癒し処にやってきたお客様6
耳の壁に当たらないようにしてくれているけれど、耳かきが耳の中に入っていく感覚がわかる。
途中で一瞬だけ耳垢に耳かきが触れて、ゴソっという音がして、その後、耳の奥に耳かきのさじが触れた。
カリッ……。
「あっ……」
一番かゆい部分に、そっと耳かきが触れて、思わず声が出る。
「このあたりが一番貼りついているみたいなので、ここを剥がして耳垢を外に出しますね」
「はい」
説明をするときにかくのを止められてしまったので、お預けをくらったような気持ちになる。
でも、返事をするとすぐにかゆい部分をかきはじめてくれた。
カリ、シャッシャ、カリ。
カリッとかいた後、シャッシャッと細かく動かすようにかいて、またカリッとかく。
耳垢の貼りつき具合を確認しているらしい。
「ちょっと逆から押してみますね」
押す? どういうことだろう?
それを聞く前に、桜子さんが耳かきを後ろから手前に動かすのではなく、耳かきを前から後ろに押す動きで耳垢をかいた。
パリパリパリッ。
耳の中で耳垢が剥がれる音がした。
「すごい……押して剥がれるってあるんですね」
「はい。耳垢も付き方が様々なので、耳かきのさじでかくよりも、押して動かしたり、絡めとったりというほうが取れることもあるんです」
絡めとるって何だろうと気になりながら、続きをやってもらう。
「この部分は剥がれましたが、まだついている部分がありますので、もう少しかかせていただきますね」
「あ、はい」
ちょんちょんという感じで様子を探るように、桜子さんが耳の中を耳かきのさじで触る。
慎重に少しずつ動く耳かきが、ツンとある一点に触れた。
「んっ……」
かゆい。
触れられた部分がすごいかゆい。
「このあたりがはりついていますので、剥がしていきますね」
桜子さんが繊細な動きで耳をかいていく。
カリ、カリカリ……。
細かな動きがかゆい部分を刺激する。
少し固まっているところなのか、ちょっと音も変化した。
シャリ、シャ、シャ……パリ。
パリッという音で剥がれたのがわかった。
パリ、パリリッ!
「あっ!」
一気に気持ち良さが押し寄せて、思わず声が漏れてしまった。
「かなり剥がれましたので、取り出しますね」
桜子さんが耳かきのさじで耳垢を押さえて、ゆっくりと取り出していく。
すすっ……ずるっ……。
ずるっという音と共に出された耳垢は意外に薄く大きかった。
「こんなのがぺたーっとくっついて……」
「本来は耳垢は古くなった皮膚が剥がれるのですが、剥がれずにくっついていたものだと思います」
解説と共に桜子さんは耳垢を乗せた黒い紙を台に置き、綿棒に持ち替えた。
「奥のほうは耳垢はないようなので、これで拭いていきますね」
その綿棒はよく見ると先が濡れていた。
「濡れてる綿棒なんてあるんですね」
「はい。これはノーマルなタイプですが、ペパーミントとかの香りがついているものもあるんですよ」