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ギルド

15層 フィールド区 ある渓谷をぬけた湖の畔の小屋


 狭い石造りの地下室で、若い男が武装を確認している。Bar「戦闘民族」でマーボー豆腐を作っていたルイと呼ばれていた青年だ。

 地下室の一方の壁に、数は多くはないが、良く手入れされた銃器が掛けられ、別の壁には工具類、中央には木製の大きな作業台、残る一方の壁は地上へと続く階段と弾薬が収まったキャビネットが有り、もう一方の壁は食糧庫の扉がある。


 一つ、二つ、三つ、四つ。7.62mm×51mmのカートリッジが入った20連マガジンをかぞえる。

 一つ、二つ。続いて4.6mm×30mmの40発バナナマガジン。さらに44口径480ルガーが詰まったローダー、一つ。

 12ゲージのバックショットシェルは5個。

 火蜥蜴の革で作られたレザーアーマーの上に装着したマガジンポーチに仕舞う。

 右腰に吊り下げた特製レッグホルスターに、MP7を拳銃の様に落とし込む。このPDWは特注の延長バレルとダットサイトが付いており、代わりにフォアグリップが外され、フラッシュライトが固定されている。

 左脇にはスタームルガースーパーレッドホーク・グレーモデル。応突の無いつるんとしたシリンダーと、一見自動拳銃の様に見える、改造された四角い7.5インチバレルの下に反動を軽減するためのバレルウェイトを被せたフォルムが特徴的だ。

 今回のメインアームは迷った末、使い古され、所々塗装の剥げた不格好なM14EBRに決めた。バレル下部のピカニティレールにはM26MASSと機関部上部にオプティカルスコープ。

 ミニダンジョン等の閉鎖空間での戦闘を考えて、全ての火器のバレルは可能な限りの消音加工が施された物を使用している。もっとも、MP7以外には気休め程度だが。

 後腰に使い慣れたBC鋼のボウイナイフを閂に差し、背中に父の遺品であるBC鋼ロングソード”デスペラード”を背負えば準備完了だ。

 水筒や携行食、ファーストエイドキット、万が一の時の予備弾薬や野営道具等の備品は昨日のうちにバイクのマジックバッグに積んである。


 今回の狩りは個人的なものだ。地下食糧庫の肉の在庫が寂しくなってきたので「ちょっとそこまで」狩りに行く。メインアームをレミントンM700タクティカル338.ラプアにしようか迷ったが、ついでの小遣い稼ぎにオークかオーガーも狩れれば狩っとこうと思い、SRスナイパーライフルARアサルトライフルの中間のEBRエンハンスドバトルライフルに決めた。338.ラプアマグナム弾が高いのも理由の一つだが・・・。

 PDWはあくまで護身用、レッドホークはまさかの時の保険みたいなものだ。そして本当に頼りになるのはBC鋼ロングソード”デスペラード”、万が一火器が通用しない中ボスクラスが現れても対処できる。何より弾切れを起こさない安心の装備で、すでに体の一部と言って過言ではない。


 ルイは考える。

 ・・・ナナロク一発160DYディー全部で16,000DY、、、ヨンロク一発190DYが120発22,800DY、、、12番バックショット一発180DY10個で1,800DY、、、使うこたぁねだろけどルガー一発330DY12発3,960DY、、、しめて、えーっと、、、、44,560DY、消費税足して約5万・・・

 銃に装填されているマガジンも含めての弾代を暗算する。よもや全弾使う訳が無いとは思うが、願わくば最小消費で最大効果を狙いたい。

 昨日の戦闘民族の臨時バイトを入れても、今月の収入は今のところ全部で18万DYちょっと・・・

 今は亡き親から譲り受けたこの家(小屋)が有るとは言え、ハンター稼業は意外に金が掛かる。

 ちなみにDYとはダンジョン円、極東ダンジョン内の独自通貨単位である。1DYが1円と思って貰えれば良い。通貨はコインが主で、稀に為替が用いられるが、殆どは金、銀、銅の鍍金コインで取引される。

 ・・・燃料魔石コアが今月分で4万DYちょっと、弾代が3万ちょい、食費は何だかんだで4万弱、、、バイクの修理代5万、、、税金と貯金残して、、、って残んねぇ、つか足んねぇ・・・

 節約して来たつもりだが、そもそも収入が少ない。それもそのはずで、この半月はトレーニング以外で家を出ることが殆ど無い、引きこもり生活をしていたからだ。理由は特に無い。無い事も無いのだが、大したものでは無い。たまにはのんびりしよう、その程度である。

 ・・・働こ、、、嫌だけど・・・

 そう、働くのが嫌いなのである。ルイの職業は一応ハンターギルドに所属のハンターだ。ランクはB、達人クラスである。腕は良いのにやる気が無い、そういう奴だ。ハンターという職業がいけない、とルイは言い訳する。冒険者稼業の中でもいわゆる3Kの底辺職だ。曰く、キツイ、キタナイ、キケン。ランクBでもそのイメージは払拭できない。


 もうじき15層にも冬が来る。地上ではないのに何故か昼夜どころか、雨も風も四季もあるダンジョンのフィールド区だが、冬が来れば当然食料が乏しくなる。そうなる前に冬支度とやらをせなばならない。肉や魚は何とか出来ても、炭水化物や調味料の備蓄も欲しい。嫌々ながら動き出したのはそういう訳だ。

 夢のダンジョンフロンティアとは言っても世知辛いのである。


 今日の予定を頭の中で確認する。

 近くの丘陵でレッドコックブルかライオンコックブルを狩る。最低2頭。出来ればスティンガーボアも1頭か2頭狩れれば嬉しい。行きがけの駄賃にオークかオーガーのうろつきそうな森に顔を出し、その後この季節だと、虹鴨の群れもいるかも知れないので、ササキ湖も覗く。ついでにササキ湖の近くでエクスプロージング・スライムの牧場をしている山田の爺さんの安否を確認、、、これは後でいいか、あのイカレタ爺さんを襲うモンスターは居ないだろうし。

 獲物が首尾よく獲れれば量によってはギルドに卸し、ついでに「戦闘民族」に寄って、ハンター依頼の物色をする。昨日はそのままキッチンに拉致られ、料理を手伝わされたが、面白い割に手当が少ないので今日は遠慮する事にする。

 以上、上手くいけばそこそこの稼ぎは出来るはずだ。




 15層第一城塞都市 ギルド総合庁舎


「よう、ぼんず、久しぶりじゃねぇか」

 ハンターギルドの食肉買取主任ブッチャー、熊頭の獣人シンノスケが携帯端末片手にルイに近寄って来た。

「うす・・・」

 軽く頭を下げてバイクのマジックバッグを指す。

「買い取りか?何取って来た」

「ブル1頭とボア1頭、虹鴨3羽」

 言いながらマジックバッグをタンデムシートから外し、買取場のコンクリ床に置く。

「虹鴨?もうそんな季節か・・・早いねぇ、どれ、モノはどんなだ?」

 コンクリ床の上に獲物を引っ張り出す。ルイのバッグは四角い箱型のバッグで、縦40cm横30cm厚さ10cm程の大きさだ。その中から牛程の大きさのレッドコックブルとスティンガーボア、羽が虹色に変化する鶏大の虹鴨が出てくる。

 今日はそこそこの猟果だった。自分用のレッドブルとボア、虹鴨は取って置いても尚ギルドに卸せる量の獲物が獲れたし、

「ワンショット、ワンキル。相変わらずの腕だな」

 効率の良い狩りが出来た。

「偶然、偶然、運が良かった」

「偶然でブルとボアが急所一発で仕留められるかよ」

 半ば呆れながらシンノスケは老眼鏡をかけ、獲物の状態を確認していく。

「いや、止めはこいつで・・・」

 と、背中の”デスペラード”を指す。

「そんなもんで良くもまぁ」

 ルイの装備は刃物以外はどこにでもある装備だ。M14EBRは米軍払い下げのM14をカスタムキットでレストアした大量生産品だし、スタームルガーはもともと安くて頑丈を売りにしている会社だ。MP7は割と高級品だが珍しいと言う訳でも無いし中古品だ。元の値段より改造費の方が掛かっている。背中の長剣と腰のナイフだけはそこそこの財産だが、それでも”デスペラード”シリーズはBC鋼武器の中ではメジャーな部類だ。

「弾代節約できる」

タマタマどっちが大事か良く考えな。おらよ、カウンターに持ってきな」

 携帯端末のタブレットに査定を打ち込み、出て来たバーコード伝票を引きちぎってルイに渡す。

「8万DY?安かねえか?」

 バーコードの下の数字を見たルイは情けなさそうな顔をする。

「昨日、一昨日と大量に狩ってきたパーティが居てな、一時的に肉の相場が下がってんだ。生憎だったな。だが虹鴨の分はかなりサービスしたぜ、何しろ今季初入荷だ。料亭さんが喜ぶ」

「はぁ、しょうがねぇな、またな親父」

 伝票を受け取ったルイの背中に親父のアドバイス。

「ああ、今度はべアディア狙ってこい、高く買うぜ」

 片手を背中越しに振って返事をすると、とぼとぼとカウンターに向かう。ブルもボアも危険度の割にはモンスターとしてのランクは低く、取れる魔石もゴブリン程度の大きさしかない。肉や皮革の方が買値が良い分ゴブリンよりは儲けが良い。

 ダンジョンのモンスターには例外なく、心臓に魔石と呼ばれる魔力核がある。逆に言うと魔石が有る生物をモンスターと言い、それ以外はタダの動物だ。

 この魔石は燃料用魔石コアにカプセル加工され、各家庭、各施設、各動力のエネルギーとなる。その為、相場を安定させないと需要と供給のバランスが崩れ、インフラに影響が出る。そうした理由から魔石はライフギルドで安定した相場で買い取ってもらえ、ハンターの主な収入源となる。なるのだが、質の良い魔石は当然強力なモンスターが宿しており、これを狩るのに経費が掛かる。特にルイのようなソロのハンターは効率が著しく悪く、常にカツカツだ。だからと言って誰かとつるむのが嫌なルイは、それでも一人の方が気が楽と、たまに依頼される護衛仕事以外はソロで狩るのを常としていた。

 今日は魔石目当ての獲物に恵まれず、ルイにとっては比較的相性と効率の良いオークやオーガーと殆ど出会えなかった。元より日帰りの狩りのつもりなので多くは期待していなかったのだが、比較的安価な7.62mmと12ゲージで狩りが出来たのは大きい。今日は運が良かったというのはあながち謙遜ではない。原価千数百DYで8万の売上は、文句を言っては罰が当たろうというものだ。更に数匹とは言え、オークも”デスペラード”のみで倒しており、この魔石だけでも1万DYにはなる。

 我が家の食糧と現金9万DYの収入はソロゆえに丸々懐に入る。しかし、

「足んねぇ・・・」

 実は以前より欲しい物がある。その為に貯金をしているのだが、一向に溜まらないのだ。働いて無いのだから当たり前なのだが・・・

 欲しいのはダンジョン発動機社製小型の装甲装輪バギー、「トロルが蹴っても壊れない」が売り文句の”キラーヴィークル”。ラゲッジを改造して居住スペースにすれば、随分と快適に狩りが出来るはずだ。今乗っているドワーフ兄弟製作所製バイク、”ワイルドスター”の方が走破性も高く気に入ってはいるのだが、数日間のロングハンティングだと、やっぱり安心できる空間で眠りたい。雨の日や雪の日ならなおさらだ。しかしお値段なんと640万DY・・・

 あれが有ったらちゃんとやれるのになー、とは典型的なダメ人間の言い訳である。

「仕方ない、今月はもうちょっとだけ働くか・・・」


 ギルド合同庁舎一階のハンターギルドから階段を登り三階へ。二階は採集、博物調査、地図作成を主な仕事とするギャザーギルドの階だ。三階の半分が生活、生産開発、行政などを担うライフギルド、もう半分が深部探索のシーカーギルドだ。それぞれ役割は違うが、ダンジョンを住処としている全ての種族にとって、どのギルドも無くてはならない存在だ。

 二階に上がる踊り場で、ルイは一人の地上人の女性とすれ違った。気の強そうな娘で、歳の頃なら二十歳を幾つか過ぎた、ルイとそんなに違わないくらいだろう。

 何故か胡乱な目つきで睨みつけられる。個人的には覚えは無いが、ガサツで下品なハンターを嫌う者は多い。インテリ階級のギャザーやライフギルドの者はことさら嫌う傾向が有る。

 彼女も軽武装な所を見ると、おそらくギャザーだろう。戦闘が仕事の中心ではないにしろ、ダンジョンを広範囲にうろつく彼らも当然武装しているが、護衛に渋々ハンターを雇うのもこの職業の者が多い。

 お互いに無言で通り過ぎる。ルイは軽く会釈したが相手は無言で睨みつけたまま。

 気にせず歩き去り、ルイは魔石の売却を済ませて仕事の依頼を漁りに「戦闘民族」に向かった。

用語設定


 エクスプロージングスライム

 体内で液体火薬を作るスライム。ダンジョン内の弾薬はほぼこのスライムの液体火薬を用いる。抽出された液体火薬を更に精製する事で、より燃焼力の高い液体火薬を生み出す。精製法の違いで燃焼速度に違いを出し、燃焼速度の速い物をハンドガン用、遅い物をライフル用等と分けている。尚雷管用の火薬もこのスライムから精製される。


 コックブル

 鶏頭の牛、背中に飛べない羽がある。ミノタウロスの肉は人肉か牛肉か、オークの肉は人肉か豚肉か、コックブルの肉は鶏肉か牛肉かで三大論争を巻き起こしている。また、ダンジョンでは非常にメジャーな食肉で、ただ単に肉と言えばこの肉を指している。


 スティンガーボア

ハリネズミのような猪。ハリネズミのような棘があるが、明らかに猪。頭蓋骨と表皮が異常に硬く散弾では仕留められない。春から夏にかけて肉質が柔らかくなり旬。


 ダンジョン発動機

ダンジョンホールディングスの子会社で、同じ子会社である魔石コンバーターを開発したダンジョン電器産業と共同でMSCエンジンを開発した。


 ドワーフ兄弟製作所

ドワーフが中心となって立ち上げた会社。「地上に追いつけ追い越せ」をキャッチフレーズに、ダンジョンオリジナル商品をジャンルに限らず、世にリリースするベンチャー企業。魔道具系統の製品には一定の評価が有る。

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