表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/76

17.新たなる魔法

「はぁっ……!」


 転移の術を使用した天束エインは──どこの誰が所有しているのかもわからない山の奥地まで来ていた。すこし開けた場所があり、そこで彼女は、

 

「──魔導砲マギカ・ブレイクッ!」


 先日、アンジュ・ド・ルミエールへ伝えてみせた、魔導砲マギカ・ブレイクという、対戦乙女用の切り札を習得するために訓練をしていた。

 周囲の木には切り傷のようなものがついていたり、地面が少しだけ抉れているものの、これでは”切り札”とは到底呼べない。

 彼女が今放ったものも、細い光の線が少し出て、十メートル先の背の高い草を斬っただけだった。


「アンジュにはああ言ったけど……。彼女が敵う相手じゃない。もし、ドロシーが本当に自分の意志であの状態になっているのなら……。いや、今はそんなことを考えてる場合じゃないわ」 


 そう。彼女は、アンジュへドロシーの事を任せてきた。それは、自分が魔導砲マギカ・ブレイクを習得し、彼女と戦乙女が接触するまでに戻るという自信があったからだ。しかし。

 

「魔法を考えたのなら……使えるようにしときなさいよ……。恨むわよ、昔の私」


 全く進捗が無い状況に、天束エインは少し自嘲気味になっていたのだった。そして、そんな中、アンジュはどうしているのかというと。

 

「あら、アンジュさん。今日はお一人ですの?」


「あ、萌木ちゃん」


 萩目学園の廊下で天ノ宮萌木と話していた。つまるところ、至って普通の学校生活を送っていたのである。

 特に、件のヴァルキリーに絡まれることもなく。その点に限っては、天束エインの憂慮するようなことは起きていなかった。

 

「萩目さんや他の方と、放課後に遊ぶ約束をしてるのですが、アンジュさんもどうです? わたくしと一緒に来ません?」


 いつものアンジュなら承諾しているだろう。だが。

 

「うーん。ごめんなさい。今日はちょっと……用事があるので」


「あら……そうですの。まぁ、無理強いはできませんわね。にしても……」


 天ノ宮萌木は、そのツリ目でアンジュの顔をじっと見つめる。

 

「いつもと比べると顔色が悪く見えるのだけど、体調は大丈夫なのかしら? エインさんも欠席しているようだし」


 アンジュは、一応学園へと通い続けることになったが、天束エインは少しの間体調不良・・・・ということで,、欠席扱いとなっている。

 

「少しだけ……。少しだけ、やらないといけないことがあって。それで私、緊張しちゃってるんです」


 赤髪の天使の手はぷるぷると震えていた。エインからのアドバイスはあったが、彼女とて、そう簡単に受け入れられるものでもない。

 ただ、彼女は怖かったのだ。そんなアンジュを勇気づけるように、天ノ宮は震える彼女の手を握る。

 

「大丈夫ですわ。きっと、アンジュさんなら。だって」


「だって……?」


「──だって、あなたは、こんなわたくしを救ってくださったもの。その優しさと、諦めの悪さ、でね」


 天ノ宮萌木は、照れくさそうに笑う。今では彼女も、以前と比べて親交のある学友が増えた。それはひとえに、アンジュが背中を押したからだ。

 

「うん……そうだね、萌木ちゃん。……ありがとう」


 そう言ったアンジュは、真っ直ぐな目をして駆け出していく。そのひたむきな姿に天ノ宮は笑みをこぼす。

 

「ふふっ。変わりませんわね、アンジュさんは」


 天ノ宮も、自分を呼ぶ声が聞こえ、その場から立ち去っていく。そして、アンジュは。

 

「──待っててよ、ドロシーちゃんっ!」


 友人の道を正す為、ただがむしゃらに、彼女を探そうとしていた。さて……失翼の天使の元へ場面は戻る。しかし一向に、彼女に進展はなく、未だ魔法を習得できずにいた。

 

「……何かが、何かが足りない……? でも、一体何が」


 天束エインは、またも発動に失敗した、魔法陣が展開している自分の手のひらを見て、そう呟く。

 

「はぁ……。疲れた。少し休憩よ」


 彼女は、草の生えていない地面へ腰を落とす。小鳥のさえずりと、風の音しか聞こえない環境。

 天束エインは、座っている体勢から、背中を降ろし、寝転んだ。空を見上げながら、彼女は思考にふける。

 

「魔法ね……。魔法……。私もアンジュぐらいの時に、学校で習ったっけ……」


 エインの頭の中に、見習いの学生天使だった頃の自分の姿が浮かぶ。今より少し背は小さいものの、制服を着る姿に、劇的な変化があるわけではない。

 

「魔導書を図書館で先に読んでたから、魔法の講義がバカバカしく思えたなぁ。……今思えばとんだ悪ガキね、昔の私は」


 魔導書を読む幼い頃のエインの思い出。──魔導砲マギカ・ブレイクも、その頃に思いついたものだっけ──、と彼女は思い出す。

 子供の考えた魔法ゆえに、その仕組は単純。それは、自らの魔力を数百倍に増幅して撃ち出す、というものだ。

 

「それで先生に怒られて。魔法の唱え方を一日中教えられたっけ。あーあ……。懐かしいな」


 そんな悪ガキ天使が、地獄に遠征を任されるほど、強くなった。しかし、彼女は人間界へ落ち、またゼロからのスタートを切ることになる。

 

「……初心に帰るべき……か。……よしっ!」


 天束エインは少し目を閉じたあと、深呼吸をして一気に立ち上がる。次に彼女は、魔法陣を生み出す。そして、その魔法陣の中に腕を通し。

 

「まずは……魔法陣を体に埋め込んで慣らす」


 彼女の腕に、魔導書や魔法陣に使われている文字が、光を帯びて浮かび上がっている。

 

「次に、魔法をイメージする……」


 エインは目を閉じて、”想像する”。自らの放った魔導砲マギカ・ブレイクの、全てを薙ぎ払い、極大な光を纏うイメージを。──手から放たれた魔導砲マギカ・ブレイクは、木をなぎ倒し、土をえぐり、そして。あの戦乙女を──倒す。

 

「ッ!」


 彼女はかっと目を見開く。自分の右腕を前方に真っ直ぐに構え、左腕でそれを抑える。

 両腕の文字が放つ光がどんどん増していく。彼女の美しい蒼色の瞳も、まるで光を帯びているかのように、輝きを増していく。

 

 空気が揺れている。草木が揺れている。この山に生きるすべての生物が、息をしただけで肺が裂けそうなぐらいの空気を感じている。

 ──瞬間。天束エインが息を止める。まるで、世界の時が全て止まったかのように──。

 

「──魔導砲マギカ・ブレイクッ!」


 静寂を、天束エインの声が破る。渦巻く空気は、彼女の放つ”光の奔流”に絡め取られ、その勢いを増す役割を担う。彼女から放たれた魔導砲は、その直線状にあるすべてのものを”消し”ながら、その破壊力を余すことなく、光が消えるまでの時間いっぱいまで、放たれ続けた。

 

「はっ……はっ……」


 撃った彼女は、疲れていた。黒居の術を受けてからは、以前ほど魔法で疲れにくい体にはなっていたものの、流石にこれには堪えたようで、腕の魔法文字も光を失い、その姿を消していた。彼女は倒れ、先程と同じように寝転ぶ。

 

「や、やったっ……! これなら……。きっと……」


 天束エインは、寝た。いや、無理もない。彼女は、ここ数日の間、魔法を習得するために、眠ることなく特訓を続けてきた。

 ならば、今だけは──。しかし、彼女が寝ていられる場合ではなかった。なぜなら、アンジュ・ド・ルミエールが。

 

「見つけたよ……ドロシーちゃんッ!」


「……盟友」


 エインよりも先に、ドロシー・フォン・ヴァルキュリアと接触していたからだ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ