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食事は大事です(1)

 村中をひと通り見て回り、少年と家畜以外に動くものがなくなったことを確認したヴァイオレットとカンナは、少年を連れて地面から突き出した塔の所へと戻ってきていた。

 彼女達の他にも共に地上へあがってきた面々が、ぞろぞろとその周辺に集まり出す。


 大体揃ったところで今日のところは解散となった。

 日も落ちそうなくらいの時間になっていたので、()()()()()は翌日に持ち越すことにする。

 解散を告げる際、リーダー格の男性はヴァイオレットが連れている少年に気付いてその柳眉をぴくりと動かし、一瞬何か言いたげにしたものの、結局は何も言わずに塔の中へと入っていく。他の面々も思い思いにその後に続いた。




 塔の中の一室。二階部分に設けられた皆がくつろぐ為のスペースで、カンナは部屋の中央に置かれた二人がけのソファにその身を沈めていた。「森を作るだけ」と聞かされていたのに、随分と話が違う。先程まで自身が行っていた蛮行に目を閉じ、両手を胸の上で組んで眉間に深く皺を刻んでいると、真上から声がした。


「ヴィオレはどうした?」


 ソファの背もたれ部分に両手をつき、見下ろすように声をかけてきたのは他でもない。塔が立った際、リーダーとして担ぎ上げられたスラリとした男性――コメリナ・コミュニスである。


「ニース……。」


 カンナは閉じていた目をゆっくり開くと、すっきりとした顔立ちの、その男性の名前を呼んだ。

 姓で呼んだのは、この男性を名前で呼ぶと途端に機嫌が悪くなるからだ。曰く、「女みたいな響きなので好きではない」らしい。

 そんな彼から投げられた質問に、先程とはまた違う意味で眉間に皺を刻む。


「ヴィオレなら、『せっかく地上に来たんだから、地上の人達の家で過ごすー』とか言って、いそいそと村に引き返して行ったわよ。」

「……そうか。」


 カンナの言葉に、ニースも眉間に皺を寄せて軽く揉む。

 そこに、二人の物ではない第三者の声が割って入った。


「カンナ、お前ら、この村のちびっ子連れて来てたろ?それも関係あるんじゃねぇの?」


 ハスキーがかった声に、二人して顔を横に向ければ、猫背気味に背中を丸めてポケットに手を突っ込んだ男が、いつの間に来たのか、すぐ側に立っていた。


「……ヴァイン。」


 カンナが低く呻く。

 塔の前に集まったとき、ヴァイオレットが拾った少年もその場に連れてきていたのだ。この男だって、それを見ていたハズである。


(気付かないでいてくれたら良かったのに。)


 カンナはこの男のことがあまり得意ではなかった。

 それと言うのも――。


「コ・メ・リ・ナちゃ~ん。なんかあってからじゃ遅いんじゃねえの?」

「ニースだ。そうは言うが、どうしろと?今から刈り取れって?誰がやるんだ、誰が。」


 的確に相手が気にしていることを面白がってつついてくるのだ。姓ではなく、ちゃん付けで名前を呼ばれたニースは明らかに不機嫌になりながら、ヴァインに応じている。


(悪いヤツじゃない……とは思うんだけど、いかんせん性格がね……。)


 断定出来ない時点でいかがなものかと思わなくもないが、言っても詮無い事なので黙っておく。

 真横で囂々(ごうごう)と怒鳴り合いを始めそうな二人を尻目に、今この場にいない人物の事を考える。


(私もあっちに付いて行けば良かったかしら。)


 カンナはソファに寝そべりながら、ヴァイオレットと少年は、今頃どうしているのだろうかと短く息を吐いた。



 * * * * *


 ――少年は途方に暮れていた。


 彼の目の前には調理されていない食材がごろごろと無造作に置かれており、その隣には、これまた調理されていない手羽先肉を少年へそっと差し出し、少し困ったような優しい微笑みを浮かべた人外の少女がいる。

 これは食べろということだろうか。

 差し出された生の骨付き肉と人外の少女の顔を見比べながら、少年は困惑の色をさらに深くしていった。



 時は少し遡る。

 少年は、ふわりとした白いワンピースを着た少女と、真っ赤な女性に連れられて、塔の前に連れてこられた。

 塔の前には沢山の人達がいて、程なくしてその場にいた人達は塔の中へと入っていく。

 少年も連れていかれるのかと身を固くしていたら、白いワンピースの少女だけが、自分を連れて村の方へと足を向けた。

 村のあちらこちらに立っている家は、塔が立った際の揺れで、いくつか崩れてしまっていた。この様子では、少年の家も無事ではないだろう。そんな中、少女は崩れていない家を見つけると、なんの躊躇(ためら)いもなくその扉を開けた。

 少女に手を引かれて中へ入る。


(ここ、誰が住んでたんだっけ……。)


 少女達が村を襲った衝撃から、未だ回復しきれていない頭でぼんやりと考える。

 室内はこぢんまりとしていて清掃が行き届いており、そう多くはない物は、先程の揺れでいくつか床に散らばってしまっていたが、元はきちんと片付けられていたようで、全体的にすっきりしている。顔は思い出せないが、ここに二度と帰らない人達がいるんだという事実に、ずきりと胸が痛んだ。

次回の更新は、明日12/11㈫の予定です。

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