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邂逅

15層 Bar「戦闘民族」


「あと、他にも面接するにゃら依頼票を掲示板に貼っとくにゃ。ここいらのそこそこのロクデニャシにゃら毎晩来るから、必ず見るにゃ」

 そこそこのロクデナシというのは何をもってそこそこなのか、詩織には謎だが、タミーは随分親切で丁寧だ。後で聞いた話だと、特に猫獣人系は神経質でプロ意識の高い種族らしい、反面プライドが無駄に高く、他者を見下す傾向が有るらしいが、タミーはプロ意識は高いようだが親しみが持てる。

「ありがとう、お礼は如何ほどだろうか?」

 真奈美の問いかけに、タミーは右手の人差し指を一本立てた。

「報酬は交渉成立後、支払い額の一割にゃ。これはギルドの取り決めにゃ」

 真奈美はその指にトリガーだこを認めた。

 事前調査通りの報酬に、真奈美は頷く。

「ありがとう、世話になる。あと、出発までの宿を紹介して貰いたいのだが」

「二階が宿ににゃってるのにゃ。護衛が見つかるまでの安全は保障するにゃ。それから出発まであんまり出歩かにゃい方がいいにゃ。二人だけでうろつくと、かにゃらず面倒に巻き込まれるにゃ。ここは上層程お行儀が良くにゃいからにゃ」

 さらっと怖い事を言うタミーに詩織は眉根を寄せた。

「買い物とかはどうしたら良いのでしょう。あと、必要物資の相談も・・・」

「マックが決定にゃらマックを連れてけばいいにゃ。あれでもうちらのクランにゃ。ジョーと揉めたいと思うロクデニャシはここいらには居にゃいし、あのとっちゃん坊やも当てににゃるにゃ」

 意外にも高い信頼に驚き、その疑問を口にすると、タミーは当然とばかりに言った。

「当たり前にゃ、腕のにゃい奴と組むとここじゃ簡単に死ぬにゃ。うち個人の好き嫌いと技量の評価は別の次元にゃぁ」

 それからタミーは都市の中と言えど、必ず出来るだけの武装をする事、何かあったら必ず「クラン戦闘民族」の名を出す事、買い物は出来るだけ一度で済ませる事、荷物はマジックバッグが有るなら必ず全てマジックバッグに入れて持ち歩く事等を言い含めた。



「やっぱりダンジョンて怖いですね、モンスターや環境だけが敵じゃないんですね」

 今は戦闘民族の本営業も始まり、タミーもウェイトレスとして忙しそうに働いている。真奈美と詩織も正式にチェックインを済ませ、荷物を置き、着替えると再びバーに降りて来た。

 契約はまだだが、マックも明日の必要物資の買い出しに付き合うという約束で、真奈美と詩織の席に同席して奢り飯を相伴している。軽くミーティング兼ディナーだ。

 今はタミーの忠告に従って、真奈美達も地上から持参した武装で身を固めている。と言っても真奈美はともかく詩織はハンドガンのグロック17一丁のみで、全天候型防弾防刃ポンチョ、その下にプロテクトスーツだ。詩織の場合むしろ武装より、撮影機材の方を多く身に着けている。

 対して真奈美は冒険者顔負けの装備だ。HK21LMGライトマシンガンに100発ベルトリンクのナナロク弾帯を体に巻き付けている。腰にはコンバットマグナムと大振りのナイフ、背中に大型のハイパーカーボン製ヒーターシールドという堂に入った武者ぶりだ。

 勿論今はシールドとLMGは椅子に立てかけてあるが、タミーに一言「シロウトじゃにゃいにゃ」と言われていたのが印象的だ。確かに黒髪ロングを首の後ろで括っただけの髪型、180cmを越える長身、無駄が無く出るところは大胆に出、引っ込む所はこれでもかというぐらい引き締まったボディの真奈美が体の線が出まくるプロテクトスーツを纏うと、とても大学教授には見えない。おまけに眼鏡の奥の眼光は鋭く、クールビューティーという言葉を如何無く体現している。まさに迫力美人、戦女神である。

 詩織も充分美しいが、真奈美程のオーラは無い。栗色のショートヘア、小柄でスレンダーな彼女はゴージャスさより可憐という言葉が似つかわしい。

「そりゃまぁこっから下は、上層うえに比べりゃ腕っぷしも度胸も、ついでに頭のぶっ飛び具合も全く別もんだからなぁ」

 正体不明の肉の唐揚げを旨そうにつまみながら、マックは言う。

「そんな事よりよ、あんたら明日何買いに行くつもりだよ。てかよ、今どんな装備よ?あ、ガクジュチュ的な道具は量だけでいい。言われても解らねえから」

「どんなって言われても・・・」

 詩織が言い淀むと、マックはじれったそうに言う。

「あぁ、分かった分かった。じゃぁよ、こっちから訊くから答えてくんな。まず基本の基、武装はそれだけかい?」

「いや、弾数は多くないが、RPG-16が一基ある」

 真奈美の答えにマックは椅子からずり落ちかけた。

「戦争でもする気かよ。まぁいいや、マジックバッグは?容量と数な」

 詩織は真奈美を見た。真奈美は黙って頷く。

「マジックバッグは全部で5個です。50号ボストンバッグ一つ、30号バックパック一つ、20号バックパック一つ、10号ポーチが二つです。ポーチは私たちがそれぞれ身に着けてます。全てTFタイムフリーザーWCウェイトキャンセラーが付与されています」

 サイズ1号は容量1000リットルで、当然容量が多ければ多いほど高価である。付加機能であるTF,WCが付けば値はもっと上がる。

 マックはヒューと口笛を吹き、目を丸くした。

「ひと財産だな、それだけでここじゃ10年は食ってけるぜ。でかいバッグは小さいバッグに仕舞っといた方がいいぜ。万が一小さいバッグが攻撃受けて破れても、大きいのが無事なら代用が利くからな」

 マジックバッグは別名、亜空間収納サブスペースストレージと呼ばれており、密閉出来る容器をエンチャントした魔道具だ。亜空間に任意の広さの収納スペースを作り、物質を保管する、エルフの謎技術で、エルフの会社「タジマノカミ鞄店」が有名である。その製品の中でも汎用バッグ”シェルパ”ブランドが人気を博しており、各フィールド都市にも支店を置いている一流ブランドでもある。

「分かりました。ありがとうございます。それから野営道具も一式有ります。4人用テントとシュラフ、コット、調理用具一式と、各種照明器具、サバイバルツール二人分は有ります。今回は採集が主なので、余り大きな機材は持ってきていません。せいぜいPCとカメラの予備、バッテリー予備、交換レンズくらいです」

「これから寒くなるからテントは耐寒用だぜ、鶺鴒はここより冷えるはずだしな。テント内暖房器具とシュラフも冬用。あちぃ分にはいいけどさみぃと命に関わるかんな。予備の毛布も要るな。防寒着もだ。まぁ使わねぇに越した事ぁねぇけど有ると安心だ。あとはポーション類だな」

 フムフムと、詩織はメモしていく。

「そいから、契約内容にもよるけどよ、飯の材料は雇い主が用意ってのがダンジョンの不文律だ。ま、こっちじゃ食料の値段は地上の1/10って言うじゃねーか、よろしくな。おっと、大事な事忘れてたぜ、使わせる事は避けてぇけどよ、予備の弾薬も忘れちゃいけねぇ。地上製じゃ無ぇダンジョン製の弾薬だぜ。弾薬だきゃぁこっちの方が性能良いからよ」

「弾薬は大丈夫だ。5層でたっぷりと仕入れて来た。RPGの弾頭もダンジョン製だ。食料の件も任せてくれ。ただその仕入も明日付き合ってくれ」

「オーケー、任せな。市場スーパーくらい案内してやる。あと細々したもんは雑貨屋コンビニに行きゃ何とかなるか」

「契約の詳細は聞かなくて良いんですか?」

 詩織のセリフにマックは平然と答えた。

「聞くに決まってんじゃんよ。でも、真奈美も詩織も何度も説明すんなぁ面倒だろ?正式契約はメンバー決まって揃ってからでいいぜ。大体の相場と仁義さえ守って貰えりゃ別に文句は無ぇし。人数も、もしルイルイの野郎がついてくれりゃあと一人ってとこか?おっと、来たぜ。おーいルイルイこっち面貸せや」

 噂をすればと言う奴で、ちょうどルイが入口の暖簾をくぐって入って来たところだ。

 頑丈一点張りの、煤けたような艶の無い火蜥蜴サラマンダーレザーアーマーはライダース仕様。揃いのロングブーツ、ジョー程ではないが背が高く全身バネのようなしなやかさがある。

 顔の下半分に巻いていた濃い緑色のストールを下ろし、サングラスのようなHUD戦闘用眼鏡タクティカルゴーグルをぼさぼさの黒髪ロン毛に押し上げる。意外なほど線の細い顔立ちの青年だ。

 腕っぷしの強いバイカーと聞いて、何となく世紀末ムキムキモヒカンヒャッハーをイメージしていた詩織はいささか肩透かしを食らった気分だ。勿論ヒャッハーよりはこっちのほうが良いのではあるが・・・

「?」

 全身に纏わりついた砂ぼこりを払い、ルイが近づいて来た。

「仕事仕事」

 マックが空いた椅子に顎をしゃくる。

 ルイは肩に掛けていたライフルの薬室が空になっているのを確認し、長剣と共に椅子の背もたれ付属の銃架に立て掛けた。

「なんだ、今日狩りでもして来たのか?」

 マックの問いに目も向けずに「ああ」と気のない生返事をし、ジョーに軽く手を上げ、視線を彷徨わせてタミーを見つける。

「アレ」

 ほとんど口の動きだけでオーダーをタミーに伝え、改めて真奈美と詩織、マックを見回す。

「何だ?仕事?」

 前評判通りの無愛想さだが、別に悪意がある訳でも含みがある訳でもない様だ。これがデフォルトなのだろう。

「おう、こいつがルイルイ。こっちが真奈美、こっちが詩織、ダイガクのケンキューインさんよ」

 マックの適当な紹介にルイは頷く。

「ああ、護衛か?場所と期間と人数は?」

「上原詩織と申します。こちらは富士岡大学教授、橘真奈美です」

 再び名刺を差し出すが、ルイは受け取らない。

「あ、貰ってもすぐ失くすんで・・・。島崎です」

 軽く会釈。その頭を後ろからタミーが叩く。

「もうちょっと愛想よくするにゃ」

 言いつつルイの前に安ウィスキーのロックを置く。

「場所は鶺鴒山脈にゃん東、期間は一カ月、人数は目の前の二人にゃ。報酬はあんた達で交渉するにゃ」

「他の面子は?」

「今決まっているのはマックさんだけで、あと護衛の方を、二名か三名お雇いしようかと考えております」

 ルイは目の前のウィスキーを一口飲み、グラスを持ったまま他の客の向こうに見える店の掲示板に目をやる。

 どうやら昨日とそんなに変わり映えし無さそうだ。新しい一枚が見えるが、この依頼オーダーだろう。

「いつから?」

「メンバーが決まればすぐにでもと思っております」

 ルイはもう一度掲示板に目をやる。

「道中使った弾薬なんかの必要経費は?」

「慣習通り、消費された分は帰還後清算となります。出発前に携行される消耗品リストの提出をお願いします。それから、雇用期間中の個人の兵装、並びに携行品の故障、損壊、紛失についての責任は雇用者は負わないものとします。期間中に入手した魔石、ドロップアイテム、その他収集した物品、取得した物品についての所有権は原則雇用者に帰属するものとしますが、帰還後査定し、特別に雇用者が権利を譲渡した物があれば、現品及び換金後支払らわれます。現金の場合、雇用者を含むパーティー全員での均等割りとなります。他、期間中使用する予定の消耗品の前渡しの希望がある場合、出発の2日前までに申告をお願い致します。尚消費しきれなかった場合は返却をお願い致します。その他詳細な契約内容は正式契約時にご説明いたします」

 淀みなく事務的に詩織は告げる。大体ダンジョンでの慣習通りだが、戦闘で入手したアイテムについて揉める場合も有る。戦闘で勝ち取ったアイテムはラストアタッカーの物という不文律をげた契約内容だからだが、学者相手ではそれも当たり前というのも最近やっと定着して来た。何しろ、学者はそれこそが目当てなのだからしようがない。

 それから詩織は一番重要な事を口にした。

「報酬は一人頭一日2万DYで30日の予定、追加日数報酬はプラス25%、他危険手当を20万DY、護衛責任者には管理手当でさらに10万DY、予定されていた日程より短い日数の場合、各種手当は日割り計算とさせて頂きます。全て帰還後お支払い致します」

 けして高い報酬ではない。が、安くもない。

「分かった。問題ない。俺でいいなら受ける。ただ、出発は三日後まで待ってくれれば助かる」

「何か用でも?」

 真奈美の問いかけに、ルイは頷く。

「個人的な用だがだめか?」

 今日仕留めた獲物の解体と保存作業という大仕事が残っている。今日狩った獲物は解体して部位ごとに分け、熟成させなければ食べられない。虹鴨の熟成は10日程、これは解体だけして冷凍だ。熟成は帰って来てからになる。ブルとボアの肉は余裕で一月の熟成が必要なので、チルド熟成庫に保存する。部位によっては塩漬けにしておき帰ったら燻製にする用意もしなければならない。他にも冬用の買い出しもあるし、遠征ならばそれなりに準備もいる。

「いや、全く問題ない。ところでルイ、そう呼ばせてもらっても?」

「構わない」

「ルイ、我々は鶺鴒山脈南東の森を中心に、植物採集と分布の調査をするのがが主な目的だ。多少の危険も覚悟しているし、同時に君達に余計なリスクを負わせたくも無い」

 真奈美は一区切り入れ、続ける。

「しかし、我々も遊びや観光で来ている訳では無い。この調査はある仮説を立証する為の調査でもある。それが立証されればダンジョンは更に発展するだろうし、地上もその恩恵を授かれる。そこを何とか忖度して貰えると助かる」

 眼光鋭く斬りこむ気迫で言う真奈美に、ルイは軽く返した。

「結果の責任はあんたが負うなら」

 訳すとどうなっても知らない。ルイはそう言い放つが、こう続ける。

「だが、出来る限りはする」

「それでいい。よろしく頼むルイ、マック」

「あと、どうする?出来りゃもう一人。二人は多いな。少いほうが隠密性は高いかんな。ジャンジャンバリバリ戦闘するわけじゃねぇんだろ?」

 マックは唐揚げを平らげ、詩織と仲良く串肉を頬張っている。

「まにゃみ、さっき言ってたギルド紹介の足持ちハンターが来たにゃ」

 タミーがそう告げ、一人のハンターを伴ってきた。

「じゃぁ俺はこれで、明日の夜また来る」

 ちょうど良い頃合いと、ルイは席を立った。

「頼む」

 真奈美の短い返事を背中に受けてルイはテーブルを離れた。


 真奈美は紹介されたハンターを見て、ホウと口の中で呟いた。

 紅茶色の長い巻き毛は頭の後ろで乱暴に括られ、強い意志を表す瞳はハシバミ色。形の良い唇は真一文字に引き結ばれている。所々改造カスタムが施されたMACSモーションアシストコンバットスーツ=強化戦闘装甲服で細くしなやかな体を鎧っている。真奈美と雰囲気の良く似た美しい女だ。

 武装は肩にベレッタRx4ストームにGLX-160グレネード、腰にはベレッタM9。更に左の腰にはBC鋼製”血桜”シリーズの小太刀を剣帯に吊っている。この武装を一言でマックはこう言い現わした。

「金掛かってるう!このつるペタネェチャン」

 視線に攻撃力があれば、マックは確実に血を吹いていただろう。どこ吹く風で、さらに失言を垂れ流そうとするマックの足を詩織は蹴る。

「連れが失礼した。申し訳ない。まぁ軽く流してやってくれ、私もこの詩織君も被害にあっている。後できちんと教育しておく」

「それはいい。初めに言っておく、私はつい最近まで10層でギャザーをしていた。理由があって15層に移り、さっきここでのハンター登録、コンバートして来たばかりだ。勿論腕に覚えはあるつもりだ。それでいいなら話を聞こう」

 そう言う女ハンターはルイをギルドで睨みつけていたあのギャザーだった。

誤字脱字、読みにくい等あればご指摘下さい。

お読みくださりあざっす!

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