幕間 『現地人』視点(1)
幕間 『現地人』視点(1)
私の名前は『サロ・バグディナ』。
魔王の種『ウロス・バグディナ』の父である。
『とてつもない才能を持って生まれた娘』の成長を見守りながら、
普通に、おだやかで幸せな毎日を送っていたある日のこと、
私の家に、とんでもない悪魔が襲撃してきた。
『異次元の力』を持つ化け物。
最初は、その悪魔こそが、ウロスをさらいにきた『邪神教の使い』かと思ったが、
よくよく話を聞いてみると、
どうやら、私の娘『ウロス』を、『邪神教から守るため』に派遣された、女神教のエージェントだったらしい。
……ちなみに、現在、私は、『女神の城』にいる。
『女神の城』の『玉座の間』で、『神の配下である超越者たち』に囲まれていた。
そして、本物の『邪神教の使途』が、私の横で拘束されている。
『邪神教の使途』は、『神のエージェント』と、そうとう、激しく戦ったらしく、
見るも無残なズタボロの姿になっていた。
「……パパ……」
心配そうな顔をしているウロスが、
私のズボンをギュっとにぎりしめた。
私は、ウロスを抱きしめて、
「大丈夫だよ……ここにいる人たちは、お前を守ろうとしてくれたんだ」
そう言いつつ、
私は、『神のエージェント』の中で、もっとも柔和な雰囲気をかもしだしている女性に話しかけた。
「そう……ですよね?」
すると、その女性は、
ニコリと、聖女のように微笑んで、
「ええ、もちろん。我々は、『この上なく尊き王センエース様』に、あなた方を守護するよう命じられております。だから、なにも心配する必要はございません。……あ、申し遅れました。わたくし、この上なく尊き命の王センエース様の配下、アルブム・カライトと申します」
その流れの中で、彼女は、ここにいる10人のエージェントたちを紹介してくれた。
一通り、名前を聞き終えてから、私は、
「……サロ・バグディナです。この子は、ウロス・バグディナ。……守っていただけていること、心から感謝します」
そう言って、頭を下げた。
……気配で分かる。
ここにいる10人全員が『破格の力』をもっている。
殴り合いをしたら、私は、一撃で殺されるだろう。
ここにいるエージェントは、誰もかれもが、六大魔王と同等か、もしくはそれ以上の化け物。
だから、安心しろと言われても、心休まるヒマなどない。
『外敵を心配する必要』はないかもしれないが、
『彼・彼女らにたいして凄まじく緊張』する。
と、そこで、アルブムが。
「一つ、おうかがいしたいのですが」
「な、なんでしょう?」
「先ほど、あなたは、セン様のご尊顔を拝したワケですが……その率直な感想をお聞かせいただきたいのです」
などと、そんなことを聞かれた。
なぜか彼女たち全員が、心底から心酔し、平伏している少年『センエース』。
『15歳ぐらいの、どこにでもいる普通の少年』という印象だった。
『彼女たちのような強大な力』などは何も感じなかった。
なぜ、彼女たちが、あの少年を崇拝しているのか、
私にはサッパリ分からない。
「……え、と……」
しかし、そんな『失礼なこと』を言って、『ムダに怒らせてしまってはどうしよう』と思い、つい口ごもっていると、
アルブムが、
「遠慮はいりません。率直に、思ったことを教えてください。というより、嘘はやめてください。嘘をつかれた方が、こちらとしては不利益にあたります。それに、今の、あなたの表情や態度をみるに、あなたがどう思ったのかはだいたいわかっております。なので、本当に、素直な感想をお聞かせください」
……私は、少しまよったが、
「……ぶ、無礼なことを言いますが、どうか、お許しいただきたい。正直な話……なぜ、あなた方のような超越者が……あの少年につきしたがっているのか、理解ができません」
そう言うと、アルブムは、
「……なるほど」
と、納得したようにつぶやくと、
ほかのエージェントたちに目配せをして、
「やはり、セン様の尊さを理解できるのは、我々弟子だけのようですね」
そこで、『私をこの場につれてきたデビナという悪魔みたいな女』が、
「かはは! マジかよ! お前、目、死んでんな! セン様の、あのえげつない輝きが見えねぇとか、もう、そんな目いらねぇだろ! えぐりとって、捨ててやろうか? かはは!」
などと笑った。
私に対する強い『侮蔑の意志』を感じるが、
殺意や害意は感じない。
そこで、
アズライルという名の『天使の羽のような髪型をしている女性』が、デビナの頭を強くたたいた。
どうやら犬猿の仲であるらしい二人は、
ギャーギャーと言い争いをはじめた。
そんな彼女たちを見て、
私は、ウロスを抱きしめる手を少し強めた。
……と、そんな風に『居心地の悪い思い』をしていると、
奥の扉が開いて、先ほど、『邪悪な顔をしている少年』と共に出ていった『センエースという名の少年』が戻ってきて、
「じゃあ、俺、そろそろ、出かけるから。今日、俺を護衛する人、ついてきて。きたくないなら、こなくていいけど」
そう命じると、
アルブムとマリの二人が、うやうやしく頭を下げて、
「本日の護衛、命がけで務めさせていただきます」
「……命を賭して、この上なく尊き御身をお守りいたします」
そんな彼女たちを尻目に、
『サカガミ』という名の『ハデな外見の女性』が、
「出かけるのはいいんでちゅけど……『お兄』……なんか、妙な力を、二つぐらい手に入れてまちぇんか?」
「お、分かる? 実は、『龍の女神の報酬』を手に入れてきた」
その言葉を聞いて、
私は、
「はぁあ?!」
目を丸くしてしまった。
『龍の女神の報酬』……
それは、『すべての魔王』を統べた『真の大魔王』だけが手に入れると言われている世界一の至宝。
それを……手に入れた?
この平凡そうな少年が……?
バカな……
「ま、あんまり使えねぇけどな。ついでにプラチナスペシャルも目覚めたけど、不運なことに、そっちも使えないゴミだった。というわけで、今回の成果は、ビミョーだな。アポロと殴り合った時に目覚めた『不死身になれるプラチナスペシャル』は『死ぬほど有益』だったんだけど……ああいう『当たり』は、そうそうこないっぽい」
ありえないことばかり口にしている。
プラチナスペシャルといえば、上位の魔王ですら、なかなかもっている者がいない、最高の能力。
スペシャルの中でもプラチナは別格。
そんなプラチナスペシャルを、
この少年は、いくつも保有しており、
その中の一つは、『不死身になれるもの』だという。
話の次元が違いすぎる。
とても、本当の話だとは思えない。
……だが、ウソをついているようにも見えない。
困惑していると、
その少年が、私たちの方に近づいてきて、
「どうも。センエースといいます。むりやり連れてきちゃってゴメンなさいね。でも、なんか、話を聞いている限り、あなたたちの身が、あぶなそうなんで、しばらくは、ここに身を隠しておいた方がいいと思いますよ。――俺は『ただのザコ』だから、何もできないけど、ここにいる連中は、全員、そこらの魔王よりはるかに上だから、頼りになると思います。じゃあ、そういうことで」
そう言いながら、去っていこうとするので、
私は、反射的に、
「あ、あの!」
呼びとめて、
ひたいを地につけて、
「娘を助けていただき……本当に、ありがとうございます!」
感謝を口にすると、
彼――センエースは、
「俺に頭をさげる必要はないですよ。こいつらと違って、俺は、ほんとうに凡人だから。一応、俺の『中』には、龍の女神がいるし、背中には、龍の女神の報酬がきざまれているし、蝉原たち全員に対する命令権みたいなものをもっているし、プラチナスペシャルを三つほどもっているけど、俺自身は、ただの凡人だから」
そ、それの、どこが凡人なんだ……
というか、龍の女神が『中』にいるって……どういう……
まさか、『龍の女神を取り込んだ』ということか?
最近、『相手の力を吸収することが出来る』という力を持った魔人が、六大魔王の一人である『雷神』を奪い取ったというウワサを聞いたが……そういう感じだろうか?
だとすると、この少年は、最低でも、龍の女神と同等の力を持つということに……
……あまりにもとんでもない情報が飛び交いすぎて、
めちゃくちゃ混乱している私に、
『セミハラユーゴ』という名の『センエースと同い年ぐらいの少年』が、
私に話かけてきた。
「センくんを理解しようとしてもムダだよ。彼は常識のワク外にいるから。あんたは、ただ、『この世で最も強大な力を持つ王センエース陛下』の『庇護下に入った』という幸福をかみしめていればいい」
そう言ってから、
セミハラユーゴは、
エージェントたちに視線を向けて、
「それじゃあ、そろそろ、おれも出かけようかな。……クロート、デビナ、ボウ、超苺……一緒についてきてくれ」
そう言って、
どこかに出かけようとしている彼に、
私は、つい、
「ど、どこに……行く……んですか?」
おずおずと、そう声をかけると、
セミハラは、
背筋が凍るほどの『邪悪な笑顔』を浮かべて、
「ん? 決まっているだろう? この世界を平和的に征服してくるんだよ。その足がかりとして、まずは、『裏社会を制圧』してくる。その気になれば秒でいけるけど、それじゃあ、つまらないし、おれのプラチナスペシャル『ディアブロ・コミュニティ(蝉原の『悪』を愛した者の数だけ、蝉原は強くなる)』も育たない。だから、ジワジワと、真綿で首をしめるように、この世界の闇を支配していくつもりだ。おれの『愛(悪)』を、この世界に、とことん、きざみ込んでやる。ああ、楽しみだ。絶望に染まる犯罪者どもの顔を想像するだけで脳汁が止まらない。くく……ははははははははっ」
狂ったように笑うセミハラユーゴを見て、
私は、反射的に、ウロスをかばうように抱きしめてしまう。
言っている内容を、かみ砕いてとらえれば、
『犯罪者を取りしまる憲兵』的な発言なのだが、
言い方と顔面が怖すぎて、どうしても恐怖を抱いてしまう。
本当に、大丈夫だろうか……
そんな不安の嵐が、私の中で吹き荒れる。
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