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鋼絆《メタルバンド》  作者: 高本 龍知
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倒す≠殺す

前回のあらすじ

タルタロスの圧倒的強さに為す術もなく惨敗してしまうヴィザル。


「•ま、まだ•••」

「ま、待ってください。お願いします!」

「もう、遅い。」


 そう言ってタルタロスはヴィザルの首を斬り飛ばした。


「うわぁぁぁ!!」


 ヴィザルが飛び起きる。自分の首を確認して生きていることを実感した。夢だった。ヴィザルはホッとしていると隣で驚いているエリュシオンが目に写った。彼女が今までヴィザルを看病してくれていたみたいだ。


「だ、大丈夫ですか?」

「はい、すみません。」


 ヴィザルは自分の体を見る。包帯が巻かれていている。その時ヴィザルは思い出した。タルタロスに敗北した。自分の力が全く通じなかった。

 ヴィザルが敗北したことを実感し嘆いているとエリュシオンが温かいお茶を出してくれた。


「これを。温まりますよ。」

「ありがとうございます。」

「お父さんも酷いです。いつもはあんなことしないのに。」


 エリュシオンがボソッと呟いたことを気にするヴィザル。タルタロスはエリュシオンに自分が帝国で処刑人をしていることを教えていなかった。


「普段のタル、お父さんはどんな人なんですか?」

「優しい人です。お母さんを亡くしてからは私を養うためにこの教会に預けて仕事に励みました。でも時々ここに通ってはあの子達の面倒で忙しい私のために必要な物資を届けにきてくれたり親を失った子供達を預けにきてくれたりしています。」


 エリュシオンは持っているカップを下ろして話す。エリュシオンにとってはタルタロス、もといラダマンティスは立派な父親だ。ヴィザルも自分の父親ヴィーダは立派な父親だと思っている。父親を失う痛みも悲しみも知っている。

 だからこそヴィザルは言葉を発さなかった。今からその父親を殺すことになる。そんな残酷なことを何も知らない純粋な少女に言えるわけがなかった。

 ヴィザルは立ち上がり服に着替え折れた剣を持つ。タルタロスとの戦いで折れてしまった剣をヴィザルはエリュシオンに預けた。


「すみません。この剣をここに置いといてくれませんか?」

「はい。大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます。あの、ちなみに僕はどれぐらい寝てました?」

「1日ぐらいです。」

「しまったぁ!」


 ヴィザルほ1日も眠っていた。それを知って慌てて準備して教会を出ようとする。すると、エリュシオンが追いかけてきて何か渡してくれた。おにぎりが入った弁当箱だ。


「これを。」

「ありがとうございます。」

「ヴィザルさんと喧嘩しているお父さんはなんか悲しそうでした。何かあったのですか?」

「•••大丈夫。何もないよ。」

「本当ですか!」


 笑顔のエリュシオンを見てヴィザルは胸が張り裂けそうな思いだった。ヴィザルはそのままおにぎりを食べながら革命軍のアジトへ向かった。



「どこに行っていた!?」


 アジトに帰るとカンカンに怒っていたウズメに怒鳴られた。1日も連絡しなかったのだから無理もない。そんなウズメをケンが諭して落ち着かせる。


「何があった?心配していたぞ。」

「その、何もない、です…」

「ならいいが。」


 ケンと一緒にガルドのところに向かう。そこではもう明日に迫った革命の日に向けて作戦を練っていた。


「••••以上がターゲットだ。こいつらは生かす必要はない。必ず殺せ。特にタルタロス。こいつだけは我々の主戦力をつぎ込んで殺す。ケン、お前にも参加してもらうぞ。」

「分かっている。」


 ガルドの指示にケンが頷いているとヴィザルが挙手した。


「ん?なんだ?」

「その、タルタロスさ…タルタロスは僕に任せてくれませんか?」

「はぁ?」


 ヴィザルの発言にガルド達は呆れていた。ウズメがヴィザルの胸ぐらを掴み怒鳴る。


「馬鹿か貴様!タルタロスは帝国最強の処刑人だ!貴様1人で何が出来る!タルタロスは私達精鋭が殺る!貴様が出る幕はない!」


 ウズメがヴィザルを怒鳴り続ける。ガルドがウズメを落ち着かせヴィザルの胸ぐらから手を離させた。


「ヴィザル。何故今更タルタロスと戦おうとする?」

「そ、それは•••」

「•••マスター?」


 ヴィザルは黙り込んでしまう。タルタロスの娘が生きている。それを知ったら恐らく彼女を人質にする。そう考えてしまい何も話せなかった。


「まぁいい。とうとう明日革命を起こす。既に1万を超える同士が集結しつつある。集結が完了次第ギラージェの時代を終わらせるぞ!」

「おぉー!」


 みんな志気が高くやる気に満ちている。ヴィザルはみんなを止めることは出来ない。その夜、ヴィザルは1人でベランダにいた。エリュシオンに父親を失う悲しみを味わってほしくない。けどタルタロスは殺さなければならない。どうしたらいいのか分からずじっと夜空を見上げているとケンがお茶を差し出してくれた。


「ほらっ、飲め。」

「ありがとうございます。」


 明日革命が起きるなんて考えれないぐらい静かな夜だ。二人は夜空を見上げながらお茶を飲んでいる。


「さっきはどうした?いきなりタルタロスと戦いたいなんて。」

「い、いえ。なんでもないです。」

「そうか。言いたくないならこれ以上は聞かん。」

「あの、ケンさん!」


 ヴィザルがケンに質問する。


「もし、殺したいほど憎んでいる相手に大切な人がいて殺す以外に解決法がない時はどうしたらいいですか?」


 ヴィザルはなんとかタルタロスのことをはぐらかしながら聞こうとする。ケンはお茶を飲みながら考える。そして、何かを覚ったのかヴィザルをチラッと見て微笑んだ。


「そうだなぁ。俺も戦争で多くの人を殺した経験がある。その時相手に家族がいるとか考えているとこっちが殺られる時もあった。」


 ケンの回答を聞いてヴィザルはやっぱり殺す以外に方法はないと考えてしまう。すると、ケンはヴィザルの肩を叩いてアドバイスをした。


「その悩み、根本から変えよう。殺すと倒すは同じじゃないぞ。」

「••••!」


 ケンのアドバイスがヴィザルに響いたのかヴィザルは吹っ切れた顔でケンを見る。ケンもヴィザルを見て笑うと中に入った。

 中に入ると扉の両脇にオリヴィエ達がいた。


「なんだ。お前達もいたのか?」

「ヴィザルは俺達の後輩だからな。心配ぐらいするさ。」

「•••私はマスターの側でお仕えすると決めていますので。」

「私はヴィザル君の許嫁ですから。」

「私もヴィザルンの元気ない顔なんて見たくないならねぇ〜。」


 ケンの質問にヴァンガス達が答える。そこにフレイダが羨ましそうに見ながらやってきた。


「いいですね。ヴィザルさん、皆さんから大切に思われているんですね。」

「もちろんです。」

「ヴィザルンと一緒にいたら楽しいしね。」


 オリヴィエとフェルトリーネが自慢気に語る。ケンは1人考え事をしているヴィザルに気を使ってオリヴィエ達を部屋に戻した。

 

「殺すと倒すは違う•••」


 ケンのアドバイスで迷いが無くなったヴィザルは決心した顔で握り拳を作り夜空に向かって突き出した。

次回予告

ついに革命が始まる。


「必ずみんなを助けるぞ。」

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