吸い込みすぎてはいけない魔法因子
先ほど少女が放ったエネルギー弾らしきものは、ただの見かけ倒しだったらしい。
意外と常識を弁えるじゃないか。
「これ以上心の声を読んでると何かと疲れるのでもう止めにします!」と少女。
「おう、それがいい。」
「〈魔法術式停止!〉」
さあ、これで少女が俺の心を勝手に読む心配はなくなったようだが、本当かどうか一応確かめておこう。
“まな板”
うっしゃ、大丈夫ぅ。
「じゃとりあえず今から王立病院へ、カイマくんのスキルを調べに行きましょう!」
お、スキルか。
ようやく異世界召喚らしくなってきたな。
お約束的に言ったら、この世界の命運を分かつ程の強力なスキルが手に入るんだろうけど、そんな都合のいいことは期待しないでおこう。
もし大したスキルじゃなかったら辛い。
仮に弱っちいスキルだったとしても、モンスターとたくさん戦って強くなってこの少女の使い魔を卒業、やがてはこの世界を脅かす魔王を討伐して、俺は世界を救った英雄に。
むふふふふ。
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「さあ病院です!」
と病院に着くや否や、レントゲン写真をとるような部屋に連れて行かれた。
「今までスキルを使ったことはありますか?」と魔術師のような格好をした医者が俺に聞いた。
「いやないです。」
「ではまず思いっきり息を吸い込んで、そのまま止めてください。」と医者は、本当に肺のレントゲンを撮るのではないのかというような指示を出す。
一応俺は言うことに従った。
「今度は息を止めた状態で、空気ではない何かを吸い込んでみてください。」
何言ってんだ、この医者。
と言いつつも俺はこの高度な要求に従ってみる。
体をのけ反らせたり広げたりして何かを吸い込んでる風な姿勢にしたり、既に空気がたっぷり吸い込まれている肺付近に力をいれたり、目を見開いたり。
この一連の作業を、俺の息がもつ限り繰り返し続け、ついに肺が新しい空気が欲しくて我慢できなくなった時、それは起こった。
何か熱いものが俺の胸に流れ込んでいく感覚。
俺は驚いて息を吐き出してしまったが、その熱いものは俺の中に流れ続ける。
心臓からその熱いものは俺の体内に入り、血管を巡って全身が熱くなる。
キムチ鍋を食べたときのような、体の芯から暖められる感触に似ていて、とても気持ちいい。
これがこの世界の『力』なのか。
今なら火炎放射やら雷撃やら撃てそうだぜ。
ただ一つ疑問なのが、
どうやって体温下げるんだ?
いい感じの体温になっても、その熱いものは際限なく俺の心臓に入って全身を駆け巡り、俺の体温は着実に上がっていく。
いや待てこれは熱すぎる。
力がみなぎるぜ!とかそんな少し興奮して体温が上がったくらいのレベルじゃない。
意識がもうろうとしてきた。
まずい、これ
「マナ吸収による体温の異常上昇を確認。生命活動停止の虞あり。」と機械音声らしいものが淡々と現状を言う。
それに伴い赤い光が回り、サイレンが鳴り響き始めた。
医者は俺の首筋に針のようなものを刺し、俺は意識を失った。
明日あたりにようやくカイマのスキルが明かされる予定ですのでお楽しみに。