閑話 驚愕する者達
ボス達の殲滅戦1回戦が終了し続いて2回戦
バベル、ガストラ、ガルの殲滅戦が行われようと
していたが急遽、試合開始の遅れが言い渡された。
理由は、ボス達が戦った闘技場の後処理と
会場の観客達が体調を壊した為だ。
後処理を任された者達は、現場の余りに酷い惨状に
嗚咽を抑えながら処理している。
その状況で次々に運び出される観客達。
運営側の手が回らないのも頷ける。
そして、その人間達の戦いを見て驚愕する者達は、
少なく無かった。
◇武闘会運営会議室にて。
「とんでも無い人間が現れたものねぇ」
今大会で運営を任されている者達が一同に集まり
今の状況を伝える。
張り詰めた空気の中で一番に声を出したのは、
第4プロック担当官ラミア族のミューだ。
「正直、人間達の戦いの後とは思えないわぁ」
「事実だ」
ミューの言葉に言葉少なに答える第3ブロック担当官
ダガール。
彼もまた人間達の戦いを信じられずにいた。
「私も初めてあの様な者を見た。あれは、人間であって
人間では無い」
「おうおう、武人として名を馳せたオーガ族の族長が
そこまで言うのかよ?こっちの人間は相変わらず
大した事無かったぜ。
あ~あ、見て見たかったな~」
そう軽口を叩く男は、頭から二本の角が生え、所々に
鱗の様な皮膚に覆われている戦闘種族として名高い
竜人族の青年、ジーン。
「元、族長だ」
「元でも充分強いじゃん!俺、一度もアンタに喰らわせた事
無いのによ~。人間の女なんかに一撃受けたって聞いた時は、
何の冗談だ?って思ったよ」
「確かに、そうねぇ。大会で無敗だった貴方がねぇ?」
そう言いながら妖艶な笑みを浮かべながらダガールに眼を向ける。
「なぁなぁ!特別ゲストって事で俺が例の人間と
戦うってのは、どうだ?盛り上がると思うしさ」
無邪気な笑顔で大会方針を変えようとするジーンに
ダガールは溜息を漏らしながら忠告する。
「馬鹿な事を言うな。武闘大会の主催はセイント様だ。
勝手に変更なぞ出来ん。
それにな、ジーンよ。確かにお前は、私程では
無いが強い。
潜在能力なら人間に劣るとは思わん。
だがな…お前は圧倒的に経験が足りん」
鋭い眼付きでジーンを睨むダガールに集まった者達は
固唾を飲む。
しかし、ジーンは納得が出来ない。
「……大会方針を変えれねぇのは仕方無いけどよ、
経験が足りねぇってのは聞き捨てなんねぇな!
俺は、村の猛者共を薙ぎ倒して今の地位にいんだよ!
それだけじゃねぇ!他の種族の連中とも何度も戦って
勝って来たんだぜ!
経験なら充分だ!!」
戦闘種族と言われている竜人族の自分が経験不足と
言われ思わず語気が強くなる。
そんなジーンにダガールは一切表情変え無い。
「…それは、試合としての経験では無いか?
私が言っている経験は殺し合いだ」
「うぐっ!?」
殺し合いの経験と言われジーンは押し黙る。
ジーンは確かに強い。普通に考えれば人間に遅れを取る事なぞ
有り得ない。
だが、試合と死合では天と地程に差があるのだ。
「じゃ…じゃあ、あの女は殺し合いの経験が有るってのかよ?」
「有る。間違い無く私より屍を踏んでいるな。
純粋な素手の試合なら私に分が有るが、殺し合いとなったら
どうなるか解らん」
「そん、な馬鹿な!!」
尚も食って掛かろうとするジーンにミューが割って入る。
「案外、本当かもねぇ…私が担当じゃなかったけど、
ククレが担当した第1ブロックの人間も例の女と仲間
なんだろう?
話を聞いた限りじゃ、その男、相手の参加者全員を
生きたまま両腕を切断していったそうだよ。
ククレは殴られた後に、その光景をずっと見せられたってさ…。
そんな事、常人に出来ると思うかい?」
「生きたまま……」
「それにね、私の勘だけど、あの人間達は
私やダガールと同じ数少ない戦争経験者かもね。
人間が300年以上前の戦争に参加なんてしてないと
思うけど…話を聞いている限り戦い方が戦場と
似ているの。
特に、度の超えた残虐行為は相手の士気に関わるからねぇ」
「もし本当に戦場経験者なら国は奴等を甘く見すぎだな」
「……いいかい?ジーン。
戦争や殺し合いを経験している者達ってのはね、タガが
外れちまってるのさ。
私達は、何とか外れずにすんでる。けど、何度も何度も
経験したら必ず何処かが壊れちまう。
多分、奴等は何処かが壊れちまってる人間さ。
だから、間違っても奴等と戦うなんて言わないで。
仲間が死ぬのは、もう見たくないの……」
ミューは悲しそうに笑っていた。
「……解った…、もう言わねぇ。ごめん…」
「私も少し言いすぎた。許せ」
「そうね…ちょっと言いすぎちゃったわねぇ。
うふふ、そんな暗い顔しないで」
ミューは、そう言ってジーンを抱き寄せ豊満な胸に
ジーンの顔を押し付けた。
それに対し顔を真っ赤にしてアワアワしているのを
見ると別の経験も少ないのだろう。
「さて、大会は、まだ始まったばかりだ。
皆、気を抜くなよ!例の人間共は常に警戒しろ」
ダガールの言葉に全員が気を引き締める。




