母の威圧は凄い
前回のあらすじ
ブロイセンは空気。
「酷いよみんな〜!」
サリアがウキウキで合コンの準備に向かった後
ヴィザルは冷汗をかいていた。その理由は
「ヴィザルン!お願い!私の彼女になってくれない!?」
この一言から始まった。
「お見合い?」
「そう!私のお母様、そういうのに厳しくていつもいいお嫁さんになるにはいいお婿さんを迎え入れることってうるさくて。だから、ちょっとの間、お母様の前に出る時だけでいいから彼氏のフリしてくれない!?」
「良かったです。そういうことなら処刑されずにすみます。」
フェルトリーネがお願いする。ヴィザルはガルム達に縛られギロチン台にかけられながらもフェルトリーネのお願いを了承した。
「フェルがあれ見ても狼狽えなくなったわよ。」
「彼女もすっかりアイアンガイアに染まったわね。」
「ウズメもあれぐらい慣れなさい。」
「無理です!」
こうして、ヴィザルはフェルトリーネの彼氏として彼女の実家に行くことになった。もちろん、二人だけなので一緒に行こうとするマキナをなんとか抑えて行った。
フェルトリーネの実家はオリュンティア公国から遠く離れたテレメント共和国という国のシルフトという街にあった。彼女の母親はその街の領主でありテレメント共和国の議員も務めているらしい。
数時間かけてシルフトに着いた二人。フェルトリーネは母親に会う前にとヴィザルを観光がてら案内していた。観光も終わりついでに買い物も済ませたフェルトリーネがヴィザルを実家に連れて行く。領主というだけあり立派なお屋敷に住んでいた。
フェルトリーネは迎えにきてくれたメイドや執事達に軽く挨拶して屋敷に入る。ヴィザルも後を着いて行き屋敷に入る。屋敷に入ると執事の案内でフェルトリーネと一緒に彼女の母親がいるという応接間の前まできた。
「お母様!入ります!」
「どうぞ。」
許可が入ったのでフェルトリーネが扉を開けて入る。すると、厳格そうな感じの女性がソファに座って待っていた。子持ちとは思えないレベルの若々しい肌をしている眼鏡の女性は二人に向かいに座るように促す。二人は彼女の言う通りに向かいに座った。
「初めまして。私がフェルトリーネの母、シェリルリーゼ•アウヴェンハイムと言います。」
「よ、よろしくお願いします!」
ゆったりと気品のある喋り方で自己紹介をしてくれたシェリルリーゼ。しかし、仕草や佇まいから厳格な雰囲気がビシビシと伝わりヴィザルは緊張していた。
「リラックスしてください。」
「そうですわヴィザル様。今日はご挨拶だけですわ。」
(キャラが変わってる!?)
学園や普段の言動から掛け離れた仕草のフェルトリーネにヴィザルは驚愕していた。でもここでツッコミ入れるのは場違いと分かっているので声には出さない。二人に言われて深呼吸し執事が入れてくれた紅茶を飲む。
「あなたのことはフェルトリーネから聞いたわ。オリュンティア公国のオルディダンテ公爵家の四男坊。マスターズでは素晴らしい成果を修めシャルロットマーニュ学園でも成績が良いみたいですね。」
「い、いえ!そんなに褒められるほどの成績じゃないですよ。」
(いや、マジで。)
「あら、ご謙遜かしら。でもあなたならフェルトリーネの彼氏としては充分ですわね。」
シェリルリーゼがヴィザルと会話しているといきなりヴィザルのスマホがブーブーと着信音がした。ヴィザルは慌ててスマホを取り出しお辞儀して応接間を出て電話に出る。
「は、はい!もしもし!」
『ヴィザル、これから私のことはお義姉さんと呼んでいいんだよ。』
「黙っててください。」
ヴィザルはスマホを切り電源も切って応接間に戻る。
「も、申し訳ございません。間違い電話でした。」
「いえ大丈夫ですわ。けれど、大事な話の途中に電話はいただけませんわね。」
「申し訳ございません!」
ヴィザルは立って腰を90°曲げて謝る。
「ですが失敗や間違いは誰でもあります。それを認めれるのはいい人である証拠です。次からは気をつけてくださいね。」
「は、はい。」
ヴィザルは緊張したまま座る。
「お、お母様。その…」
「はっきり言いなさい。」
「私、好きに生きたいです!ヴィザル様と一緒にいてもいいですか!?」
フェルトリーネが叫ぶ。ヴィザルは驚いた表情で彼女を見る。シェリルリーゼはフェルトリーネの真っ直ぐな目を見ると微笑んだ。
「いいわよ。あなたの人生。あなたが好きにすればいいわ。」
「お母様…」
「但し、アウヴェンハイム家の者として恥のないように生きなさい。もし、出来なかったら分かりますね。」
「は、はい!ありがとうございました!」
シェリルリーゼの威圧にも耐えフェルトリーネは立ってお辞儀するとヴィザルを連れて応接間を出た。応接間を出て誰もいないことを確認するとフェルトリーネは口から魂が抜けたのかと思うほどにへたり込んだ。
「し、死ぬかと思った〜!」
「キャラ、変わり過ぎじゃなかったですか?」
「だってお母様に小さい頃から作法や礼儀、勉強とキツく躾けられてきたから。しかも、無茶苦茶厳しいから恐くて怖くて。」
力が抜けたフェルトリーネをヴィザルはおんぶする。そのままフェルトリーネの指示通りに歩いて彼女の部屋に着く。中に入ってベッドの上にフェルトリーネを寝かせたヴィザルは部屋を出ようとする。すると、フェルトリーネがヴィザルの服を掴んだ。
「?」
「ふふ〜ん。折角二人っきりなんだからもっと遊ぼうよヴィザルン〜。」
「あや、もうそろそろ帰らないと帰りの便が…」
「明日朝イチの便で帰ればいいじゃん。」
その言葉にヴィザルは固まる。フェルトリーネはヴィザルと一緒に一夜を過ごすつもりだ。ヴィザルがなんとかして離れようと考えるもフェルトリーネがニヤニヤしながら胸をチラ見せしてきたり引っ張ってきたりと誘ってきた結果、考えるのを止め彼女と一緒に一夜を過ごした。
翌日、ヴィザルが起きるとシェリルリーゼが立っていた。ヴィザルは昨夜のことを思い出すとすぐ土下座した。
「すみません!やましいことは一切していません!」
「一言言ってくれれば部屋を用意しましたのに。まったく、フェルトリーネ。」
「は、はい!」
起きたのにも関わらず寝たフリをしていたフェルトリーネを起こす。フェルトリーネは汗ダラダラでシェリルリーゼを見る。
「朝食が終わったら私の部屋にきなさい。」
「は、はい…」
「ヴィザルさんの分の朝食も用意していますのでゆっくりしていってください。」
「は、はい…」
シェリルリーゼはニッコリしたまま部屋を出た。フェルトリーネは涙目になりヴィザルは固まっていた。とりあえずスマホの電源を入れると大量の着信がきていた。またサリアかと思っていると着信がきた。
「はい。なんですか?」
『おお、ヴィザル!やっと繋がった!』
「あれ?ヴァンガスさん?どうしたんですか?」
ヴィザルが聞くとヴァンガスは外を見ながら話した。
「昨日、お前がフェルトリーネと一緒に母親に会いに行ったと知ったオリヴィエがメタルバンドの前で鉈と鋸を構えて待ち伏せているぞ。」
『いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
ヴィザルははこの日、最大の恐怖と共に叫んだ。
次回予告
フェルトリーネと一緒に行ったことがバレたヴィザルは命乞いとしてオリヴィエとデートすれことになる。しかしというかやっぱりというか普通のデートにはならなかった。
「ヴィザル君とデート!」
(これに失敗したら死、これに失敗したら死、これに失敗したら死、これに失敗したら死、これに失敗したら死…)




