表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

準備

 Bar「戦闘民族」


「了解した。私を雇うと言うのなら、喜んでやらせて貰おう。繰り返すようだが、この階層の並みのハンターと引けを取らない自信は有る。しかし先程も言った通り、私はこの階層に疎いばかりかここでは新人も同然だ。それでもいいか?」

 生真面目で妥協のない性格のようだ。ハンターには珍しい。

「ようネェチャン、訊いていいか?」

 マックが自分の前の皿をどけて身を乗り出した。

「何だ?」

 相変わらず強い視線だが、どうやらこれはデフォルトらしい。

「10層のギャザーランクは何だった?」

「Bだ。それから私は早瀬エリス楓という、名前で呼べ」

 マックはふーんと頷くとまた食事に戻った。

「どうしたマック、私達にも説明してくれ」

 真奈美と詩織もマックに視線を向ける。

「ああ、真奈美達は知らなかったな、悪ぃ悪ぃ。どの階層にもよ、ギャザー、ハンターにはランクが有んのよ。S、A、BんでG迄の8ランクな。大体DとかEってのがどの階層でも中堅クラスなわけよ。Cで一廉ひとかど、Bで達人、Aで英雄、Sはまぁ名誉職ってとこか?んでよ、フィールド階層が一段深くなると、ランクが二段落ちると思ってくれ。つまりネェチャ・・・楓?エリス?どっちだ?」

「どちらでもいい」

「楓は自己申告通りの腕前ってことさ。BランクのギャザーはCランクと違ってハンター並みに戦闘力無いとなれねえランクだかんな」

 なるほど、と納得する二人だが、そうするとマックやルイのランクが気になってくるのが人情だ。好奇心旺盛な詩織が訊ねる。

「マックのランク訊いていい?」

「俺様はCだな」

「凄いんだね、でもBは目指さないの?」

「馬鹿言うねぃ、俺様はフィルニーだぜ、肉体的ハンディってのがあらぁ。この俺様があんなでっけぇマシンガンぶっ放すの想像出来んのかよ?」

 大げさに仰け反りながら、真奈美のLMGを指さす。

「そっか、ごめん・・・」

「別にいいって、俺様も元からBなんて目指してねーし。それどころかギャザーですら俺様にとっては資金稼ぎの通過点よ。俺様の目標は別に有るのさ」

 言いながら首から下げたゴブリン神社のお守りの中から小さく折りたたまれた何かの切り抜きを出して見せる。

「俺様の目標、憧れのブンさんみてーになるのが俺様の夢よ」

 真奈美と詩織はテーブルに広げられたその切り抜きを覗き込んだ。派手なデコレーションでこれでもかとドレスアップされた大型トラックの前に、往年の大御所俳優が咥えたばこで佇んでいる。

「どーだい、痺れるだろ?男のロマンてやつだろ?このトラックの芸術性を見ろよ。地上人て奴はつくづくわかってるねぇ」

 デコトラ愛に浸るマックに興味深げに真奈美は頷く。

「このトラックはお前では身長が足らずに運転出来ない」

 余計な事を言う楓だが、マックは動じない。

「んなこたぁ百も承知だってーの。これを見な」

 腹巻から出て来た丸められた雑誌が広げられる。雑誌は今月号の「トラック野郎になろう」という雑誌だった。見てみると、軽トラをデコレーションしたMSCEのデコトラ専門誌のようだ。表紙のトラックのコンテナやフロントに「ダンジョン無宿」「百鬼夜GO!!」「飛ばぬなら、飛ばせてみしょう、ゴブリン烏」等の謎の文言が力強い筆さばきで書かれており、浮世絵風の富士山をバックに妙にリアルなゴブリンが歌舞伎のポーズを極めている。

「・・・」

「・・・」

「な、痺れるだろ?クッソたまんねーわ、早く乗りてー!!」

「早く乗れるといいな」

 真奈美の言葉に我に返ったマックはいそいそと雑誌を仕舞い、姿勢を正した。

「ま、俺の話はどううでもいいやな。それより楓よう、おめえその装備じゃ15層無理だぞ」



 15層 第一城砦都市 ガンスミス「ファンキードラゴン」


 真奈美達と会った次の日、ルイは馴染みのドワーフがやっている工房兼店舗を訪れていた。目的は弾薬の補充だ。

 相変わらずレゲェミュージックが大音量で流れ、観葉植物でジャングルのような店内をかき分けるように奥のカウンターに進む。

「よう、坊主、久しぶりじゃねーか。しばらく弾買いに来ねぇからくたばったかと思ったぜ」

 店主はゴンゾーという名のおっさんドワーフで、15層どころか30層で活躍しているシーカーも買い付けに来る腕利きのガンスミスだ。弾薬だけではなく、BC鋼の鍛造、銃火器の修理、カスタム、車両の修理、改造、オリジナル火器の製造まで何でもござれの親父だ。 

 腕はいいのだが物凄い偏屈親父で、気に入らない客には平気でAA-12フルオートショットガンを撃ちまくるサイコ野郎でもある。

 カウンター内のいつものポジションに、アロハシャツにサングラス、でかいヘッドフォンを首にかけ、アポロキャップを後ろ前にかぶったゴンゾーがいる。

「んで?今日は何だ?」

弾薬たま買いに来た。ナナロク500とバックショット100、ヨンロク200、それからイチニイの2種類50づつ」

「へぇ、随分な量じゃねーか、遠征か?」

「護衛の仕事で一月程辺境にな。それからハンドグレネードも何個か」

「なるほどねぇ。ま、頑張れや。お、そういやこの前新型の12.7mm作ったのよ、モニターやってくれ。取り敢えず20発作ったから持ってけ」

 背後の棚から注文の弾薬をカウンターに置きながら、新型とやらもカウンターに出す。

「新型?大丈夫なんだろうな?」

「何度か試射はしてるから大丈夫だろ。マガジンもつけてやる」

「どんな弾だ?」

「エレクトロスパーク弾だ。マイクロ魔石コア電池を弾頭に仕込んである。一定の圧力で弾けてビリビリって寸法よ。理論上じゃぁ水棲肉食巨大亀アケロニクスも一発でお陀仏の電流が流れる」

 マガジンから長大なカートリッジを一発抜き、ルイに放る。

「マジか・・・」

「ま、雷耐性強いトロルやらには一瞬足止めするぐらいの電流だが、もともと12.7mmに仕込んであるからな、破壊力は抜群のはずだ」

 ルイは、弾頭の先が黄色くマーキングされたカートリッジを見つめ、マガジンに戻した。因みに弾頭の先の色が白が硬芯徹甲弾、赤が焼夷爆裂弾だ。

「分かった、使ってみる。そうだ、俺のM14の予備のバレルとセイバーの予備バレルも2本づつくれよ」

 セイバーとはゴンゾーオリジナルの大口径ライフルだ。GW50-SABRゴンゾーワークス50口径セミオートバトルライフルという化け物じみた代物だ。反動が強すぎて連射してもホールドしきれず、集弾出来ないのであえてセミオートにしてある。

 要するに短く取り回しを良くした対物ライフルである。その分スナイパーライフル程の精度は無いが、用途が狙撃ではなく、中近距離での制圧射撃、若しくは破壊力に任せての大型モンスター対策の武器なので、高い精度は元々求めては無い。

「あいよ、全部で・・・チッめんどくせー、30万DYでいいぜ」

「悪りぃないつも」

 腰のポーチから10万DY金貨を3枚取り出し、カウンターに置いたところで新しい客が入って来た。

「ここがよ、俺様の行きつけのスミスよ。おーいゴン爺、生きてっか?」

「けっ、マサツグの洟垂れ小僧かよ。偉そうな口きくのは、下の毛が生えてからにしな」

「うっせうっせうっせーつーのっ。ボウボウですぅ、俺様すでにボウボウですぅっ」

「ほう、んじゃ見せてみろ、そのボウボウのご立派な息子さんをよ」

「応ともよく見てやがれ、俺様のこのンギ!」

 勢い良くカウンターに飛び乗ってベルトに手を掛けたマックに、絶妙なタイミングで真奈美のハイキックが決まる。

 綺麗に吹き飛んだマックを放って置いて、真奈美はルイに向き直った。

「ルイも来ていたのか」

「まぁな、昔からの馴染みだ」

「それよりあんた、随分小僧の扱いが上手いな!気に入ったぜ。ワッシはガンスミスのゴンゾーだ。銃の事なら何でも相談してくれ」

 言うなり真奈美に大きな手を差し出す。

「橘真奈美だ。この層のフィールド調査に来た」

 軽く握手を交わし、ゴンゾーは問うた。

「で、今日は何だ?弾か?そうか、ルイの坊主の雇い主か」

「そうだ。ルイ達に手伝って貰う事になっている。それからここに用があるのは私ではない。彼女だ」

 後ろを指す。

「さっきのマックに今の装備ではこの層では通用しないと言われた」

 真奈美の後ろから出て来た女ハンターに、ゴンゾーは目を向ける。

「今の装備ってぇのはそれか・・・確かに厳しいやなぁ。そのベレッタは5.56mmだろう、15層じゃ豆鉄砲だわな。特に辺境に行くなら最低でも7.62mmは必要だ。それからこの層から下は手付かずのミニダンジョンが山ほど有る。真奈美姐さん、ミニダンジョンあったらどうするね?」

「入る!」

 ゴンゾーの問いに間髪入れずに力強い返事を返す。

「ならSMGサブマシンガンPDWパーソナルディフェンスウェポンの一つも持ってねーとな。狭隘な空間で撃ち合うならライフルより取り回しのいいが有ると便利だ」

「なるほど、確かにその通りだな。良いのはあるか?予算は弾薬含め150だ」

「150!御大尽様じゃねーか。こりゃ豪儀だな。ルイよ、このお嬢さんに見繕ってやんな」

「何で俺が?」

「ワッシは真奈美が気に入った。少し話がしてみたい。オラ、倉庫の鍵だ。試射は適当にな」

 言いつつ腰にぶら下げた地下倉庫兼射撃場の鍵を放る。

 ルイも代金を負けて貰った手前、断る事も出来ず、仕方無く楓に付いて来るように身振りで合図した。

「お前も真奈美に同行するハンターか?」

「そうだけど?」

「私は早瀬エリス楓だ。お前が10層のハンターのような卑怯者でない事を祈る」

「俺は島崎瑠偉。卑怯かどうかは知らんが、祈っても無駄だと思うぜ。そんな話はどうでもいい。あんたもハンターなら銃の好みや戦闘スタイルはあるだろ?」

「銃の好みは無い。性能が良ければそれでいい。今使っているのも店の主人のおすすめだった。勿論試射とストリッピングは吟味したつもりだ」

「天下のベレッタさんの新品ならそりゃ文句は無いだろうさ」

 薄暗い階段を下り、鉄板で出来たごついドアの鍵を開けて入った先は細長い部屋だった。両側の壁に数百丁の銃器がタイプ別に並んで陳列されている。入って左の壁の中央に、もう一つドアが有る以外は全て銃器で埋め尽くされている。

 ルイはその中から1丁のライフルを取り出した。

「これはどうだ。HK417、7.62mmのバトルライフル。耐久性、命中精度、操作性、汎用性に優れてる」

 無言で受け取る楓。しばらく弄りまわし、ルイの顔を見る。

「悪くない。が、他に無いか?」

「・・・これは?」

 次に取り出したのはフラットダークアースカラーのライフルだ。

「FN-SCAR-H同じく7.62mmだ。これもHK417に劣らない性能があるが、耐久性とメンテナンス性はHK417の方がやや上かな」

 渡された楓は先程と同様弄りまわす。

「軽いな」

「そうだな、HK417よりは1キロ以上軽いだろうな」

「これにはグレネードは付けられるか?」

「たしか専用グレネード発射器がある。これだ、FN40GL40mmグレネード」

「これにしよう。後で試射出来るか?」

「あのドアの向こうがレンジだ。次はPDWか?」

 部屋のもう一方のドアを軽く指して短機関銃ブースに行く。

「ま、金に余裕があるならこれだな。FN-P90。携帯性と利便性、装弾数で言えば文句無しだ。弾は5.7mmと小さめだけど硬体貫通性能、軟体ストッピング性能共に高いな。デメリットはマガジン交換に慣れがいる。50発マガジンが特殊で、バレルの上に被せる形になる」

 またも無言で弄繰り回す。

「マガジン内の弾が横に並ぶのか・・・」

「ああ、そのおかげで50発入る」

「複雑な構造でも信頼がおけるのか?」

「そこは大丈夫だろ、ずっと改良はされてる。問題はさっきも言ったマガジン交換、あと、排莢が真下にされるから、踏んで滑って転ぶな」

「メリットの方が大きいな、ミニダンジョン内ではあまり問題になりそうにない。ブルパップだから見かけよりバレルが長い。と言う事は集弾性能も悪くないはずだ」

「決まりか?」

「ああ」

「そいつと同じ弾丸を使うハンドガンがあるが?」

「専用弾ではないのか?」

「バックアップ用の拳銃、FN-Faive-seveNファイブセブン

「貰おう」

「まいどありー」



 その後ルイの指導の下、入念に試射とストリッピング、クリーニングを済ませた二人は地上に上がって来た。

「親父、高いの売りつけてやったぞ。1割くれ」

「馬鹿言うねぃ。で、何にしたんだ?」

 楓は有り合わせの段ボールに入れた銃器をカウンターに乗せた。

「ルイ、おめぇいつからFNの営業になった?」

「コーディネートだ。この秋流行るブランドだ」

「秋色カラーのFN-SCARでトップスを決めたらP90で腰を引き締め、ファイブセブンで差し色をってか?お嬢さんランウェイ歩くか?」

 馬鹿な事を言いつつそれぞれの弾薬を用意し、スコープ等のアクセサリー、予備バレルも並べていく。

「こんなもんか?他に欲しいもんがあれば言いな。ああ、それから真奈美姐さん達は別に買いもんに出かけたぜ。ジョーの店にに19時集合だとよ」

「ご主人、サプレッサーが無いようだが?」

 楓が怪訝な顔をする。

「ああ、ここで扱ってる銃のバレルは予備も含めて全部親父のカスタムバレルだ。純正品と比べて若干太いし、長い。触媒入れて静音のエンチャントが掛かってる。フラッシュハイダーも標準装備だ」

「そうとも、ミニダンジョンとかの閉鎖空間でも音の反響を出来るだけ押さえてある。森ん中でもあんまりドンパチやらかすとモンスターが寄って来るからな。もっとも7.62mmクラスになると気休め程度だがね」

「了解した。良い物にはそれなりの対価が掛かる。だがこれは必要経費だ。こちらの命が掛かっているからな」

 真面目くさって言う楓に大きくゴンゾーは頷く。

「わかってるじゃねーかお嬢さん。お前さんも気に入った。いいハンターになるぜ」

「じゃぁ、俺は帰る。あんたはスコープの調整とメインウェポンの習熟をしろ」

 カウンターに纏められていた自分の買い物荷物をポーチに放り込み、さっさと背を向ける。

「ああ、そうする。19時にバーで会おう」

 肩越しに手を上げ、ルイは去って行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ