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来訪者

 5層 始まりの街 

 市街中心地から少し歩いた場所にある歓楽街、「ダンジョン横丁」。

 開発当初は何でもかんでも頭に「ダンジョン」「ゴブリン」等センセーショナルな名前をつける傾向があり、この煤けた飲み屋街も御多分に漏れない。

 猥雑な雰囲気と何故か居心地の良い温かみが同居する不思議な街は、入れ替わり立ち代わり出入りする荒くれた人々を、何時だって大きな包容力で迎えてくれる。

 

 まだ朝も早いと言うのに居並ぶ飲み屋の店先からは、酔客の大きな銅鑼声が響いている。無理もない、ダンジョン横丁は基本24時間年中無休が売りの街だ。ここを魂のねぐらにしている者たちの半数は夜に活動している。

 モンスターを狩り、素材を集め、ギルドに売る。自分の命をベットして一攫千金を夢見るパラノイア達をここではこう呼ぶ。

 

 冒険者と。


「ビールだビール!狩りの後のこのイッペェはたまんねーわ」

「でよ、俺はその時言ってやったわけよ・・・」

「生意気な事言ってんじゃないよ!コボルド風情があたいの銃口から逃げられる訳ないじゃないか・・・」

「来月のゴブリン神社の縁日でよ、俺出店出そうと思うのよ・・・」

「うっせーこのクソドワーフ!表出やがれ!」

 地上人、エルフ、ドワーフ、フィルニー(フィールドロマニー=小人族)獣人、様々な種族が入り混じり、一つの卓を囲み、飲み、しゃべり、罵り合い、殴り合っている。

さながらカオスな状態だが、ここの連中にはいつもの風景、平常運転だ。


 その見慣れぬ客も、縄のれんの掛かったスイングドアを押し、店に一歩踏み入れるなり、圧倒的なエネルギーに気圧されたように一瞬立ち止まった。

 大きな女だ。

 丈夫そうな革のパンツにコットンのシャツ。くたびれた革のジャケットを羽織っているが、明らかに冒険者ではない。

 冒険者はギルドに納品の後は真っすぐ飲みに来るのが習性だ。つまり重武装のまま店にいる。

 ある者はプレートメイルに身を包み、分隊支援火器、両手斧。ある者は軽装甲鎧にアサルトライフル、片手剣。またある者はタクティカルプロテクターにサブマシンガン、短槍等だ。

 女は丸腰だ。グラマラスな体を強調するようなピッタリとした服装に、武器のシルエットは無い。

 その大柄な女は一瞬のためらいの後、何事も無かったかの如く店の奥のカウンターに歩を進める。

「いらっしゃい」

 小柄な犬人のマスターが値踏みするようにつぶらな瞳で女を迎える。

「ギルドの紹介で来た。15層のフィールド区を案内出来るギャザーと護衛のハンターを紹介して欲しい。この店で口を利いてくれると」

「飲み屋に来たらまず飲み物を頼むってのが筋だと思うが、地上じゃ違うのかい?」

 チワワ頭のマスターは興味が無さそうに視線を逸らす。店の奥からドワーフの少年が客のクリーニング済のスナイパーライフルを運んで来た。

「ユリ!クリーニング終わったぜ!」

 どうやらこの店は、客の武器の簡単なメンテナンスもしているらしい。将来ガンスミスを目指す若いドワーフのいいアルバイトや、修行にもなるのでこうしたサービス提供する飲み屋は多いと聞く。

 マスターの声に、客席から返事がある。

「あいよー」

 若いエルフの女が良い感じに酔った風体で銃を受け取り、ガンケースに仕舞う。

「ジンベーは腕がいいからね!安心出来るわ~、はいチップ」

 それでもカウンターにきっちり料金とチップを置き、席に戻ろうとするエルフを、ジンベーと呼ばれた少年ドワーフが呼び止める。

「いつもあざっす!ユリさんそろそろバレルの代え時っす。マガジンハウジングも少し摩耗してるんでそれも気を付けといて下さい。出来ればオーバーホール出した方がいいっす!」

「そうかい、あんがとよん。考えとくわ」

 そんなやり取りを黙って見ていた女は一本の酒瓶を指さした。

「マスター、そいつをくれ、ロックで」

 指さした先にはエメラルドグリーンの美しいボトルが鎮座している。

 マスターは「ホウ」と感心したように口をすぼめ、ボトルをその小さな手に取った。

 トクトクトクと旨そうな音と共に無色透明な液体がグラスに注がれる。と、同時に

花が開くようにえも言われぬ香りが広がった。

「こいつを選ぶたーあんた通だな。すっきりとした滑らかさにクリアな味わい、だが飲むにつれ独特のミネラル豊富な風味が広がる。そして訪れるアーモンドやカシューナッツのような香ばしいアフター」

「ああ、これを置いてるのは驚いたよ。今じゃ幻の酒だ。カリー春雨、最高の泡盛だ」

 女は一口ゆっくりと味わい、何かを期待する目をしているマスターを見下ろした。

「なんだ?ああ、すまない。こういう事は慣れてなくてな」

 グラスを置き、チワワ頭に手を伸ばす。

 急所である耳の後ろを撫でられたマスターは満足そうに眼を細め、口の端からペロリと舌をのぞかせた。

「ところでさっきの話だが」

 仕事の顔に戻ったチワワ頭は、今度は申し訳なさそうに女の顔を見上げた。

「実は今腕のいいのが全部出払ってる。25層に新種のモンスターと薬草が見つかってな、飛んだゴールドラッシュさ」

「まったく居ない訳じゃないだろ?」

 うーんとチワワ頭は難しく唸る。

「そりゃそうだが、この層に居る連中じゃ15層はちと荷が重いしなぁ。いっそのこと直接15層に行って交渉すんのが一番早いかもな」

「伝手は頼めるか?」

 女の言葉にチワワ頭は目を眇める。

「解った、これでどうだ」

 今度は両手を伸ばし喉元、首の後ろをワシャワシャと撫でまわす。

「ヘッヘッヘッヘ」

 思わずうっとりと声を出すチワワ頭。

「チッ、やるじゃねーか。分かったよ、紹介状を書いてやる。それを15層の第一城塞都市にあるバーのマスターに見せな。あいつにゃ貸しがあるから何とかしてくれるだろ」

「ありがとう、店の名前は?」

「ああ、エルフの兄ちゃんがやってるバーで、確か名前は・・・」

どんな世界感やねん・・・

だいぶ遊んでます。

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