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29話 蝉原の弟子『超苺』視点(5)。


 29話 蝉原の弟子『超苺』視点(5)。


 あの顔面タトゥー、

 俺が使った『魔法のランク』の高さに驚いている。


 ランク23は、『存在値700』以上でないと使えない魔法。

 俺が使える魔法の中でも、最高位の魔法だから、

 まあ、この世界の住人にとっては、破格だろう。



「まさか、き、貴様……龍の女神の擬態ぎたい……」



 と、ワナワナしている顔面タトゥーに、

 師匠せみはらが、


「ランク23程度の魔法が、そんなに珍しいか? じゃあ、もっと面白いものを見せてやろう。――『黒夢こくむランク25』――」


 そう言って、師匠は、

 顔面タトゥーに、幻影系の魔法を使った。


 相手に悪夢を見せる魔法。

 その魔法をくらった顔面タトゥーは、


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ」


 ありえないレベルの地獄を見る。

 肉体にはダメージを負わないが、

 メンタルがボロボロになっていく。


 あれは……くらいたくないねぇ。

 まあ、俺ぐらい存在値が高いと、幻影系の耐性も高いから、そんなにはくらわないけど。


「うぐ……うぇえ……おぇえ……っっ!」


 きたないゲボを吐く顔面タトゥー。

 師匠は、そんな顔面タトゥーの髪の毛をつかんで、


「世にも珍しいランク25の魔法をくらった気分はどうだ? え? たのしかったか? うれしかったか? 最高だったか? えぇ? おい、こたえろよ」


 ギラっと光る強い目でにらみつけられ、

 顔面タトゥーは、


「ひ、ひぃいい!」


 おびえちらかして震えている。


 そんな顔面タトゥーに、師匠は容赦ようしゃなく、


「ちゃんと答えろよ。おれを不快にさせるな。それとも、もう一回、くらうか?」


「ひっ、ひぃいい! 勘弁してください! 申し訳ありませんでした! あなた様に逆らった私が愚かでございました! 反省しております! だから、どうか、お慈悲じひをぉおおおお!!」


「言っただろ。交渉チャンスは一度だけだ。てめぇは死ぬ。誰よりも無残な地獄を見ながら」


「ど、どうかぁああ! どうか、許してくださいませんかぁあああ! おねがいいたしますぅうう!」


「んー……そうだなぁ……じゃあ、最後に、もう一回だけ、チャンスをやろうか」


「ほ、本当でございますか!」


「ただし、裏切ったら、すごい目に合わせるけどねぇ」


 ニタァアっと、ものすごい顔で笑う師匠。

 いつも思うけど、師匠の笑顔はキモすぎる。

 『悪人面の最終形態』と言っても過言ではない。


 師匠は、顔面タトゥーの反応を待たず、

 続けて、


「というか、ぜひ裏切ってほしいなぁ……お前の命で遊びてぇ……なあ、裏切ってくれよ。頼むから。そうすれば、心おきなく、お前に、地獄をたたきこめる」


「い、い、いえぇええ! 絶対に裏切りません! あなた様を裏切るほど、私は、おろかではありません!! ですから、どうか! どうか、ご容赦ようしゃを!!!」


「……んー、つまんねぇなぁ……まあ、いいや。じゃあ、これから、お前は、超苺の配下につけ」


 そう言ってから、師匠は、俺に視線を向けて、


「超苺、この裏カジノの支配をお前に任せる。ここにいる連中は、全員、お前のものだ。好きに使え」


 ……いや、好きに使えと言われても……

 俺に、何をしろと?

 俺、そういうの、むいてないんですけど。

 師匠たちの後ろを『チョロチョロとついていくだけの金魚のフン』がしょうにあっているんですけど。


「とりあえず、この裏カジノを足がかりにして、裏社会全体に圧力をかけていく」


 と、師匠が宣言すると、

 そこで、クロートが、『もう我慢できない』という顔で、


「師匠……超苺こいちごは、『己の武』に没頭ぼっとうしてしまう求道者きゅうどうしゃタイプ。裏カジノをうまく運営するのは、なかなか難しいかと。私であれば、このような任務はたやすく――」


 と、自分をアピールするクロートに、

 蝉原は、


「あくまでも、ここは足がかりだ。裏社会に浸透しんとうしていくための『とっかかり』にすぎない。その『箱』の管理を任せる相手として、抜け目のない超苺は適任。クロート、お前には、俺の側で、手足になってもらう。一番信頼のおけるお前には、いつもそばにいてほしいんだ」


「……っ……はっ! かしこまりました!」


 嬉しそうな顔でそう返事をするクロート。


 いや……引き下がるなよ。

 お前がやってくれよ。

 裏カジノの支配とか、そんなダルいことしたくねぇよ。


 ――正直、マジでイヤだったのだが、

 その想いを『口にする』ほうがダルかったので、

 俺は、いつものように黙りこくる。


 ……もっと喋ったほうが、絶対にいいんだろうけどねぇ……

 しゃべるの、ほんとダルいんだよねぇ……


 ……と、そこで、

 『カミーレン』が、俺に、


「……事情はよく分かりませんが……今後は、あなた様が、このカジノの支配者になる、ということで間違いありませんか?」


 と、質問をしてきた。


 聞かれてもなぁ……

 知らんなぁ……


 と、思っていると、

 師匠が、


「そのとおりだ、カミーレン。これからは、お前も、この顔面タトゥーも、超苺の奴隷だ。逆らうなよ。逆らってもいいが、殺されるぞ。超苺は、普段、もの静かな男だが、キレさせたら、何をするか分からない危険な男だからな」


「……いままで、誰も助けてくれなかった私を、優しく助けてくださったお方……コイチゴ様を裏切るなど、ありえません。今後は、コイチゴ様に、私の忠誠をささげます」


 そういって、片膝をつき、頭を下げる彼女に、

 俺は、


「………………忠誠は、俺ではなく、セン様に」


 ダルいけど、これだけは言っておかなければいけない。

 大事なのは俺じゃない。

 セン様だ。


「セン……様?」


 カミーレンが疑問を口にしたところで、

 師匠が割って入ってくれる。


「おれたち全員の頂点に立つ存在だよ。そこにいる超苺こいちごのことはもちろん、このおれすらも支配している、この世で最も偉大で尊い王だ」


「……コイチゴ様ほどの御方をしたがえている王……さぞや、優れた力を持つ御方なのでしょうね」


「ああ、センくんはすごいよ。君の想像の遥か上にいる」



 そこで、カミーレンは、俺の方にもチラっと視線を送ってきた。

 俺は、


「……………セン様は、この上なく尊い御方だ」


 大事なことなので、シッカリと伝えておく。


 すると、カミーレンが、


「偉大な力を持つコイチゴ様が、そこまでしたう御方……それほどの『超越者ちょうえつしゃが支配する組織』の『末席まっせき』に加わることが出来たこと、心から嬉しく思います」


 深々と頭を下げてそう言った。



 と、そこで、

 師匠せみはらが、顔面タトゥーに視線を戻して、


「ああ、そうそう。これだけは、今のうちに聞いておきたかったんだ。お前、邪神教の幹部なんだから、『魔王の種』を『生贄』に『邪神の召喚うんぬん』みたいな話を当然知っているよな?」


「は、はい……『魔王に覚醒できる可能性のある子ども』を生贄に、究極の邪神を召喚しようとする計画は、昨今さっこんの邪神教が進めているメインプロジェクトですゆえ」


「その計画はどのぐらい進んでいる?」


「……確か、五名ほど集まったとか言っていたので……おそらく、そろそろ、儀式が行われるかと……」


「ほう。どこでだ?」


「も、もうしわけございません。究極邪神の召喚に関することは、上層部の中でも一部の者しか知らされていなくて」


「お前は上層部じゃないのか?」


「……じ、実は、私、二度ほど、『酒の席』での失態を犯しておりまして……実力的には、一応、幹部クラスなのですが……い、今は、この裏カジノに左遷させんされているというか、隠居いんきょ状態といいますか……」


「……なるほど、あまり使えないヤツだったか」


「も、もうしわけありません!」


「……いや、でも、そのぐらいの状況の方が、個人的には面白い。コツコツやっていくさ。いきなり頭をつぶしてもおもしろくない。じょじょに、手足をもいでいって、気付いた時には、首から下がなくなってパニック……そういう状態にハメさせる方が……はるかに面白い」


 ニィっと、ドス黒く笑う師匠。

 ほんとうに、笑顔がキモい人だ。


「センくんは、悪人に対しては、何をしてもいいというスタンスだ。そのスタンスを、せいぜい利用させてもらう。この世に存在するすべての悪人の命を、とことん、もてあそんでやる。絶望を数えながら死にぐるう様を見て楽しんでやるさ、くくく、ははははははははっ!」


 師匠は本当に、極悪人だ。

 この人以上の悪人は、なかなかいないだろう。


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