調子に乗ってナメプするのは小悪党あるある
前回のあらすじ
ヴィザルとグリムの文化祭デート!
「落ち着いてオリヴィエちゃん!」
「ここは?」
「ヒ・ミ・ツ。」
階段を降りるグリムにヴィザルが何度か聞くもグリムの回答は同じだった。そして、ある扉の前で止まった。
「ヴィザル君。」
「はい?」
「ごめんね。」
その一言が聞こえた瞬間、ヴィザルは腹に痛みを感じた。咄嗟に下を向くとグリムの影から腕が伸びナイフでヴィザルを刺したのだ。影はすぐにヴィザルから離れ姿を現す。白髪の少女だ。少女はナイフを舌なめずりしながらヴィザルを見る。
「キャハハ!どう?痛い?」
「刃物舌なめずりしている奴初めて見た。」
ヴィザルは刺された箇所を抑え少女を見る。
「それで、君誰?」
「知りたい?いいよ。私はジャック・ザ・リッパー。異世界で最も有名な殺人鬼さ!」
「へぇ~そう。」
ヴィザルの反応がイマイチだったのかジャック・ザ・リッパーと名乗った少女はナイフを投げ飛ばした。ヴィザルはそれを避ける。
「目的はなんですか?」
「学園の最重要機密テスラ。レオナルドという変わり者が造った無限魔力製造装置。そいつは魔法工学界をひっくり返す代物さ。」
(素直にペラペラ喋ってくれた。)
「で、なんでグリムさんの影に入ってたんですか?」
「簡単だよ!グリムは私達の協力者だからだ。」
「それ、本当ですか?」
「本当よ。」
ヴィザルが振り返って聞くとグリムは素直に答えた。
「言ったでしょ。私の父親は私を束縛していたって。この学園に入学させたのも男がいないから。留学させたのも監視するため。そんな生活に嫌気が差したの。その時に申し出があった。それが父親の暗殺。」
「•••」
「父親はいろいろと恨まれることしていたから不思議じゃなかった。けど、父親から逃げたいと思っていた私はその申し出に乗った。」
「それでその報酬としてテスラってその凄い装置の情報を?」
「いいえ。最初はこの学園の機密だけ。でも、昨日ここにテスラがあると知ったら狙いがそっちになった。」
「そういうこと〜。」
ジャック・ザ・リッパーはナイフで遊びながら話を聞いていた。
「さぁて、お話はここまで。君を呼んだのはもしものための人質だったけどその心配はなかったみたいだし。」
ジャック・ザ・リッパーはナイフを無数に増やすとヴィザルに向けて放った。ヴィザルは最小限の動きで避ける。ジャック・ザ・リッパーはヴィザルに接近しナイフを突き刺す。ヴィザルは腕を掴み抑える。
「恨むんならさぁ、君をここに連れて来たグリムを恨むんだな。」
「なんでグリムさんを恨まなきゃならないんですか?」
ヴィザルはジャック・ザ・リッパーを蹴り飛ばす。ジャック・ザ・リッパーは回転しながら着地すると影になって隠れた。ヴィザルが周りを探すも姿はない。
「ねぇ怖い?怖いでしょ!いつ殺されるか分からない恐怖。助けのない孤独。ねぇ、どんな顔して…」
「そこか。」
ヴィザルは声がした方向に風魔法で纏った蹴りを入れた床が抉れそこからジャック・ザ・リッパーが出る。
「なんで分かった!?」
「声で分かる。」
思ったようにいかず焦るジャック・ザ・リッパー。再びナイフを増やして攻撃する。ヴィザルはまた最小限の動きで避けた。
「へ、へえ。少しはやるじゃん。でも気付かない?あんたに刺したナイフに毒が塗られてること。」
「え?そのナイフ、さっき舐めてなかった?」
「••••あ、しまった〜!な〜んてね。既に耐性は付いてま〜す。残念でした~。」
ジャック・ザ・リッパーはヴィザルを小馬鹿にするような発言で挑発する。しかし、ヴィザルは冷静だ。
「グリムさんが何故あなたと組んだのは分かりました。あなたが僕を殺すつもりなのも分かりました。でも、別にそれグリムさんは悪くないですよ。」
ヴィザルの発言に自己嫌悪していたグリムはハッとしてヴィザルを見た。ヴィザルは腹を押さえてた手を離し目を瞑っていた。怖がると思っていたジャック・ザ・リッパーはさらにナイフを増やし影に隠れてヴィザルを攻撃した。
「これでどう!?あんたも毒に侵され武器も助けもない。騙されて孤独に死んでいくだけ!」
「そう言ってるけど君ってすぐに殺さないよね?」
「そうだよ!ゆっくり嬲って殺してやるさ!その澄まし顔がどこまでもつかな?」
「だから、すぐ死ぬような毒は使わないし急所攻撃も一撃必殺もない。そんな幼稚な殺気じゃ…」
ヴィザルはジャック・ザ・リッパーの全ての攻撃を避け影を蹴り飛ばした。ジャック・ザ・リッパーは驚き影人形を出すがすぐにやられた。
「…僕は止まらない。」
ヴィザルの脳裏には今まで戦ってきた強者達が写っている。そして最後にラダマンティスが思い浮かぶ。ヴィザルはジャック・ザ・リッパーに接近し風魔法を足に纏い勢いよく蹴り飛ばした。
《ストームグングニル》
ヴィザルに一撃をくらったジャック・ザ・リッパーは転がりながら壁に激突した。
「言っておきまずけどいつ殺されるか分からない恐怖や助けのない孤独は既に経験しています。」
「へ、へへへ。ざ、残念だったね。ここで私を倒せなかったあんたの負けだ。」
「いや、ヴィザルの圧勝でしょ。」
「手加減してくれたことに感謝しなさい。」
ジャック・ザ・リッパーがナイフを持ち立ち上がろうとした時、サリアとアルティネが後ろに来ていた。ジャック・ザ・リッパーは振り返ろうとする前にサリアが頭を拳骨で殴り気絶させた。
「まぁ私は手加減しないけどな。」
「当然。」
アルティネがジャック・ザ・リッパーを茨で拘束する。そこにヒルデがやってきた。
「グリム。後で話を聞かせてもらうぞ。」
「•••はい。」
ヒルデがグリムに近付くとヴィザルがクラクラし始め倒れた。慌ててヴィザルに駆け寄るサリア。よく見ると腹の傷以外にもジャック・ザ・リッパーからの攻撃で受けた傷が体中にあった。
「おい!ヴィザル!大丈夫か!?」
「あ〜、血流しすぎた。毒がまわってるかも〜。」
「さっきまでのあれはやせ我慢かよ!」
「とにかく保健室へ!」
サリアが急いでヴィザルを保健室へ運ぶ。
この一連の出来事は幸いヴィザル達以外は知ることはなかった。
次回予告
聖女祭の後日談
「また面倒なことになりそうだ。」




