思いは時に実力を超える
前回のあらすじ
合コンって難しい。
「最近、合コン自体無くなってきている感じがする。」
ある日、ヴィザルが机に俯せになっていた。最近いろいろあり過ぎたため久しぶりのゆっくりできる日に満足していた。
しかし、ゆっくりはこれで終わった。突然メタルバンドにバルドが怒鳴り込んできた。
「ヴィザル!どこにいる!?」
「なんですかバルド兄さん。僕、今は何もない日々を謳歌しているところですよ。」
「なんでお前アテリナ様と結婚してんだよ!?」
バルドの言葉にヴィザルが吹く。もうオリュンティア公国では噂になっているようだった。
「なんでそれを!?」
「サリアがSNSに投稿していたぞ。」
バルドが見せたスマホにはサリアが『ヴィザルがアテリナと結婚した。もしヴィザルと結婚できたらわたしも貴族入りかも(笑)』と載っている。それを見たヴィザルは隣にいたサリアにアイアンクローした。
「どういうことですか?」
「ごめん!それ酔った時に呟いたやつ!」
「今すぐ削除してください。」
「もう遅いぞヴィザル。」
ヴァンガスがスマホを見て喋る。既に多くの人が閲覧していたようでものすごい数のいいねがあった。
「うちにケラウロス様から直に電話がきたぞ!ヴァリス兄さんなんか泡吹いて倒れたんだぞ!」
バルドが詰め寄る。ヴィザルは目を反らしてから笑いするだけだった。バルドは剣を抜いてヴィザルに向けた。
「ヴィザル。今すぐ結婚を無しにしろ。」
「それって離婚…」
「違う。結婚自体なかったことにしろということだ。」
バルドが詰め寄る。
「確かにバルド兄さんの言うことも分かるけどいきなりアテリナ様との結婚を無かったことにって…」
「いや、アテリナ様だけじゃない。全員だ。全員との結婚を無かったことにしろ。」
バルドの言葉にヴィザルはポカンとした。
「え…みんな?」
「そうだ。どうせお前のことだ。成り行きでなったものだろ。なら消えても問題ない。」
確かにバルドの言う通り無理矢理感否めない結婚もあった。しかし、みんなそれを喜んでいる。それにグリムにとってはヴィザルとの結婚は縛られた家からの解放でありもし結婚が無くなればまたあの家に逆戻りだ。
ヴィザルはみんなの笑顔を思い浮かべるとさっきまでの態度が一変した。オドオドした感じが無くなりまっすぐな目でバルドを見る。
「いや、それは出来ません。」
「なんでだ。」
「僕の我儘です。」
「そうか。ならば…剣を抜け、ヴィザル。決闘で決めようじゃねぇか。」
ここはカブジナの中にある広場。そこにヴィザルとバルドが剣を構えて立っていた。その周りにはアイアンガイアのメンバー以外にオリヴィエとフィルディオがいた。
「久しぶりじゃないですか?」
「そう言えば前もここで兄弟喧嘩してたな。」
「そんなことより私とヴィザル君の結婚を消そうとするのはいくらお兄さんでも許せません。」
「落ち着けオリヴィエ。」
両手にナタを持ったオリヴィエをサリアが宥める。なんだなんだとギャラリーが集まってくる。
「ここで決闘するのも久しぶりだな。」
「はい。あれから僕も強くなりましたよ。」
「無論、俺もだ。」
二人はゆっくりと距離を詰め寄ってきた。そして、同時に剣を振った。互いの剣は拮抗し、つばぜり合いになった。バルドはヴィザルを押し飛ばした後、すぐに間合いに入って剣を振り払った。ヴィザルも剣でガードして下がりながら風魔法を放った。バルドは風魔法を切り裂きヴィザルを弾き飛ばす。
「わかっただろ。お前はまだまだだ。魔神や暗殺クランを相手にして成長しても足りない。この程度で倒れるなら誰も守れるわけないだろ。」
近付きヴィザルの前に剣を向ける。
「約束通り結婚は破棄だ。そもそもそのレベルじゃ結婚相手も可哀想だ。」
その言葉にヴィザルはキレた。向けられた剣を掴む。バルドが驚き引こうとするも動かない。ヴィザルの手から血がどくどく流れる。バルドは剣に炎魔法を纏わせヴィザルから離れた。
「覚悟はあるみたいだが…それでも!」
ヴィザルとバルドが交差する。その一瞬で斬り結んだ。すると、ヴィザルの剣が粉々に砕けた。
「分かっただろヴィザル。お前はまだみじゅ…」
バルドが振り返った瞬間、ヴィザルがキックした。紙一重で避ける。ヴィザルは両足に風魔法を纏っている。
「まだやる気か。」
「バルドの奴、こんなところにいたのか。」
2人の決闘を見ていたサリア達の後ろにインドライガがいた。隣にはヨルズがニコニコしながら手を振っている。
「2人とも来てたの?」
「ヴィザルがアテリナ様と結婚したと聞いた瞬間飛び出して行ったのでね。」
「ヴィザルが結婚したと聞いてドラゴンボコってマッハで来たわ。」
ヨルズがニヤニヤしながら2人の決闘を見る。
ヴィザルの蹴りをバルドが受け流す。バルドが炎魔法を放ちヴィザルを吹き飛ばす。ヴィザルはフェンスに着地すると光り輝く足を出しバルドをキックした。
「《ガイアグングニル》!」
バルドは咄嗟に剣で防御するがもろに受けて剣が砕けた。
(危なかった…直に受けてたらやられていた。)
バルドは起き上がると炎魔法で剣を生成した。それを見たサリア達は感嘆する。
「あいつも魔法使うようになったんだ。」
「ああ、剣が破壊された時のためにと習得した。今のバルドは剣術だけじゃない。魔術もいけるぞ。」
インドライガが語る。バルドはヴィザルに向けて炎の渦を放つ。炎はヴィザルを包み竜巻のように舞い上がる。その中からヴィザルが飛び出した。そのまま再びガイアグングニルを放つ。バルドは紙一重で避ける。
「やっぱりあの技はタルタロスを倒した技だ。」
ヴィザルの必殺技を見たウズメが呟く。それにヨルズが反応した。
「待って。タルタロスってあのヴォルネストのタルタロス?」
「そうだ。」
「知ってるの?」
「知ってるも何もヴォルネストのタルタロスは1人で一国の軍隊を壊滅させるほどの魔導師よ。その強さはセブンを超えるとも言われているわ。」
ヨルズの言葉に周りの人達が驚愕する。サリア達は改めてタルタロスの強さを知り直にタルタロスを倒したところを見ていたウズメとオリヴィエは頷いている。
バルドは下がると炎の竜巻を起こした。ヴィザルは竜巻を避けながら突撃する。そこにバルドは雷の光線を発射した。
「《ボルトスピアー》!」
バルドの一撃がヴィザルに命中する。これで決まったとバルドは思った。しかし、ヴィザルは雷を足に纏い風と雷を融合させた蹴りを放った。
「《ケラウノスグングニル》!」
「《ボルトフレイムカリバー》!」
ヴィザルの蹴りに咄嗟に雷と炎を纏わせた剣で対抗する。激しく火花が散り爆発する。
「•••あれはウェルテルを倒した時の技ですね。」
「待て。ウェルテルって確かファウスト社の社長だよな?」
「•••はい、そうです。」
「何故ヴィザルは社長と戦ったんだよ。」
インドライガが冷や汗を掻く。爆破した時の煙が晴れると2人とも立っていた。その目はまだ負けを認めていなかった。
「ヴィザル、確かに強くなったみたいだが俺もあれから強くはなっているんだ。魔神だけじゃない。魔物も凶悪犯も魔人もドラゴンも倒してきた。この程度じゃ俺は負けねぇぞ。」
「僕もです。今までテロリストや変態を倒してきました。」
「待つんだヴィザル。それだと凄さが分からん。」
(((あの相手を変態と呼ぶか…)))
2人の決闘が終わりに近付く。ヴィザルは足に、バルドは剣に魔力を込める。先に動いたのはヴィザルだ。勢いよく走り出し魔力を込めたキックをした。
「《ガイアグングニル•ロンギヌス》!」
「《サンダーボルケーノ》!」
2人の技がぶつかり合う。すると、ヴィザルがバルドの上にジャンプしてもう一度同じ技を放った。バルドはそれを受け流した。
「あの技って確かトイランドでトイゴレムを倒した時の技ね。」
「え?あれって倒したのヴィザルなの?」
サリアの呟きにヨルズが反応する。トイランドの革命は既に大陸中で話題になっていたがヴィザル達のことは書かれてなかった。
そんな話をしているとバルドの剣がヴィザルの首に接触した。
「これはお前のためだ。今のお前じゃオリヴィエすら守りきるのは無理だ。結婚は成人してからでもいい。」
「いえ…バルド兄さんはそれでいいと思いますけど僕にとってはもうただの結婚じゃないんです。」
「お前の事情は知らん。けどさすがに一国の姫を含めたハーレム婚はどう考えてもダメだろ。」
「そうですね。でも…僕は負けるわけにはいかないです。」
ヴィザルが剣を握る。その目にバルドは一瞬戦慄した。剣を消しヴィザルを炎の渦で包む。
(なんだ今のヴィザル…雰囲気が変わった。)
バルドが追い討ちをかけようとした時、炎が掻き消されヴィザルが高く飛んでいった。
(確かに僕はまだ強くなれてない。けど…みんなを守りたい思いは誰にも負けたくない!)
ヴィザルは高く飛ぶと大きく息を吸い込んだ。そのまま重力に従って落下する。
(今までの技じゃダメだ。僕だけの…僕の全力をバルド兄さんに叩き込む!)
ヴィザルは下を向き重力にプラスして風魔法をジェット噴射のようにして高速落下した。
(グングニル…ケラウノス…ロンギヌス…全てを込める!)
ヴィザルが見えてきた。その勢いは凄まじくバルドも驚いていた。
「あれ?ヴィザルがなんか凄いことに…」
「《アポカリプス》!」
ヴィザルが渾身の一撃を放つ。バルドも受けて立とうとしたがヴィザルの圧に圧倒され避けた。ヴィザルの蹴りは地面を抉りクレーターを作った。その時の衝撃がサリア達を吹き飛ばす。バルドは間一髪で避けたが冷や汗がダラダラと流れていた。
「お、惜しかったな…」
「まだです!」
「え?」
ヴィザルはもう一度高く飛んでいった。
「待って!あれ連発出来んの!?」
バルドがサリア達に聞くも初めて見る技なので全員知らないと首を振る。バルドが戦慄しているとヴィザルが来た。今度は真上からじゃなくて角度を変え斜めから来た。
「あれ?これ避けたら後ろがヤバいんじゃ…」
バルドが後ろを見る。全員がヤバいと感じて避難した。しかし、後ろには道路や建物がある。どうすれば…そう考える時間がもうなかった。振り向いた瞬間にヴィザルの渾身の蹴りが迫っていた。
「《サンダーボルケーノ》!」
バルドが迎え撃つ。しかし、さっきとは比べ物にならない威力にバルドは吹き飛ばされる。2人はフェンスを貫き広場を抉り、道路に出て建物に激突した。野次馬全員が静かになる。先に動き出したサリア達が2人を追う。
何事だと新しい野次馬が来る。野次馬を掻き分けて前に出るとボロボロになっているバルドと血塗れのヴィザルがいた。
「な、なぁヴィザル…さっきの発言は撤回するからさ…」
「まだです!」
「まだあんの!?」
ヴィザルがもう一度高くジャンプしようとした時、いつの間にか来ていたジルフレイムがヴィザルの首を掴んだ。
「何やってるのかなぁ君達?」
「待ってください!あと一発!あと一発でバルド兄さんを粉々にしてみせます!」
「待てヴィザル!ルールが変わってる!」
状況が読めないジルフレイムにサリアが説明する。
「•••でその結果がこれ?広場と道路とビルに甚大な被害をもたらす兄弟喧嘩って迷惑過ぎでしょ。」
「大丈夫です!次こそはバルド兄さんを塵芥に変えて勝利しますので!」
「ヴィザル…」
ジルフレイムに必死に説得(?)するヴィザルの肩をバルドが掴む。
「この決闘…お前の勝利でいいからその技だけは止めてくれ。」
ボロボロになって泣いているバルドを見たヴィザル。それでも納得していないのかまだやる気満々だった。
「なぁヴィザル…もしかして凄く怒ってる?」
「はい!」
今まで見たことないレベルの満面の笑顔を見たバルドは静かに土下座した。
「バルドの土下座って初めて見るわ。」
「それ程あれがトラウマになったみたいだな。」
バルドの土下座を見たヴィザルは白目を剥いて倒れた。
「ヴィザルー!」
「こんだけ出血したんだから貧血になるわな。」
倒れたヴィザルをサリア達が回復魔法をかけながら病院へ運ぶ。インドライガが泣いているバルドを慰める。
このあと兄弟喧嘩の末に破壊された広場や道路などをサリアとインドライガ、そして2人の喧嘩のことを知ったヴァリスが弁償することになった。この時、サリアとヴァリスが泡を吹いて倒れたのは想像に難くなかった。
次回予告
出血多量で入院したヴィザル。そこにオリヴィエが来て…
「老後はこうなるのかな?」
「早すぎません?」




