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異世界ブローカー  作者: 伍頭眼
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バベルの世界「中毒」【第4騎士団グレイ編】

人間と騎士団隊長との戦いは、ウィルの惨敗に

終わった。


その余波は、凄まじく王族貴族だけで無く国全体を

揺るがす結果となった。

多分、今頃、貴族や王族関係者で今後の対応に

追われるだろうしウィルにも何らかの責任を

負わされると思う。


けど、そんな事に成ろうとウィルは僕の友人だし

背中を預けられる大切な仲間だ。

全力で擁護する!!

それに、勝負では負けたが試合では勝ったのだ。

例え、それが、どんな形で有ろうとね。

まぁ…間違い無くウィルは納得しないと思うけどさ。


さてと、そろそろ行こうかな。

ウィルの敵も含めて人間達を叩き潰さないとね。


闘技場に向かっているとウィルが壁に

もたれ掛かりながら立っていた。


「ウィル…まだ動いては駄目なんじゃないかな?」


「グレイ……すまない…私のせいで誇り高い騎士団に

 傷を付けてしまった…本当に…すまない…」


ウィルは、グレイに向かって深々と頭を下げる。

本当に悔しくて、申し訳無い気持ちで一杯なんだろう。

顔は見えないが、ポタポタと涙を次々に落としている。


「……ウィル、僕は騎士団に傷が付いたなんて

 一切思ってない。

 君は、立派たったよ。あれだけの事をされて

 一言も降参の言葉を言わなかったじゃないか。

 君だから、出来たんだ」


本当に、そう思う。

あれだけの拷問に近い事をされてウィルは棄権

しなかったんだ。

悪に屈する事無く戦い抜いたんだ。

恥じる事など無い!!

もし、ウィルに異論を申す者が居たら僕が

斬り捨ててやる!


「だから、顔を上げて…。友人の頼みだ」


そう言うと、涙を流しながら、ゆっくりと

顔を上げるウィル。


「君に涙は似合わないよ」


グレイは、ソッとウィルの涙を指で拭う。


「……グレイが、女性に好かれる理由が解るな」


「ふふっ、僕は、男の方が好みだけどウィルの

 泣き顔も中々そそるね」


「馬鹿な事を言うな。全く」


「ふふっ、やっと本調子に戻ったね。じゃあ行ってくるよ。

 応援してくれよ?」


「あぁ………気を抜くなよ」


グレイは、ニコリと微笑むと闘技場に向かって行った。


闘技場には、既に僕の対戦相手のキョウカ・ケンザキが

待っていた。


「私を、待たせるなんて良い度胸してんじゃない?」


「主役は遅れて登場するものだろ?」


全く、この人間は騎士団の隊長である僕に

恐れるどころか挑発してくるなんてね。

それどころか、戦い自体を本当に楽しみにしている

顔付きだ。

ウィンザーみたいな戦い好きと違って

この女からは狂気じみた感じがするよ。

戦闘好きと言うより戦闘中毒って感じかな?


「じゃあ、始めようか」


グレイは、腰に下げている2本のレイピアを抜き構える。


対する京香は、予選で猛威を振るった鎖鎌だ。


『それでは、始め!』


審判の開始の合図で試合が始まった。


同時に京香は鎖鎌の分銅を物凄い速度で振り回す。

ブゥゥゥゥゥと唸り声の様に回転している

鎖の先端は既に眼で追うことは獣人でも不可能な

程の速度にまで達している。


予選での戦い方を見ていたが、本当に不思議な

武器を使用するものだ。

鎌・鎖・重り…この三つの何処でも調達出来る様な

物を連結して武器に使用するなんて今まで見た事も

聞いた事も無い。

そして、厄介だね。


剣を鎖で絡める事も出来るし、重りを投げて

相手を攻撃する事も出来る。

この女の怪力なら身体に鎖を絡めて

引き寄せてから鎌で斬り裂く事も容易に出来るだろうね。


グレイは、京香の持つ武器を観察しつつ

攻撃の隙を伺う。


「んじゃー、行くわよ」


そう言うと京香は、グレイに向かって一直線に

走り間合いを詰めると同時にグレイの足目掛けて

分銅を放つ。


グレイは、その攻撃を慌てる事無く躱すと

足を狙った分銅は闘技場の硬い床を粉々に砕く。

轟音と砂煙が舞った後の床は、オーガ族の

力でも、不可能の程、破壊されていた。


「何度も思うけど、君達って本当に人間かな?

 邪神の眷属とかじゃ無いよね?」


「正真正銘100%人間よ。ほら、どんどん行くわよ」


ドゴンッ!!バコンッ!!ズドンッ!!


まるで、小さな隕石が雨の様に降り注ぐ攻撃。

普通の者なら、あっという間に肉塊と化してしまう

一撃一撃を確実に避けつつ風の魔法を放つグレイ。


「風の精霊よ、悪なる者を斬り刻め!!」


いくつもの風の刃が京香を襲うが、その都度

風圧で相殺されてしまう。


参ったね…、風の刃を弾く所か風圧で

消すなんて夢でも見ているようだよ。


「アハッ!アハハハハハッ!!そんな、そよ風なんて

 無駄よ!」


狂気の笑い声を上げながら攻撃の手を休める事無く

続ける京香。


「なら、これは、どうかな?」


グレイは、2本のレイピアを十字の様に

交差させ詠唱を唱える。

勿論、動き続けながらだ。


「風の大精霊よ、全てを斬り裂く暴風刃を

 この剣に宿せ!ウィンド・スパーダ!!」


「んっ!?」


剣を振った瞬間、大地を切り裂くが如くの

風の刃が京香を襲う。


「げっ!?」


慌てて避けようとするが、もう遅い!

音速を超える風の刃を避けられる訳も無く京香は、

直撃を受けてしまう。


「ハァ…ハァ…少し、魔力を使い過ぎた様だね…。

 でも、お陰で倒す事が出来たかな」


闘技場の上は砂煙が舞い、地面まで切り裂いた様な

後が残っており、グレイが使用した魔法の威力を

表している。

そして闘技場の砂煙が全て消え去った後には、

京香が仰向けに倒れている姿があった。


「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


その光景を見た観客達が歓声を上げ、

騎士団の仲間達も小さくガッツポーズを取る。


だが、倒れている京香を見たグレイとリヒト団長

だけは顔色を曇らせる。


……冗談は、よしてくれ。

僕の最大魔法が当たったのに何で五体満足に

残っているんだ。

あの攻撃を、モロに当たったらバラバラの筈なのに…。


「アハッ!」


声!?

やはり、生きているのか!?でも、どうやって!


京香が、ゆっくりと起き上がると先程までの

歓声がボスの試合と同様にピタリと止まる。


コリッ…コリッコリッ。


京香は左手の甲から肩まで刀傷の様に切り裂かれ

血が滴り落ちている。

しかし、致命傷では無く平然と立ち、あれだけの

攻撃を受けたにも関わらず口元が歪んでいる。


それ以前に京香の行動が理解出来ない。


眼を…指で廻してる?


京香は、笑みを浮かべながら自分の義眼を

指で引っ掻きながらクルクルと廻しているのだ。

この行動は、京香の癖だ。

本当に楽しい時や興奮している時に行う癖。

初めて見る者達にとっては常軌を逸している癖だろう。


「うふふ、さっきは危なかったわ。

 咄嗟に鎖鎌が私に巻きついて守ってくれたみたい。

 本当に魔道具様々ね」


京香の身体を見ると漆黒の鎖が致命傷になりうる

部位を保護しているのが解る。

まるで、自分の主を守るかの様に。

そして、その主に牙を向けたグレイを完全に

敵と判断したのか、京香の鎖鎌は意思を

持った蛇の様にグネグネと激しく動き回っている。


「あら?本当に意思があるみたいね。

 中々、可愛い武器じゃない」


「……一体、その武器は何なんだい?

 僕の最大魔法の攻撃で傷一つ付かず

 まるで意思が有るかの様に持ち主を守るなんて…」


多分、今の僕は相当動揺しているだろう。

だって、そうだろ!?

化物を守る化物みたいな武器が目の前に

あるんだ。

こんなの、御伽噺でも聞いた事が無い!


「うーん、私も良く解んないけどねー。

 そうだなー、私の住んでいた国では年月を経た

 道具は付喪神って言う意思有る物になる

 伝承があるの。

 要は、道具だった物が神様になるの」


…有り得ない…そんな事、絶対有り得る筈無い!

何だ?何なのだ!?こいつ等は!!

この人間達は僕が知っている常識を次々に

壊していく。


「じゃ、今度は数を増やすわよ?」


フォンっと先程と同様に鎖に付いている分銅が

目にも止まらぬ速度で舞い始める。

ただ、さっきと違うのは、分銅と一緒に先程まで

手に持っていた鎌までもが舞っているのだ。

あれだけの大鎌が目に見えない。


ヒィィィィィンっと分銅を廻していた時とは

違う音が辺りに響く。


「本気で行くわよ」


その言葉を発した時には、既にグレイの首目掛け

大鎌が迫っていた。


「ぐっ!!」


ギィン!と金属がぶつかる音がし、グレイの

首ギリギリで静止する。


危なかった!何とか逸らす事に成功したぞ。

京香の攻撃を止めた事により一瞬だが安堵し

緊張が緩む。


「駄目よー、鎌ってのは受け止めるんじゃなくて

 避けないと、ね!!」


そう。

鎌の様な形状は防ぐのでは無く、避けなければ

駄目なのだ。

だが、グレイは防いでしまった。

しかも鎌の持ち手の部分に剣を当てて。

そうなれば、どうなるか?


グレイの後ろには死神の刃が首を狙っている

状態だ。その姿はギロチンに処される死刑囚の様に。


ザシュ!


京香が鎖を引いた瞬間、大量の血が

闘技場を染めた。


「グレイィィィーーーー!!!?」


ウィルの悲痛な呼び声と共に地に膝を着くグレイ。


「ガフッ!?ガハっ!…ハァ、ハァ、ゲホッ!」


首の切断には至らなかったものの、大きく切り裂かれた

傷口からは、明らかに致命傷な量の血液が

流れ出ている。


「頚動脈ね、本来なら助からないけど魔法や

 ポーションなら何とかなるんじゃない?

 けど、棄権しないなら死ぬわよ」


ふふっ…確かに人間の言う通りだね。

もし、このままなら僕は確実に死ぬだろう。

でも、そんな無様な事しない。

してたまるか!!


「ゴフッ…ブフッ…僕は、騎士だから…ハァ、

 降参なん、か…し、ない!」


「グレイィ!!降参してくれ!そのままでは

 死んでしまう!!」


ウィルが必死に声を掛ける。

そんな、ウィルに精一杯の笑顔で答えるグレイ。


ごめん…ウィル。

僕は降参なんかしない。君が悪に屈しなかった様に

僕も決して屈しないよ…。



「なら、死になさい」


京香が放つ分銅がグレイに襲い掛かり…勝負が決した。

会場の沈黙と…ウィルの泣き声と共に。


◇勝者 キョウカ・ケンザキ

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