バベルの世界「決裂」
「まず、この世界でやるべき事は売り手と
買い手を見付ける事だな。」
そう。人身売買の基本中の基本だ。
商品を売る奴が居なければ売るに売れないし、
買い手が居なければ無駄に金が減るだけだ。
商品の移動手段の馬車代・小屋代・食費に諸々と
奴隷にも金が掛かる。
「そんなん簡単だろ?」
「んっ?」
「人間なんか何処にでもいるじゃねぇか?
あいつ等は、金なんて殆ど無ぇから、ちょっと
交渉すれば身内だろうが仲間だろうが、
簡単に売るぜ。」
人間なんて、その程度だ。
金に困れば何でもござれ、スラムの日常だな。
「そんな簡単なら皆その仕事をして値崩れしないか?」
最もな意見だ。
確かに人間を手に入れるのは簡単だ。
だが、売るとなると少し違う。
売る相手っーのは、大体、裏社会の奴だし、
商品だけ受け取って金も払わねぇ奴も大勢いる。
殺されたバルドみてぇに半額なんて言ってくる奴は
まだマシだ。
最悪、殺される事だってあるんだ。
「金を払わねぇ奴も居るし、最悪、殺されるなんて
事も有るからな。
人気な仕事だけど、それなりの経験が無けりゃ
続かねぇ仕事なんだよ。」
「それも、そうだな。」
そう言うとバベルは、煙草に火を着ける。
「フッーーー。」
口に含んだ煙を、勢い良く吐き出す。
「この世界は、素晴らしい。
我々の世界には居ない種族…良い値が付きそうだ。」
「あ?」
どういう事だ?居ない種族って……まさか!?
「こっちに来た瞬間に人間なんぞ興味は無い。」
興味が有るのは獣人や亜人、俺達の世界に居ない
種族だ。
ガル…俺の商品対象は、お前らの種族なんだよ。」
薄気味悪く笑いながら俺の眼を見る。
「な、何いってんだ!?テメェ!!俺達を売るだと!
ふざけんな!!!」
ドンっと力任せにテーブルを叩きつけ声を荒げる。
その声で、店内の客達も視線を送りどよめきだした。
「ふざけてねぇよ、俺は、どちらの世界にも
売るつもりだ。
向こうの世界には居ない種だし、とんでもない
金額に成るだろうな、この世界でも欲しがる
奴は腐る程居るだろうよ。」
その為には、お前が必要なんだよ。ガル。」
正気じゃねぇ…こいつ、俺に同族を売る手引きをしろって
言ってやがる。
俺は、誇り高い狼族だぞ!!
その俺に向かって……!!
歯が欠けそうな程、強く食いしばり親の敵のような
目付きでバベルを睨みつける。
「そんな怖ぇ顔するなよ。人間だって売って
るんだろ?同族だって関係…」
『ガシャーーーーーーン!!』
「ブッ!!?」
喋り終わる前に、テーブルにあった料理をバベルの
顔面に叩き付けていた。
この後、どうなろうと知った事じゃねぇ!!
そのぐらい、頭にきてた。
「!?」
「ゲッ!!?」
「!!!!??」
さすがのボス達も、一瞬何が起こったか解らず、
驚きを隠せなかったみたいだ。
「舐めんなっ!!俺は、自分の種族を誇りに
思ってんだ!!テメェ等みてーな同族売りが
調子に乗るんじゃねぇよ!!!」
ワナワナと拳を握り怒りをあらわにする。
「いいか!この世界じゃ同族を売る奴も買う奴も
居ねぇーんだよ!!しかもテメェ等みてぇな
誇りもへったくれ無ぇような奴なら尚更だ!!」
店内に居る客は、全員ガルを見て酒の手を止めている。
「テメェの話を聞いてた俺が馬鹿だったぜ!!
ぜってぇ仲間になんかなんねぇよ!!!」
席を立ち出口に歩き始める。
「ちょ、ちょっと、ガルちゃ…。」
ガルを引き留めようと声を掛けるが、既にガルの手は
扉に手を掛けていた。
「バーーーーーーーーカ!!!!」
『バッターーーン!!』
何とも子供っぽい捨て台詞を吐いて店を出ていって
しまった。
そして、嵐が過ぎたように店内は静寂。
「振られちゃったねぇ、諦めるぅ?」
顔面に料理を、ぶちまけられ床でひっくり返ってる
雇用主に問い掛ける。
「クッハハ、男ってのはな、一度振られる方が
燃えるんだよ。」
なんとも格好のつかない姿で、そんな事を言うバベルに
深い溜息をつくボスであった。