始まり
「あーあ、奥の人達ってば、地上に何があるのか確認せずに立てちゃったのかぁ。」
地上にある、とある村落。
その地面を割って、地鳴りと共に出現した塔から出てきた少女がポツリとつぶやく。
少女の名前は「スミレ」を意味するヴァイオレット。年の頃は16~17歳。
毛束の少ない真っ直ぐな髪は、その美麗な額を隠すことなく、腰の辺りまでシャンと伸びており、生まれて初めて日の光を受けたペールオレンジの髪は、光の反射で白とも紫ともつかない色彩を放っている。
身にまとった膝下まであるワンピースは、腰の辺りを幅の広いサッシュベルトで留めており、余裕を持たせた七分の袖は、上腕部が薄く開いていて、動く度にそこに隠された細腕がちらちらと覗く。
「面倒な事になりそうね。」
その言葉に続いたのは、こちらも同じく塔の中から現れた、燃える炎を連想させるような快活な女性だ。
そのシルエットをなぞるように誂えた服は、お腹の部分を覆う布が皆無で、形の整ったおへそが惜し気もなく晒されている。
名前をカンナといい、年はヴァイオレットと似たようなものだろう。
肩口から襟元に向かって綺麗に切り揃えられた赤い髪から、ちらりとのぞく白い耳は、その先端が少し尖っているようにも見える。
この二人以外にも、塔から出てきた人達は、一様に不思議な肌をしていた。
白磁のような艶やかな肌に、葉脈にも似た青い血管がうっすら透けて見えているのである。
地上で暮らす人達からは、とても想像できない肌の質だ。
そんな彼女らの視線の先では、地上で暮らす者達が、突如現れた塔とそこから出てきた彼女達の姿に、ある者は驚き、ある者は怯えを滲ませた表情を浮かべ、皆一様にその動きを止めてこちらを凝視している。
さて、どうするか――。
少女二人が思案していると、彼女らの後方から、スラリとした男性が前に進み出て指示を出す。
「どうやら言葉も通じないようだし、話し合いは無理だろう。俺達の仕事は塔の周りに森を作ることだから……。」
その言葉に、その場にいた一同が、目の前で固まっている人達が発する声音を聞くともなしに耳で拾った。
「……***?*****っ……。」
何かしゃべっているようだが、まるで意味をなさない音の羅列にしか聞こえない。
リーダー格とおぼしきスラリとした男性は、ひとつ小さく息を吐くと、
「邪魔なものは片付けてしまおう。」
それを合図に、塔から出てきた人達は、皆一斉に動き出した。
次回、12/09(日)更新予定です。