バカにしてはいけない異世界人
もうしょうがないですね!養ってあげますよ!
なんて突然ラディナが態度を翻すはずもなく、
「まんまもまみまむまめまみめみゅみょまーま!」
相も変わらずマ行の音だけで構成された言葉を発し続けていた。
あなたを養うわけないですよバーカ!って言ってるのかな?
じゃ、今すぐこの紙を教会に届けに行って、養わざるを得ない状況をつくりだしましょうか。
「またあとでな、ご主人様」
善は急げということで、この街の中心に高くそびえ立っている教会へと俺は足を向けた。
ところで、この「足を向けた」って表現すごく大事。
「足を向ける」って本来の意味としては目的地に行くことを言うんだろうけど、俺は今、ただ足を教会の方向へ向けたまま次のモーションをとれずにいた。
端的に言えば、足が上がらない。
静かに吹いている風を感じることはできているから感覚はまだ残っているのだが、引っ張りあげようとしても、まるで足が地面と繋がっているかの様に微動だにしない。
おかしいな。
ラディナは猿ぐつわを付けられていて詠唱ができないから呪文を発動はできないよな。
それなのに何故体の自由が効かないんだ?
「あれ~!?教会に主従証明書届けなくていいんですか~!?」
そんな声が耳に届いた。
その声は、ラディナの透き通る声とは違い、耳障りの悪い、がらがら声と形容されるよう響きを持ち、ラディナのカナリアのような高い声とは違い、地響きのように辺り一面に轟く低い声だ。
声色だけ聞けば、これは明らかに男性が発した声であろう。
しかし俺は、その説を棄却せざるを得ない。
独特の息づかい、敬意を表しきれていない敬語、間延びした語尾、無意味にハイテンションな喋り方、声色が変わっても滲み出る数々の特徴に、俺は目を背けることができなかった。
これ、どう考えてもラディナの声だ。
「まさかっ」
俺は上半身をラディナがくくりつけられた木の方へひねり、猿ぐつわが外されてしまったのか確認。
しかし、ラディナは猿ぐつわに縛られたまんまだった。
そして俺は、ラディナが異世界人であるのだということを改めて思い知らされた。