逆らってはいけない異世界召喚
何事も状況確認だ。
まず、ここはどこだろうか?
見た感じ、中世ヨーロッパを彷彿させるような、土色の建物や出店が道沿いにズラリと並んでいる。
そして今俺が向かっている方向に、一際背の高い教会がそびえ立っている。
推測するに、この街の真ん中にあの教会があって、そこから放射状に通りが広がっているのだろう。
では第二の疑問。
なぜ俺はここにいるのだろう。
そもそも俺は高校の午前の授業が終わって、購買で惣菜パンを買うつもりだった。
『おい、はよしろ。パンなくなんぞ。』と隣のクラスの寺坂が廊下から俺を呼ぶ。
『今財布とってるから待て。』と俺返す。
『待たせたな。いや~倫理の久保、毎回あと三分待ってって授業延ばすから。』と愚痴をこぼしながら教室のドアをくぐって、
気がついたらここにいたと。
さてこれは夢かうつつか。
しかしそれを確かめるべく頬をつねることはできない。
何故かって?
俺には手枷口枷がつけられているからさ。
そして俺は今、耳の尖った金髪の少女に連行されている。
口枷がつけられているから質問しようにもできない。
意味が分からん。
「さぁ着きました!」と少女が嬉しそうに言う。
どこに着いたかというと、占い屋みたいな暖簾がかかっているいかにも怪しそうな店だ。
看板すら出ていない。
少女は俺を連れて暖簾をくぐり、店の中へ入った。
店内も、外装と負けず劣らずの怪しさだ。
そこらじゅうから黒紫色の煙が立ち上ぼっていてキツいお香のような匂いが漂い、棚には色とりどりの液体が入った瓶がズラーッと並べられている。
ところで少女は、
「さっきこいつを召喚したんで使い魔登録お願いします!」
と店主に話しかけ……?
あーなるほど。
少女の発言から察するに俺は異世界、かどうかはまだ分からないけど、へと召喚されたと。
……ただし使い魔として。
これは勇者になって世界の危機を救うみたいな理想の異世界召喚ストーリーは期待できないっぽいね。
でもそうか~。異世界召喚か~。
もし俺が召喚されたら一瞬で状況を理解して環境に順応できると思ってたけど。
意外と気づかないものなんだな。
「さぁ私の使い魔となるべくして産まれた人間よ!私と主従の義を結ぶのですよ!」と少女。
ははっ。ふざけんな。
と逃亡を企図した俺だったが、少女に手枷を引っ張られてあっけなく失敗。
少女は何を思ったか、その勢いのまま俺の腕を強引に自分の顔、正確にいうと唇の前に持っていく。
そして次第にその距離がだんだん近づいていく。
少女の生温かい吐息がゆっくりと腕にかかるのを感じる。
そして
「ふふっ……あなたは死ぬまで私から逃げられないのですよ」
紅蓮に染まった唇を、俺の腕へと押しつけた。
「これで使い魔完成です」