姿を知っているのか……」


 喜ぶエイン。不思議がるアンジュ。疑うドロシー。そして──彼女たちと接触した大天使の一角、ガブリエル。

 

 三人の天使達は、この時はまだ知る由もなかった。──既に、自分たちが、大きな運命の中にある、ということに。

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