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お風呂



 食事が終わり、空になった食器を下げると少女が当然とばかりに手伝ってくれたものだから、あっという間に片付いた。普段は全部少年がやっていたので、当たり前のように横でお皿を洗っている少女にビックリした。

 幾分、気持ちに余裕が出てきた少年は、改めて隣の少女を見る。そして少女が着ているその服に、あるものを見つけてギクリと全身を強張らせた。

 どれだけ視界が狭まっていたのか。今頃それに気付くなんて――。

 少女の白いワンピースは、ところどころ黒ずんだ赤いものが滲んでいた。

 少年はそれがなんであるかに気付き、またもや暗い気持ちになる。先程まで感じていた温かさがまるで嘘のようだ。それでも少年の体は習慣に従って、のろのろと動いてくれた。




 食事を作る際、沸かしておいたやかんのお湯を、家の外。目隠しとして置かれた衝立(ついたて)の向こうにある、大きなたらいへ注ぐ。

 そこに冷たい水を足して程好い温度にすると、家主のいなくなった部屋の棚から、あちこち探して引っ張り出してきたタオルを少女に渡す。

 少女はタオルを受け取ると、得心がいったとばかりにひとつ頷き――、少年の服を脱がしにかかった。


 これには少年が驚いた。

 いつもなら父親が先に湯を使い、そのあと少年が片付けも含めて湯を使う。

 身に沁みついた習慣もさることながら、少女が早く汚れを落としたいだろうと思ってタオルを渡したのに、何故か少年の服をぐいぐい引っ張りだしたのだ。

 少年は慌てた。

 胸にのしかかっていた暗い気持ちも瞬時に吹き飛んだ。そんなもの気にしている場合ではない。このまま大人しくしていたら、着ている服を剥ぎ取られてしまう。

 少年は反射的に身を守るべく、当然の如く抵抗した。

 自分はまがりなりにも男子である。男である。

 対する少女は村を襲った人外だとはいえ、見た目的にはうら若き乙女だ。

 恥ずかしくないわけがない。


「じっ……自分で、できるからっ…!!」


 そんな少年の悲痛な叫びも空しく……。

 全身むかれた少年は、湯を張ったたらいの前に置いてある、小さな椅子に座らされたのだった。




「ふっふふ~ん。」


 少年の後ろに陣取ったヴァイオレットは、鼻歌などを口ずさみながら、機嫌よく少年の頭を洗っていた。

 少年はと言えば、すっかり肩を落とし、椅子に腰かけた膝に両肘を乗せ、されるがままになっていた。

 はたして年齢による力の差なのか、少女が人外だからなのか。分類上、「幼児」を脱却したばかりとはいえ、仮にも「男」を自認する身としては後者であって欲しいと願わずにはいられない。

 そんな微妙な男心に気付く様子もなく、ヴァイオレットは少年の髪についた泡を洗い流してやる。次いで、手にしたタオルを湯に浸し、石鹸で泡立てると、さして大きくも広くもない、その小さな背中に押し当てた。

 ――瞬間、少年の背がビクリと跳ねる。


「……?」


 少年のその反応に違和感を覚え、ヴァイオレットはタオルを当てた箇所に目を凝らした。

 少年の手によって、衝立の脇に置かれた明かりが細く辺りを照らしていたが、暗くてよく見えない。ヴァイオレットは顔を近付けて少年の背をまじまじと見ると、タオルを当てた箇所以外にも青黒い痣のようなものがその背に浮かんでいることに気が付いた。


「これ……。」


 ヴァイオレットは少年の背後から、抱え込むようにして抱きしめる。


「**っ!?」


 少年が何やら驚いたような声を上げたが、気にせず少年の身体を自分の方へ傾けると、その前面部――胸や腹を観察する。

 そこには赤や青の痣が背中側よりも多く見られた。


「これって……。」


 ぶつかって出来たにしては異様な数のその痣に眉をひそめる。古くなって薄くなったものもあるが、まだ新しいものも幾つかあった。


(……これ、見られたくないから、あんなに抵抗したのかなぁ。)


 少年は顔を真っ赤にしてもがいていたが、ヴァイオレットは意にも介さず、少年の不揃いな髪を指ですいた。そして、先ほど少年が料理をしていたときの手際の良さを思い出す。

 身体の痣。不揃いな髪。年齢にそぐわない手際の良さ。

 そこまで考えて、ヴァイオレットはつきりと胸が痛んだのを感じ、そっと胸を押さえた。


(こんなに小さいのに……。)


 実のところ、少年が服を剥ぎ取られる際、抵抗したのは単に羞恥心によるものだったが、少年の身体に浮かぶ痣を見てしまったヴァイオレットは、そうだとは微塵も思わない。


「――よしっ!」


 ヴァイオレットは、少年を抱きしめる腕に力を籠めると、小さくひとつ頷いた。

次回の更新は、明日12/13(木)を予定してます。

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