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「まーいーお待たせー。買い出し終了。お泊まりセットok!今日から舞のお家に、お世話になります。」
「はーい!って、莉亜それ何日分の荷物よ……キャリーバックにクーラーボックス、ウチはキャンプ場じゃ無いのよ。
まあいいか。高校に入って初めて莉亜とはクラスが別々になるし、帰りの時間も合わないし、最近ストレス溜まってたんだ〜。
連休はいっぱい遊んでいっぱい夜更かししちゃおうね。」
ほんの数十秒前の私達の楽しい会話だった。この直後私の体が、肌にまとわり付くような暗闇に包まれた。
何とも言えない気分に全身鳥肌が立ち、非現実的な状況に危機感を感じた私は、咄嗟に舞の体を突き飛ばした。
「舞これヤバイ、絶対近付いちゃダメだからね。」
「えっ! なっ……に? り、莉亜! いやー!」
舞の驚愕に満ちた表情と悲痛な叫びが聞こえる中、私は完全に暗闇に包まれた。
次の瞬間、私の胸に衝撃が走り、驚いて目を見開くと、何故か舞が私の胸の中にいた。
「何で?何で舞まで飛び込んできちゃうのよ!どう見たってこんなあ状況、ホラー映画でしょ!良いことなんて起きなさそうなのに!バカなの⁈」
「だって!莉亜が危ないって思ったら体が動いちゃって、ここは一体何処なんだろう?」
どれぐらい私達は身を寄せ合いながら、暗闇の中を漂っていたのだろうか。
まるで見えない、何かに導かれるように。
高校に入学して初めての連休で、幼い頃よりの親友と久しぶりにゆっくり過ごせる事に、心踊らせ待ち合わせ場所へと向かった。
これから楽しい時間を過ごすはずだったのに、何故こんな事になってしまったのだろう。
遥か向こうに小さな光が見え始め、近づくに連れ眩しさを感じるようになってきた。
暗闇との境に差し掛かった瞬間、強い静電気のような衝撃が全身に走り、驚いた私達はお互いの手を離してしまった。
次の瞬間、眩しい空間に突入した衝撃と引き寄せられる速度が早まったせいか、2人の距離は5メートル程開いてしまった。
「舞、もう少し手を伸ばして、どうにかしてこっちに来れないかな?」
「莉亜…離れたくないよぉ。お願い、戻って来て。」
今にも泣きだしそうな舞に 、何とか近づこうと必死に全身をバタバタ動かしてみるが、お互いの距離は一向に縮まる事はなく、ただ焦りだけが増してゆく中、突然体が落下した。
衝撃に備え目を瞑るが、一向に衝撃が来ることはなく、周りの歓声に驚き、辺りを見回すと黒いローブを頭から被っている長身の人間が1、2、3、4、5名。
その後ろに白いローブを被っている人が5名、私はその中心に囲まれるように座り込んでいた。
小さな泉がある石造りの部屋で20畳程の広さだろうか、薄暗く周りがよく見えない、キャリーバックにクーラーボックス、通学カバン周りに点々と散らばる荷物…あれ舞は何処?
「舞?ねぇー舞ってば!いないの?」
「xxxxx ~xxxx~」
私の呼びかけに舞の返事が返ってくることはなく、代わりに聞いた事もない言葉を喋りながら白いローブの人が近づいて来る、恐らく声の感じから女性だろうが、私には恐怖でしかなかった。
「い、い、いやぁー!」
私の叫び声と共にこの部屋にいた人間たちが、見えない何かに弾き飛ばされた。
私は慌てて走り出し、扉の向こうへと駆け出す、後ろから騎士のような男が大勢追いかけて来るのが見えたが、私はただがむしゃらに舞の名前を呼び走り続けていた。
薄暗い部屋を飛び出し、廊下を突き抜け、正面に見えたひときわ大きな扉を開けるとやっと、外へ出ることができた。
「なっ…に、ここ……お城?」
「xxxxxxxxx」
「イヤ!来ないで〜」
扉の横の人達に捕まりそうになるが、叫んだ瞬間吹き飛んだ。
改めて周りを確認すると、日は沈み暗くなり始めていた。
周りに人がいない事を確認し、生垣の中に身を潜めスマホを取り出す。
画面には案の定圏外の表示が、お願い通じて!と祈りながら舞へとダメ元で、電話をかけてみると、不思議なことに呼び出し音は無く雑音が聞こえ始めた。
もしもしと何度か呼びかけると舞の声が聞こえてくる。
「えっ?えぇっ!莉亜なの?良かった。
でも、 何で通じて…?イヤ、そんな事よりも何処にいるの?」
「わかんない、ここからは大きなお城のような建物とその向こうに石の壁、近くには石造りの建物が見えるだけよ舞は?」
「私は石の壁の所だけどお城?霧がかかっていて…他には少し離れた所に明かりが並んでいるように見えて、後は川と森だけ。」
「霧?霧なんて…兎に角。壁の向こうに木がたくさん見える場所があるから、とりあえず近くに行くね。舞も追われたら大変だから、隠れていて!圏外なのに通じてラッキーだった。」
私は走りながら穴に落ちた後の状況を説明した。舞も怪我をすることもなく、スマホを確認したり、壁伝いに少し歩いていたところ、ポケットの中から声が聞こえてきたので、驚いたそうだ。
ここからだと壁までは少し距離があるが、走ることには慣れてるし、一刻も早くこんな場所から抜け出さないと。
時折、騎士のような人達が何か騒ぎながら近づいて来る事があったが、近寄らないでと強く念じ、手をかざすと見えない何かに弾き飛ばされた為、私は捕まることもなく壁の近くへとたどり着けた。
「舞お待たせ壁にたどり着いたけど私の声聞こえる?」
「ちょっと待って(りーあー)携帯外して叫んだけど聞こえた?」
「少し離れてる気がするけど、聞こえた。舞念のため少し壁から離れて」
私は、人を弾き飛ばした時と同じように、壁に手をかざし、吹き飛べ!と強く念じてみた。
するとドォーンという音と共に石壁に大きな穴が空き砂煙が舞い上がる。
辺りが落ち着いたので穴から顔を出し舞を呼ぶと、こちらへ走って来る舞の姿を見つけた。
「莉亜、やっと会えた。でも壁をどうやって……」
「うん…それについては私にも分からないんだけど不思議な現象がいろいろと……とにかく!ここから早く逃げよう。」
「莉亜後ろ!」
舞の声を聞いた直後、首に衝撃が走り私は意識を手放した。