表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
98/248

バベルの世界「妄想」【第2騎士団キャス編】

遅くなって申し訳ありませーーーんヽ(;▽;)ノ

「リヒト姉様!何で、こんな奴を医務室に

 運んだんですか!?」


明らかに不機嫌な口調でリヒトに文句を

言っているのは第2騎士団長のキャス。


「彼からバベル達の情報を聞けると思ってな。

 駄目だったか?」


手を頬に当てながら首を傾げるリヒトに

キャスは口を膨らませる。


むーー!リヒト姉様のあの顔と仕草は反則だよー!

何も言えなくなっちゃうじゃんか!

むーー!でも、よりにもよって人間と行動を

共にしてるチビを連れてくる事無いのにさ。


それに、情報なんか聞くより力ずくで人間達を……、

って、中々難しいかもしれないわよね。

だって、ウィル姉様もグレイ姉様、ウィンザー姉様も

人間共に深手を負わされちゃったんだから。

悔しい…よくも姉様達を!

でも、あの実力は認めざる得ないわよね。


最初あの人間達の情報を聞いた時は噂に尾ヒレが

付いた物だと思ってた。

だって、そうじゃん?

人間が獣人を蹂躙してスラムの掃き溜めと言われている

アテゴレ地区を支配したなんてさ!

この国に住んでいる獣人だったら絶対に信じて貰えない

与太話よ?

けど、実際に会って対峙した時あの人間達の

危険性が本能で解ったわ。


正直、あんな人間が存在するなんて

信じられなかった。

しかも、その人間達は獣人の私達を人間達と同じ様に

奴隷として売買していた。


絶対に許せない!


私もスラム出身で屑みたいな奴ばかり見て来たけど、

それでも助け合って来た友達だって居るの!

そんな友達達が、あんな人間共の毒牙に掛かるなんて

我慢出来る筈無いの!

そして、その人間達と行動を共にしている種族の

裏切り者のガルってチビもね!


人間達と好き放題悪さして、隊長で有る私に向って

チビなんて言ったのよ!

そんな奴が医務室に居るんだもん。

機嫌だって悪くなるわよーー!


もう……でも仕方ないか。

リヒト団長の指示だしさ……ん?なんか外が

騒がしいわね。


何やら医務室の外で誰かが言い合いをしている様だ。

中に居ても外の声が聞こえて来る。


あれ…この声って……あの人間達!?


「此処に、ガルが居るだろ?何故会う事が

 出来ないんだ?」


「彼は、リヒト団長により深手を負っている為、

 面会は出来ません」


医務室の外に出るとセシル隊長が毅然とした

態度で立っており、その向かえにはバベルと

部下達が立っていた。


「お前等は、中に入っているだろう。なのに、

 何故、俺達が入れない?ガルは俺の部下だぞ」


「リヒト団長に入れるな、と言われております。

 なので入れません」


セシル隊長がキッパリと言うとバベルの後ろに

居た部下達が前に出て来た。


「バベ~、もう面倒だから皆殺しにした方が

 良くないぃ?」


その言葉に反応するかの様に他の部下達も

武器に手を掛ける。

セシル隊長も腰に下げている短剣に手を掛け

戦闘態勢だ。


ちょ!!あいつら正気!?こんな所で殺し合いなんて

したら大惨事になるじゃない!

普段は温厚なセシル姉様も人間達の殺気に当てられて

冷静な判断が出来なくなってる!


「ちょっと!アンタ達、セシル姉様に何してんの!?」


「キャス!?」


驚くセシル姉様の前に飛び出して声を荒げる。


「此処は、武闘会関係者と怪我人しか入れないの!

 それに、アンタん所のチビは犯罪者でしょ!

 大会で負けた以上、聴取を取る義務があるの!

 解ったら、さっさと消えなさい!!」


人差し指を真っ直ぐバベルに向って言い放つキャス。


「……正直者だな。成る程…聴取か。

 なら、言伝ぐらい良いだろう?」


「何よ!?言って見なさい」


「ガルに、聞かれた質問は全て話して良い…と

 伝えてくれ」


何、それ?黙秘せずに全て話して良いって

言っている訳?

普通、こーゆう犯罪者達って黙秘するわよね?

ま…まぁ、真偽は、どうあれ情報が

すんなり手に入るのは良い事……なんだよね?


「それと、聴取が終わったらガルを返すと

 約束してくれないか?」


「はぁ?私達が犯罪者の人間の約束なんて…」


と言いかけた瞬間、バベルの顔がブレ始め顔が

認識出来無くなってきた。


えっ?えっ!?何これ!?

なんか人間の顔が良く解らなくなって来たんだけど!

さっきまでハッキリと見えてたのに!?


「別に約束を破っても構わん。だがな、

 破った瞬間、完全に敵対関係だ。

 四六時中この国の兵士や騎士を狩り始める。

 王族だろうと貴族だろうと関係無しにな」


ッッ!?

何こいつ…さっきまでと雰囲気が別物じゃない…。

それに、声が変!?

老人の声や子供みたいな声が一気に同じ事を

言っているみたいで混乱する!


「そ、そんなの私の権限じゃ…」


「関係無い。俺は、お前に言っている。

 良く考えろ。

 お前の行動一つで、この国は内紛状態になるんだ。

 友達、愛する者、大勢死ぬぞ。

 お前の行動一つでな。

 答えろ。約束するのか?しないのか?

 今、言え。さぁ、言え」


捲し立てる様にバベルが言う。

それに戸惑っているとセシルが割って入って来た。


「解りました。私が約束します」


「セシル姉様!?」


「私がリヒト団長に掛け合いましょう。

 必ず返す様に、と。

 それで良いかしら?」


真っ直ぐバベルの眼を見て言い放つセシル。


「良いだろう。約束だ。じゃあ、嬢ちゃん

 闘技場でな」


さっきまでの威圧的な雰囲気が消え笑いながら

バベル達は去っていった。


「セシル姉様…御免なさい。私のせいで」


シュンとしているキャスに優しく微笑むセシル。


「気にしないで、キャスちゃん。

 私が掛け合えば何とかなるわよ。

 それに、可愛い妹みたいなキャスちゃんに

 負担は掛けられないしね」


パチッとウィンクをしながらキャスの頭を撫でる。


「セシル姉様…」


「さぁ、キャスちゃん。あの人間に一泡吹かせて

 あげなさい」


「はい!!」


そうして、キャスは闘技場に向かっていった。


◇◇

◇◇◇



闘技場に立つと既に、そこにはバベルが待っていた。


「さっきぶりだな。お手柔らかに頼むよ」


バベルはニヤニヤと笑っている。


嫌な笑顔ね…本当に腹が立つわ。

騎士団の隊長を前にして余裕ぶってさ!

確かに、さっきは動揺しちゃったけど戦闘になれば

こっちの物よ!

前の試合では、他の人間に何かして戦わせたみたいだけど

此処には、私とバベルしかいない。

他人に戦わせるぐらいなんだから戦闘には

不向きと見るわ!


「それでは、双方宜しいですか?では始め!!」


審判の開始の合図とキャスは莫大な魔力を

放出する。


「ハァァァァァァ!!」


ドンドン魔力を放出しながら濃度を濃くしていくと

放った魔力がキャスに纏わり付き徐々に武具として

形成されていく。


「ほー、何か凄いな」


バベルが感心しているとキャスに纏わり付いていた

魔力の霧が晴れ、全身に鎧を纏ったキャスが立っていた。

その光景を見た観客から歓声が上がる。


「どう?魔力を具現化した鎧よ。高密度に圧縮しているから

 ドラゴンのブレスにも余裕で耐えられるわ」


ふふん!どうよ!

こんな事出来るのは国で私だけなのよ!

元が魔力だから重さなんて感じ無いし、身体能力も

上がるんだから。

アンタなんかボコボコよ!!


「………」


ふふ、声も出ないみたいね。

顔も青ざめちゃって、さっきまでの威勢が嘘みたい。

所詮、人間よね。

きっちり、姉様達の苦痛を味わって貰うわ!


ドンッと闘技場の床を蹴ると一気にバベルの死角に

入る。

その速さに、バベルは反応出来ずにいた。


「ッッ!?」


「気付くのが遅いのよ!」


バベルが気付いた時には、キャスは既に戦闘態勢に

入っており、そのままバベルの脇腹に拳を打ち込んだ。


バキッ!ベキッボキッ!!


「うごっ!!」


キャスが放った一撃でバベルの肋骨が数本砕ける

音がした。


弱っ!!何、こいつ!そこら辺の人間より

弱いじゃない!!

やっぱり、この男は強い部下に守られて好き放題

してただけって訳ね!

あんだけ威勢が良かったのに戦ってみたら話に

なんないなんて恥ずかしい人間。


キャスの一撃を受けてバベルは蹲り脂汗を

流しながら話しかけて来た。


「ま、待て…今ので骨が何箇所か折れたみたいだ…。

 もう…戦えない…」


脇腹を押さえ涙目になりながら許しを乞う。


はぁ?何言っちゃってんの?こいつ。

本当にダッサイ人間。

あれだけの事件を起こしておいて自分が危なくなったら

命乞いなんて……マジで糞野郎ね。


「何言ってんの?試合は始まったばかりよ?

 それに…姉様達に酷い事した償いはしてもらうわ!!」


バベルの命乞いを無視して顔面に拳を叩き付ける。

殴られたバベルは、闘技場の隅まで飛ばされるが

直ぐに間合いを詰めて反対方向に殴り飛ばす。


バベルが殴られる度に観客から歓声が飛ぶ。


「ぎゃはははは!イイぞ!もっと殴れ!」

「情けねぇ人間だぜ!」

「キャス隊長良いぞーー!!」


ふふん!当たり前じゃない!私が人間に

負ける訳ないじゃん。


ふと、会場を見渡すとキャスを応援している隊長達が

居た。


「キャスちゃん、良いわよ~」

「おっしゃあ!もっと殴ってボコボコにしな!」

「うむ!流石だぞ」

「その者は犯罪者だ、殺しても構わんぞ!」

「僕の分も殴ってくれよ!」


あぁ…セシル姉様、ウィンザー姉様、リヒト姉様に

ウィル姉様やグレイ姉様が褒めてくれてる。

嬉しい。

それに、グレイ姉様も眼を覚ましたんだ。

良かった…本当に良かった。


よーーし!もっと、もっと褒めて貰うぞーー!!


キャスは観客や仲間の隊長の声援を背に

追い打ちを掛けるようにバベルをボロボロにした。


「た、たにょむ…もう、勘弁しへくれ…。

 このままじゃ…死んじまうよ、許して…」


涙を流しているバベルの姿はボロボロだ。

歯も、殆ど無くなり顔は腫れ上がり着ていた

上等な服はズタボロのボロ雑巾のようだ。


「あはははは!何それ!?ダッサ!本当に誇りも無いのね?

 恥ずかしく無いの?私みたいな幼気な少女に殴られて

 泣きながら命乞いするなんてさ!

 そんな姿をアンタの部下が見たら幻滅すんでしょうね」


「命だけは……か、金なら払うから」


キャスは、軽蔑の眼差しをバベルに向ける。


「本当に救い様の無い屑ね。…死になさい!」


キャスは渾身の一撃をバベルの顔面に叩きつける。

ドゴォ…と闘技場にバベルの頭がメリ込むと数回手足が

痙攣した後、静かになった。


やった…やったわ!悪の根源である人間を倒した!

これで、皆喜んでくれるよね!


キャスは、隊長達に両手を振る。


「お姉様ー!やりました!勝ちましたよーー!!」


隊長達に声を上げると。


「キャスちゃん、良いわよ~」

「おっしゃあ!もっと殴ってボコボコにしな!」

「うむ!流石だぞ」

「その者は犯罪者だ、殺しても構わんぞ!」

「僕の分も殴ってくれよ!」


あはは!もう、お姉様達ったら~。

とっくに試合は終わってバベルを倒したのに

さっきと同じ事言ってぇ。


「何言ってるんですか~?もうボコボコにして

 私が勝ったんですよーー!」


「キャguちゃん、良yflよ~」

「おっjkz;jあ!もzsfってボコボコにしな!」

「うむ!・ヵ¥;zdだぞ」

「その者は¥zrjgp者だ、zm、ても構わんぞ!」

「僕¥ksm殴ってくれよ!」


えっ?な、なんだろう…何か…お姉様達の

声が変じゃない…?

それに、さっきまで観客の歓声が聞こえてたのに

今は全然しない。

なのに、お姉様達の変な声だけが、ずっと聞こえる。

何!何なの!?


「お、お姉様!変な冗談は辞めて下さい!

 何で、そんな事するんですか!?」


キャスは、隊長達に大声で叫ぶがまるで全く声が

届いていないかの様に同じ事を繰り返す隊長達。

次第に動揺と不気味な恐怖がキャスを支配する。


一体どうしたの!?何!?何よ!!

どーなっているのよ!!


「あ゛ぁ゛……いってぇ…」


キャスが会場の隊長達に眼を向けていると

背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「ひっ!!な、何で…」


振り向いた先には、バベルが立っていた。

頭は割れ、顔は判別出来ない程グチャグチャに

なっているのにだ。


「何を驚いでいる?お前が俺を、ごんなに

 じたんだろ?」


一歩、また一歩とバベルがキャスに近づいていく度に

砕けた頭がグラグラと揺れ血が吹き出していく。


「な…何で…、何で生きてるのよ!?だって、

 さっき確実に頭を潰したのよ!?

 それなのに、どうして!?」


バベルが近づくと、キャスは後ずさっていく。


「俺だけ地獄行きは嫌だからなぁ。お前も

 連れて行きたくて戻って来たんだ。

 ほら…地獄の蓋が開いたのが解るだろ?」


「えっ?」


バベルが、そう言った瞬間、誰かに足を掴まれる感覚が

して自分の足を見る。

そこには、無数の髑髏が足を掴み蓋の底に広がる

阿鼻叫喚の世界に引きずり込もうとしている所だった。


「ヒィ!!?なっ!話して!!」


「はっはっ、地獄の亡者達も気に入ったとよ。

 絶対に離さないぜ。なんたって同じ苦しみを

 与えたくて仕方無い連中だからな」


こんなの有り得ない!地獄なんて行きたく無い!!

助けて!お姉様!いやっ!辞めて!!


物凄い力で引きずり込まれていくキャス。

魔法も試した。物理でも殴った。

でも、亡者達は笑いながらドンドン出てくる。


「いやあぁぁ!地獄なんか行きたくない!!

 何で!?どうして、正義の私が!お姉様ぁぁ!!」


亡者の手にまとわりつかれながら、目線を

隊長達に向ける。


「……いや…何で…」


笑っている。

泣き叫ぶ私を見て。

地獄に引きずり込まれていく私を見て。

笑ってる。お姉様達が笑っている。


隊長達は皆、腹を抱えて邪悪に笑っていた。


「いやああぁあぁぁあぁぁぁああ!!!」


『パチンッ!』


会場に乾いた音が鳴り響く。


その瞬間、キャスが今まで見ていた物が全て消える。


「ハッ!ハッ、ハァ…ハァ、ハァ……えっ?」


大粒の汗を滝のように流し涙でグシャグシャに

汚れたキャスの目の前には、試合前と変わらない

光景が広がっていた。


そして、試合前と変わらない服装と嫌な笑顔を

しているバベルが立っていた。


「どうだった?地獄を見た感想は?」


「ハァ…ハァ…ハァ…」


ど、どうなったの…?助かったの?

何が、どうなってるの!?

何で、バベルが無傷で立ってるの!!?

何で!?どうして!?

混乱し過ぎて何を考えていいのか解らない!


明に混乱しているキャスにバベルが声を掛ける。


「医務室前で会った時に、軽い暗示を掛けさせて貰った。

 結構、強烈だろう?

 お前は、ずっと1人で戦っていたんだよ。

 1人で殴って、1人で蹴ってな。

 相手が居もしないのに」


あ、暗示……嘘…あれが、暗示…。

だって、肉を殴る感触や骨が折れる音、

亡者に引き摺られていく恐怖も狂いそうになる笑い声も

血肉が腐った様な匂いもしたのに……。

それが…全部、幻だった…って事。


「お前が殴っていた俺は、お前が作り出した理想の敵だ。

 こうなって欲しい、圧倒的に勝ちたい。

 そーいった妄想が眼に見えただけに過ぎん。

 暗示が掛かっていない者からしたら滑稽だがな」


バベルは、ヘタリ混んでいるキャスに近づくと

顎を掴み顔を上げさせる。


「試合は、どうする?まだ、やるか?」


「…あっ……うぅ…」


「次は…戻れないぞ?」


地の底から響くような声で語りかけると

バベルの顔が、ブレ始める。

それをキャスが見た瞬間、涙を流しながら…。


「もう、止めてぇ!私の負けで良いからぁ!!

 だから、見せないでえぇぇぇぇぇ!!」


涙と鼻水で汚れた顔を手で覆い被し身体を

縮こませガタガタと震えるキャス。


あの、ポジティブで天真爛漫なキャスが

此処まで怯える光景を眼にした隊長達と観客。

そして、その原因の人間。

試合は異様な静寂に包まれながら終了した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ