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異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
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バベルの世界「友達」【第3騎士団ウィンザー編】

「もっと強く傷口を抑えて!!」

「上級ポーションは、まだか!?速くしてくれ!」

「増血剤も足りん!もっと数を!!」

「治癒魔法を掛け続けろ!手遅れになるぞ!!」


会場内に有る治療室で慌ただしく動く物達と怒号。

俺は、今そんな光景を見ている。

目の前で治療を受けている奴は、俺の古くからの

友人……グレイだ。

昔から馬鹿だった俺と違って文武両道の優等生。

誰からも好かれてて戦闘馬鹿の俺とも馬が合った。

そんな俺の友達が今…医務室で生死の境を彷徨っている。


治療専門のセシルが言うには相当危ない状況で

死んで無いのが不思議なぐらいの重症らしい。


そんなの……治療専門じゃねぇ馬鹿な俺でも

見て解る。

腕は逆に折れ曲がり、そこから骨が突き出している。

首は、ザックリと斬り裂かれ鎧で守っていたにも

関わらず身体の骨と言う骨が折れ内蔵も

かなり損傷していた。

グレイの顔だって……あんなに整った顔なのに…

今じゃあズタボロだ……。


「グレイ!グレイィィ!!」


いつもは冷静で取り乱す事なんて無いウィルが

半狂乱になりながらグレイに呼び掛けてる。

流石のリヒト団長も顔色が悪ぃし、キャスも

ずっと泣きっぱなしだ。


クソが!!ふざけやがって!!

あの人間共!!俺の大切な友達を!仲間を!

絶対に許さねぇ!!

絶対に、ぶっ殺す!!

相手がガストラだとしても、あの人間達と仲間なら

100年の恋も冷めるってもんだ!!


「ウィンザー…大丈夫か?相手は…」


団長が顔を曇らせながら聞いて来る。


「問題無ぇよ。相手が、ガストラだろうと関係ねぇ!

 あいつ等は敵だ!!俺の大切な仲間達をズタボロに

 しやがって!

 絶対ぶっ潰す!!」


ウィンザーは、大斧を肩に乗せ医務室から出て闘技場に

向かった。




観客達に囲まれた闘技場に眼を向けると、

ガストラが待っていた。


「……待ってたっす。今日も綺麗っすね」


闘技場に上がる私に世辞を言う人間。

ガストラ・ラベラ。


今まで屈強な奴等と決闘し、その都度勝って来た俺を

完膚無きまで叩き潰した男。

しかも、俺が怪我をしないように配慮なんてしてよ。

騎士としての誇りをボロボロにして…。

俺みたいな筋肉の塊みてぇな女に可愛いなんて

言って……。

俺が初めて惚れた男…。


何で……何で、お前は、そっち側なんだよ…。


「顔色が悪いっすね?大丈夫っすか?棄権しても

 良いっすよ?

 自分もウィンザーさんと戦いたく無いっすから」


「ッッ!!」


「ウィルさんとグレイさんでしたっけ?

 あの二人、大丈夫っすか?

 いやぁ~、立派な方々っすよね。

 ボスさんと京香と戦って最後まで戦い抜くなんて

 中々出来る事じゃないっすよ?」


あぁ……やっぱりだ。

ガストラは、向こう側の人間だ…。

ウィルとグレイを心配するような事言ってるけど、

今の、こいつの言葉は何の感情も入って無ぇ。


俺と戦いたく無い?

下手糞な嘘付くなよ…ガストラ…。

眼が笑ってるじゃねぇかよ。

本当は戦いたくて仕方無いんだろ?

お前に惚れた女を滅茶苦茶にしたいんだろ?

狂戦士なんて言われている俺だけとよ…お前の方が

余程、狂っている戦闘狂だよ。


「ガストラ…俺は、お前を殺すよ…。

 その仲間達もな」


ガストラに宣言し斧を構える。

対するガストラは、本当に嬉しそうに口を開く。


「是非!お願いするっす!!」


刃渡り20cm程の両刃のナイフをウィンザーに

向けて構える。

お互い臨戦態勢になった事を確認し審判が

声を上げる。


「始め!!」


「ウオオオオオオ!!」


審判の合図と共に斧を振り上げ闘技場の

床を抉る様に振り抜くと、大小様々な石礫が

ガストラに襲い掛かる。


「考えたっすねぇ、でも当たらないっすよ」


スッ、スッと全く無駄の無い動きで避けるガストラ。

それでも、次々に石礫を放つウィンザー。


「何度やっても同じ…ッッ!?」


4度目の石礫を躱し一瞬だけウィンザーから眼を

離したガストラは目の前に居た筈のウィンザーの姿が

無いのに気付く。


悪ぃな、石礫はただの目晦ましだ!

一瞬、ほんの一瞬だけ俺の姿が見えなくなれば良い。

そーすれば、獣人のスピードで簡単に

背中を取れるんだよ!


フォンとウィンザーの大斧がガストラ目掛け

振り降ろされる。


「グッ!?」


ガストラは、迫り来る斧に腕で防御しようとする。

腕で防御なんてガストラらしく無いじゃないか!?

防御出来るもんならやってみな!


ガキンッ!!と金属がぶつかる様な音が会場に

響き渡りガストラが吹っ飛ぶ。


今の音!?金属でも腕に仕込んでやがったか!?


吹っ飛んだガストラは直ぐにナイフを構えながら

防御した腕に目をやる。


「危なかったっす。防弾製品や装甲車にも用いられる

 炭化ホウ素を加工した物じゃなかったら腕事

 持って行かれたっすねぇ」


チッ!やっぱり、何か仕込んでやがったか。

しかも、何か訳分かんねぇ金属らしいな。

普通の金属なら腕だけじゃなく勝敗も決まったのによ!

けど、俺の斧をまともに受けたんだ。

ガストラの腕だって、ただじゃ済まねぇだろ。


実際、ウィンザーの攻撃を防いだガストラの

腕は骨に何箇所かヒビが入っていた。


「まだまだ行くよ!!」


さっきみたいな石礫の陽動は、ガストラみたいな

猛者には、もう通じないだろうな。

それなら、本来の戦い方で行くしかないね。


ガストラに一気に近付き間合いを詰め斧を

振るう。

しかし、初めて戦った時の様に力任せでは無く、

少しでも不穏な動きをした瞬間、一時離脱し

また間合いを詰め攻撃する。

時には、フェイントを混ぜ、時には、間合い近くで

得意の火魔法を使用しガストラを翻弄する。


「おぉ!!成長してるっすね!流石っす!!」


「当たり前だ!負けっぱなしは商に合わないんだよ!!」


俺は、あの時…ガストラに負けてから一から鍛え

直したんだ!

お前に勝つ為だけに!!


スパンッ!


ウィンザーの苛烈の攻撃を避けていたガストラだったが

斧の攻撃と魔法攻撃の併用により避けきれなくなり

斧の切っ先がガストラの顔を薄らと斬り裂く。

いくらガストラが異常集中と言う能力があったとしても

避けきれる攻撃では無かったのだ。


傷自体は全然大した物では無かったが、

衝撃でガストラのトレードマークで有る

サングラスと顔を隠していたマスクが吹き飛び

素顔が現わになる。


「ッッ!?…ガストラ……あんた…顔が…」


「ヒッ!!」

「な、何だよ…あの顔…」

「化物…」


ガストラの素顔を見てウィンザーは戸惑い、観客達は

小さく悲鳴を上げた。


「あぁ~、見られたくなかったんすけどね。

 特にウィンザーさんみたいな美しい方には」


素顔が現わになったガストラの顔は眼を

背けたくなるような酷い傷跡で、顔や首の

半分は焼け爛れ、唇の一部が存在せず、

歯と歯茎が剥き出しの状態だ。

火傷の影響なのかガストラの左目は白目に

なっており失明している事が解る。


「酷い顔じゃ無いっすか?脱ぐともっと凄いんすよ?」


ケラケラと笑うガストラに何と言って良いか

解らない。


「…ふふっ、ウィンザーさん、そんな顔しないで

 下さいよ。

 確かに酷い傷っすけど、自分は兵士っすから。

 こんな傷、当たり前っす」


兵士だから当たり前?

何言ってんだよ!

一体どんな戦い方して来たら、そんなヒデェ傷を

負うんだよ!!


「まぁ、その代わり実の息子に化物なんて

 呼ばれちゃいましたけどね」


「ッッ!!?」


結婚してたのか…いやいや!!そうじゃねぇ!!

何だよ!それ!

実の子供に化物なんて!!

悲しすぎるじゃねぇかよ!!

そんなの……悲しすぎるよ…。


「…本当にウィンザーさんは、純粋っすね。

 そんなに動揺して。

 駄目っすよ?敵の言葉を真に受けちゃ」


いつの間にかガストラはウィンザーの間合いに

入っており気付いた時には腰に手を回され

勢い良く投げられる。


「グアッ!?」


グッ!いってぇ!油断しちまった!

敵の言葉に動揺しちまうなんて!

しかも、今の投げ技って俺が初めてガストラと

戦った時に、やられた技じゃねぇか。


しかし、今回はそれだけでは無かった。

ガストラは、そのままウィンザーに覆い被さり

両手と脇腹にナイフを突き刺した。


「ギッ!?ガアァァァァア!!ムグゥ!」


ナイフで刺された激痛で叫び声を上げる

ウィンザーの口をガストラが塞ぐ。


「あぁ…ウィンザーさん、良い声っす…。

 苦痛に歪む顔も涙で潤む瞳も綺麗っすよ」


ウィンザーは何とか逃げようとするが、

両手が闘技場にナイフと一緒に突き刺さっており、

足も極められている状態の為、逃げる事が

出来ない。


「ングッ!?ぐうぅぅ!!」


「鍛え込まれた筋肉なのに女性らしい柔らかさも

 失っていない…。

 汗の匂いも…香しい…ウィンザーさんの身体

 凄い火照ってるっすよ?

 刺されて感じるなんて変態さんっすねぇ」


馬っっっ鹿野郎!!

誰が変態だ!変態は、テメェだろうがぁぁ!!

こ、この、何とか逃げないと…ヒグッ!?


ビクンッと大きくウィンザーの身体が仰け反る。


ずりゅ…。


「解るっすか?今、ウィンザーさんの脇腹に自分の

 指が入って蠢いているの?

 動かす度にビクッてして……んん?

 肋骨に指が掛かった瞬間、一番反応したっすねぇ」


ハッ…ハッ…ハッ…や、やべぇ…意識が…

朦朧として来やがった…。

ガストラの奴…こ、んな変態野郎だったなんて、

最低…んん!アッ!?…アンッ!?


へぁ!?な、なな何で、こんな声が!!

ヒッ!?ちょ、やめ!!


ガストラが弄ると徐々に顔が赤くなり

自分でも身体が火照っているのが解る。


そんなウィンザーにガストラは顔を近づけ

耳元で囁く。


「ウィンザーさん、こっち側に来ないか?

 君なら歓迎するし、もし来るなら…もっと気持ちよく

 してあげますよ?」


ぎぃぃぃ!!こ、こいつ!いきなり口調変えるなんて

卑怯じゃねぇか!!

それに、仲間に誘うなんて!

こんな、こんな最低野郎の癖にぃぃ!!


「答えは?」


「は、ははっ…答えは、これだよ!!」


ガバッとガストラに振り向き思い切り

鼻を噛む。


「ッッ!?」


鼻を噛まれ一瞬怯んたガストラの横顔に蹴りを

打ち込み今の状況から脱出するウィンザー。


「ハァ…ハァ、ハァ、これが答えだよ!!

 馬鹿ガストラが!!」


「……獣人が鼻を噛むのって嫌悪の現れっすよね…。

 はぁぁ…ちょっと、やり過ぎて嫌われたっすねぇ」


肩をガックリと落としたガストラが審判に

向かって声を発する。


「棄権するっす。自分の負けです」


はぁぁぁぁぁ!!いきなり何言い出すんだよ!!


「何言ってやがる!!俺は、まだ戦える!勝手に

 棄権なんか許さねぇぞ!!」


ガルルと牙を剥き出しにするウィンザーに

ガストラが微笑む。


「君が欲しかったんすけど、断られちゃったら

 もう戦う意味は自分に無いんすよ。

 それに……」


「それに、何だよ!?」


「………自分が顔を近づけても…本気で嫌がらなかった

 女を……殺せる訳無いっすよ」


ボソッと小さく囁くガストラの言葉に一瞬放心したが、

直ぐに理解しウィンザーの顔から湯気が出る。


「あんたって男は……本当に…自分勝手で、

 罪深い野郎だね…馬鹿」


その言葉を聞きガストラは、笑顔で闘技場から

降りていった。

 

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