業を背負う者
前回のあらすじ
革命が終わった。多くの命が散った。それでも前に進み続ける。
「いつか平和が戻ると信じて。」
ヴィザルの目の前でタルタロスが胸を撃ち抜かれた。タルタロスに駆け寄るヴィザル。ウズメとオリヴィエは銃声がした方向に振り向く。そこにはケインが狙撃銃を構えていた。
(クソ…ヴィザルが邪魔で狙いを外した。)
「ケイン!何してんだ!?」
「何ってトドメだ。今殺らねぇと手遅れになるだろ。」
「あ•••」
ケインに言われて我に返る。タルタロスは暗殺目標であり革命を成功させるには必ず殺さなければならない相手だ。ヴィザルとの決闘でそれを忘れていたウズメは思い出した。
ケインがウズメの隣に近寄りタルタロスに狙いを定める。しかし、ヴィザルがタルタロスに駆け寄り何か話しているので狙えない。
「死なないでください!」
「分かってた。報いを受けなければならないのは…」
「そんな…ここで死んだら娘さんが悲しみます!」
(((え•••?)))
近寄ったウズメ達は言葉を失う。タルタロス、いやラダマンティスには娘はいないはず。どういうことか聞こうにもヴィザルが必死にタルタロスを助けようとそている。回復系魔法が使えないヴィザルは服を傷口に密着させ出血を抑えようとしている。
「ダメです!まだ死んではダメです!」
「ヴィザル•••俺が死んだら…最初にお前達と戦った墓地にセルピネの墓がある。その隣を空けてある。そこに俺を埋葬してくれ。」
「そんな•••」
必死にタルタロスを助けようとしているヴィザルを見てケインほ狙撃銃を下げた。ウズメとオリヴィエも必死で声をかけ出血を止めているヴィザルを見て言葉が出てこない。そうしているうちにヴィザルは今までの戦闘と叫びで疲れたのか眠るように倒れてしまった。
「こ、ここは…?」
ヴィザルが目を覚ますと近くにケンがいた。ケンはヴィザルに気が付くと椅子から立ち上がりヴィザルに近付いた。
「気分は?」
「ここは?」
「ヴォルネスト城の医務室だ。革命が成功した日から一週間お前は眠ってたよ。」
ケンの一週間という単語でヴィザルが飛び起きる。体中が痛むがそれどころではない。
「あれからどうなったの!?」
「独裁者ギラージェとその一派は2日前に処刑された。今は復興に向けて奮闘中だ。幸いタルタロスによる被害が軽微であったため復興はすぐ終わるようだ。お前のおかげだよ。」
ヴィザルはケンの一言で思い出した。
「そ、そうだ!ラ、タルタロスさ…はどうなった!?」
「教会に行ってみな。」
ケンに言われ急いで支度して城を出る。タルタロスを1人で倒した功労者としてみんなから称賛されるがそれどころではない。
ヴィザルはガテレンを出てミノス教会へ行く。息を整え昂ぶる鼓動を抑えながら入る。すると、棺の中で眠っているラダマンティスがいた。
「た、助けれなかった…」
ヴィザルは涙を流し棺の前で崩れ落ちた。膝を着きラダマンティスの前で大泣きして謝罪する。エリュシオンになんて言えばいいのか分からずただ泣いているとエリュシオンが子供達と一緒に入ってきた。エリュシオンは泣いているヴィザルを見ると棺に近付いてラダマンティスに声をかけた。
「お父さん。やっぱりこれで寝るなんて縁起悪いよ。」
「そうか?」
「えっ!?」
目を丸くするヴィザル。ラダマンティスは起き上がり背伸びする。そう、彼は生きていた。冷静に鼓動や脈を確認すれば分かるがヴィザルはそれを全然してなかった。
「あ、あれ?」
ヴィザルはてっきり死んだと思い込んでいたのを恥じ顔を真っ赤にする。そこにサリアやガルド達がやってきた。ガルドはヴィザルに手を振りこっちに来るように指示した。ヴィザルは指示に従い教会の外に出た。
「えっと…これ…どういうことですか?」
「本来タルタロス、いやラダマンティスもギラージェと共に処刑する予定だったが奴の娘が生きていること、そそて奴に勝利したお前の思いを汲み取り処刑は見送りにした。」
「あ、ありがとうございます。」
ガルドはヴィザルに眠っている間の経緯を話し始めた。
革命が終わりタルタロスがいるコロシアムにガルドやケン達が入ると涙を流し眠っているヴィザルとタルタロスに応急処置しているオリヴィエ達がいた。
「何してんだ?」
「ボス、もう1度タルタロスの身辺調査をした方がいい。」
「ん?何故?」
「タルタロスには娘がいるみたいだ。」
「まさか、エリュシオンか?だが彼女は既に…」
「ヴィザルだけが知っている何かがある。それを調べてから決めても遅くはないと思います。」
ウズメが提言する。ガルドは悩むが仕方なくタルタロスの処刑を後回しにすることにした。
後日、ギラージェ一派を処刑する際にタルタロスは既に暗殺したと革命軍や民衆に報告。タルタロスが隠してきたエリュシオンのことも発覚しガルド達はタルタロスに事情を聞くことにした。
「まさか、あんたの娘がまだ生きていたとは。」
「隠すのにいろいろ苦労したよ。」
「お前は本来ギラージェと一緒に処刑するつもりだったがヴィザルがお前に生きてほしいと願った。父親がいなくなる辛さを知っているあいつの願いだ。が、お前は金輪際ガテレンに近付くのを禁止とする。」
「寛大な処遇感謝する。」
ガルド達がガテレンに戻ろうとする。すると、タルタロスはガルド達を止めて言い放った。
「俺は今までの行為を謝罪はしない。」
「何?」
「やったことに後悔はしている。罪悪感もある。だが、俺は誰にも謝らないし詫びもしない。だから、俺を憎め。俺を恨め。俺だけに殺意を向けろ。全ての業を俺に背負わせろ。」
「当たり前だ。俺達が殺したいほど恨んでいるのはお前であって娘じゃない。」
ガルドの返答を聞いたタルタロスは自身をタルタロスと名乗るのを止めラダマンティスとして生きていくことを決めた。
「••••これがお前が眠っている間の出来事だ。」
「そういうことだ。」
ガルドが話を終えるとラダマンティスがヴィザルのところにきた。
「礼を言う。おかげで俺は処刑人から父親に戻れた。」
「良いんですか?救いたいと思った僕が言うのもなんですが全部の罪を背負うなんて…」
「それだけのことをしてきたんだ。覚悟は出来てる。」
ラダマンティスはヴィザルに手を差し伸ばした。ヴィザルも微笑み手を伸ばして握手する。ヴィザルはサリア達のところへと駆けていく。
「さぁて、終わったことだし帰るか!」
「そうね。疲れたわ。」
サリアとアルティネが馬車に向かう。すると、ガルドがヴィザルを見ていたウズメの肩を叩いた。
「お前はどうする?」
「え?」
「革命軍は解散。これからはウェイルを新たな王として生まれ変わる。俺は一応騎兵隊に戻る。」
「私も騎兵隊に入るぞ!」
「いいのかそれで?お前、あの少年に惚れてるだろ?」
その瞬間、ウズメは顔を真っ赤にし地獄耳のヴァンガス達はニヤリと笑いこちらを向いた。ウズメはすぐに顔を背けるがすぐにヴァンガス達が彼女を取り囲む。
「なんだなんだぁ?最初はあんなに毛嫌っていたのにヴィザルに惚れてるのかぁ?」
「初々しい奴〜。」
「チョロくね?ものすごくチョロくね?」
「うるさい!」
顔を真っ赤にしたままウズメは刀を振り回す。刀を避けさらにさらにちょっかいを出すヴァンガス達に見兼ねたアルティネが蔦を出して離す。
落ち着いたウズメが刀を収め振り向くと何故かヴィザルがオリヴィエに土下座していた。
「ヴィザル君?」
「大丈夫です。決して同人誌に載るようなことは致しません。」
「何してんだ!?お前、帝国最強の処刑人に勝ったのだぞ!何に怯えてんだ!?」
「うるさい!僕にとっての処刑人はオリヴィエさんです!」
「お前達許嫁じゃないのか!?」
ウズメは一旦深呼吸してもう一回落ち着く。
「勘違いするな。別に惚れたわけではない。あの時、タルタロスと戦うと言ったお前を罵倒したことを謝りたいと思ってただけだ。」
「あれが噂に聞くツンデレか。好きな相手に思いを言うことが出来ずつい違うこと言うという。」
「ヴィザル君。私、新しくギロチンメテオって技を習得したんだけど。」
「待ってください!それ完全に処刑用の技ですよね!?必殺技ですよね!?」
後退りして逃げるヴィザル。アルティネがオリヴィエを落ち着かせる。アイリスが余計なことを言ったと思い二人の間に入って宥めた。
「す、すまん。」
「次から気をつけてください。」
「それで、ウズメはどうしたい?」
「え…」
サリアがウズメの前に出て手を差し伸べた。
「うちはいつでも大歓迎だぜ。」
笑顔で迎えるサリア。後ろではヴィザル達が手を振ったりニコニコして見たりと歓迎ムードだった。ウズメはガルドをチラリと見る。ガルドもウズメがアイアンガイアに加入することに異議はないようで笑って見送る。それを見て決心したのかウズメは一歩前に出てサリアの手を掴み握手した。
「よろしく頼む。」
「よし!これで決まり!」
サリアは笑顔でウズメを迎える。ウズメもサリア達と一緒に馬車に乗る。馬車が走り出すとウズメは窓から体を出して手を振って別れの挨拶をした。
「ありがとう!この御恩は一生忘れないから!」
「ああ!元気でな!また会おう!」
ガルド達も手を振って別れを告げる。ラダマンティスとエリュシオンも遠くから去って行く馬車を眺めていた。
「また会えますよね。」
「会えるさ。」
(ありがとう…ヴィザル。)
二人も別れを告げる。そよ風が気持ちいい快晴の中を馬車が走って行く。ヴィザルは風を感じながら眺める二人に気付き手を振った。
次回予告
日常に戻ります。
「次からゆる~くやりま〜す。」




